67羽:古賀姉妹の憂鬱
「では、あなたが……」
「はい、私は古賀 芽衣子。この子の姉です」
「私は妹の成子ね。よろしゅ~」
近くの喫茶店に入り、話を伺うことにした恭介達。
『怨念髑髏』の脅威は未だ未知数であり、本来はこういった場所を使うのも少し躊躇われたのだが、あまり刺激するのは得策ではない。離れた席には修と小栗が待機し、いつでも動けるように監視は続けている。小栗は大盛りのパフェを頼んでご満悦だ。……あれは後で経費で落としておこう。
「しかし、めいこちゃんにこんなところで会うなんて。どしたの?」
「どうしたもこうしたも……何か騒ぎになってると思ったら、その中心にせいちゃんがいるから」
「あはは、ごめんね」
姉妹の掛け合いにしばし耳を傾ける。
後から合流したのは姉の芽衣子さん。彼女は今年大学2年生、妹の成子とは4歳違いらしい。どちらも大人びた雰囲気だが、妹の成子はまだ高校生だった。
少し落ち着いたのか、芽衣子が長髪を掻き上げ水を少し口に含む。
妹と比べて派手さはないが、顔立ちは整っている。眼鏡に帽子、ロングスカートの装いなどを見るに、服装や態度も真逆な、大人し目な印象である。軽い感じで謝る妹を優しくたしなめる姉。確かに身内が騒動のど真ん中にいれば驚きもするだろう。
「ええと、お姉さんもいる時に何だが、話進めていいか?」
「うん、いいよ~。もしかしたら関係あるかもしれないしね」
「え?」
「それって……」
成子が承諾し、何か重要なことをぽろっと口走る。
今回の『怨念髑髏』騒動、まさか姉妹絡みで何かあるのだろうか。つい最近兄妹絡みでなかなかしんどい任務、というか激戦があったので、正直今から嫌な予感しかしなかった。
「ん? ……古賀 芽衣子さん? どこかで聞いたような」
「あ、えっと……その、私も特区に来たのは最近なんですけど」
もじもじとばつが悪そうに言葉を濁す芽衣子。恭介には今更だが、どこか彼女の名前に聞き覚えがあった。
「これですね、集団卒倒事件。能研の所員にも被害が出てます」
彼女の口から真相を聞き出す前に応えたのは真代だ。手元の端末を操作し、以前の記録から該当の案件を絞り出したらしい。
「ああ、通りで。確か能力者が特定できず、監視対象として特区に移送された子がいたとか」
「それがすみません……私です」
観念したように声を出したのは姉の芽衣子。
妹の成子はその様子を傍目でジュースをずるずると呑んでいる。姉の方まで何か訳ありと知り、頭を抱えたくなってくる。しかし、もし二人の事件が今回の『怨念髑髏』にまつわる話であれば、逆に一度に解決するチャンスでもある。ここは潔く腹を括るしかないだろう。
「大学で集団卒倒事件があり、その中で唯一無事だったのが芽衣子さんだったと」
「ええ、最初はただ事情を聴かれただけだったんですけど……」
記録には当時の様子が詳細に記載されている。
一人無事だった芽衣子さんは重要参考人として能研で事情聴取を受けることとなった。しかし、感知能力者のアンテナには引っかからず、事件との関係性は立証されなかった。
ただ問題になったのはその後だ。
解散となった直後、能研の一室で捜査に当たった感知能力者が倒れているのが見つかった。後日の証言で、なんと芽衣子さんに能力の反応が見られたと言うのだ。
「ただその後も私は能力者として、明確に判別されなかったんです」
「証言だけでは難しいですよね。複数の感知能力者が見たのであれば尚更……」
「ええ……」
疑われたままの芽衣子さんも気の毒だが、事件の重要人物であることは間違いない。他人に意図せず掛けられた付与、寄生型の能力の可能性も考慮して、しばらく特区で保護観察という形となったのだった。
「お姉さんの事情は分かったけど、妹さんは?」
聞いているのに飽きたのか、ストローの袋に水滴を垂らして遊んでいた成子に恭介が話を振る。
「そりゃ可愛いうちのお姉ちゃんがさ、あらぬ疑いを掛けられ連れてかれたりしたなら、心配にもなるじゃん」
「もう、せいちゃんは大袈裟だよ」
「いやいや、下手したら就職とかにも響くしさ。せっかく頭いいんだし、こんなとこで悪い評価なんかついたら堪ったもんじゃないでしょ」
「それはまあ……」
どうやら姉妹仲は良好らしい。
特区は基本的に能力者以外は自由に移住できない。ただ例外はあり、ビジネスの他にご家族などの近しい間柄であれば、申請を出し特区に入ることはできる。今回妹の成子はそういった制度を使い、一緒に入ってきたのだろう。
「しかし、話聞いてる感じ、同じ案件かもしれないですね」
「あ~、やっぱりそう思う?」
「えっと、同じって……せいちゃんも?」
「うん、私の場合、原因はばっちり見えちゃってるんだけどね……あ」
「ん?」
姉妹に付きまとう黒い靄。
芽衣子の時には明確にその姿を確認できなかったが、対象の意識を奪うという点では、『怨念髑髏』に共通するところはある。同じ線で話を進めたほうがいいのかもしれない。そう思い出した恭介だったが、成子の間の抜けた声に意識を引き戻される。
「どうした?」
「いや、さっきまで私の横に浮いてたあれ、霞んで消えちゃった」
「本当か!?」
「うん。後ろのお仲間さんにも聞いてみたら? 彼なら見えてるんじゃない?」
「あ、ああ……」
感知能力者殺しの力に取りつかれた成子。
当然その目には敏感になっている訳で。あっさり修達が見張っているのはばれていたらしい。後ろを覗くと、修がしきりに首を縦に振っていた。
これで手掛かりが消えてしまった。
結局黒い靄の行方は修の目を以ても追うことはできず、しばらくは古賀姉妹の周辺を探るという了承を得て、この場はお開きとなったのだった。




