64羽:怨念髑髏を討伐せよ
「『薔薇屋敷』の件はご苦労だった」
以前と同じ会議室で、淡々と報告が行われている。
「発生原因だった小栗はこうして能研に引き込めましたし、なんとかなったほうですかね」
「ああ、今回の【A級案件】はクリア。任務達成だ」
「わー……」
無機質な部屋に響く、パチパチと乾いた拍手音の元は、その元凶の小栗だ。
これからチームとして活動する以上、会議に出るのになんら問題ない。だが当時は敵対していた相手を前にして話すことではないような気もする。それでも当の本人はまるで意に介さず、何食わぬ顔で参加している。なかなか彼女も彼女で大物であった。
「しかし、今日もその恰好なんだな」
「私はお姫様なので……これは正装」
「なるほど……まあなんだ、似合ってるな」
「ふふ……」
ふにゃっと相貌を崩し、満更でもない笑みを浮かべる小栗。
洋館での戦闘はまだ記憶に新しいが、その時と変わらず小栗はゴシックドレスを着込んでいる。上機嫌の証なのか、頭の上にはピコンと小さい花が生えており、生き物のようにピコピコ動いている。
小栗が恭介を慕っているのは、もはや全員の周知事項。
女の子はとにかく褒めること! という甘菜からの教えを律義に実行する恭介だったが、それで正解だったらしい。
「いちゃつくのはその辺にしとけ。問題は次だ」
興味なさげに憑神が軌道修正を図る。
支部長補佐である立花から提示された【A級案件】は全部で3件。1件目の『薔薇屋敷』は小栗を押さえ、無事戦力に加えることにも成功した。激しい戦闘を繰り広げた割には小栗も落ち着いており、チーム内での意識の切り替えもできている。上々の滑り出しと言っていいだろう。
しかし、次の2件目は『薔薇屋敷』以上に不穏な雰囲気に満ちていた。
「『怨念髑髏』……感知能力者がすでに3名、その毒牙にかかっていると?」
「能力不明、正体不明……探そうとすれば襲われる。どうしたもんだかな」
『怨念髑髏』とは、もちろん能研側で付けた一時的な呼称に過ぎないが、このまま野放しにはできない、危険な能力者である。何故なら能研にとって、感知能力者の存在は生命線に値するからだ。
能力者の能力タイプは様々あるが、能研では主に4つの型『増幅型』『干渉型』『探知型』『錬成型』に分けて分類している。
一つ目の『増幅型』は、主に元からある能力や物を強化して戦う能力タイプだ。
代表的な例は身体強化能力者だ。単純だが鍛えるほど強くなる、伸びしろがあるタイプと言える。ちなみに精神系能力者も『増幅型』に当たる。恐怖や怒りなど、精神面の要素を増幅させることで、能力として行使しているらしい。なので、恭介は『増幅型』だ。
二つ目は『干渉型』。対象を操作したり、生み出したりできる能力だ。
テレキネシスなどは分かりやすい例かもしれない。能力タイプ的に一番多いことから、一般的に非能力者が持つ能力者のイメージは、大半が『干渉型』と言ってもいいだろう。憑神、千寿、真代、小栗はこれに当たる。
ちなみに同じ回復能力者でも、元の治癒能力を底上げするタイプは『増幅型』、一定の固定された回復能力の場合は『干渉型』になる。なんともややこしいが、別に無理やり分けなくてはいけないものでもない。ここはそういう割り振りや定義付けが好きな人だけが覚えていればいい話だろう。
三つ目は『探知型』。文字通り、人や物を探知する特殊なタイプだ。
感知能力者はここに分類され、数も少ないことから能研では重宝されている。この能力者達を早期に確保できたことこそが、能研が現在のように組織として大きくなれた要因の一つなのは間違いない。 代表的なのは『衛星の目』。支部長補佐である立花の能力だ。最高位の探知能力と高い攻撃力を秘めたS+ランクの異能である。
そして、『探知型』にはもう一つ、転移系の能力者も含まれる。
能力の行使には必ず飛ぶ場所と飛ぶ対象を選ぶ必要があり、そこが主に『探知型』に分類される要素に当たるようだ。甘菜、修などはこれに当たる。修に関しては、転移と感知能力のハイブリッドと言えるかもしれない。
四つ目は『錬成型』。これは『探知型』よりもさらに対象者は少ない。
この能力の最大の特徴は、戦闘特化な能力だと言うこと。特殊な効果持ちの武器を錬成し、おまけにそれを十分使いこなせるような身体強化までが付属している。『増幅型』に分類される、ただの武器持ちの身体強化能力者と『錬成型』の能力者では、よほど実力差が離れていない限り、後者に軍配が上がる。
『錬成型』能力者の平均ランクがAと言えば、その強さが少しは伝わるだろうか。
この能力者達は特区の中でも5区に集中しており、支部長クラスが二人いる1区にも劣らない戦力を保持している。また何か通じるものがあるのか、仲間意識も強いものを持っているのが彼らだ。粗暴な能力者がいても、彼らを決して敵に回すようなことはしないだろう。
以上が能研が定めた、大まかな4つの能力型の概要になる。
そして、今回の相手は能研の要とも言える、感知能力者の天敵らしい。らしい、というのもその能力者において得られている情報が極端に少ないのだ。何故なら感知した瞬間に襲われ、意識をその場で奪われるからだ。
巷では「感知能力者殺し」とも呼ばれている。
立花のような規格外の能力者は例外にして、基本的に感知能力者の効果範囲はそこまで広くない。そのため、基本的には足で稼ぐ細かな捜査が求められる。
だがおそらく探知能力へのカウンター攻撃なのだろう。
その効果範囲に入った瞬間に襲われるため、得られている情報は「目の前に怨念のようなもやがかかった髑髏が見えた」という被害者の発言のみ。ちなみに襲われた所員は数日で回復したが、当時の記憶には混濁が見られ、あまり無理を重ねることは望ましくなかった。
そうこうしているうちに恭介達に回ってきたのが、今回の【A級案件】『怨念髑髏』の討伐である。目的も相手の姿かたちすら把握できていない状態で、いったいどこから手を付ければいいのか。
立花やアズミなどの一線を画す能力者であれば、安全に捜査もできただろう。
だがこれはその後に控える【S級案件】への足掛かりとなるものだ。適任者がいるとはいえ、そこに頼るわけにはいかない。恭介の領域では能力者と一般人の区別はつかないため、相手の能力のトリガーには引っかからないだろう。
「やはり、感知能力者を使って探るしかないな」
「それはそうかもしれませんが……」
結局代わりのアプローチを用意することは難しかった。
それ以外に反応を示さない相手に、まさか呼びかけて挙手してもらう訳にもいかない。囮作戦のような形になるが、その方向性で進めていくしかなさそうだ。
「まあいいんじゃないか、うちには逃げ足の速いやつがいるからな」
「え……」
あっさりと言い放つ憑神の言葉に、修の顔が引きつる。話を聞きつつ薄々嫌な予感はしていたが、全員の目が一斉にこちらに向けられて、思わず声が漏れてしまった。
「逃げ足か怨念か、どちらが勝るか勝負だな」
「もう今の時点で逃げ出したい気持ちなんですが……」
裏方に徹してきた男が、まさかの大抜擢。
力なく呟いた修だったが、その案から逃れること叶わず。今まさに『逃亡者』と『怨念髑髏』のチキンレースが開幕しようとしていた。




