62羽:咲きかたを知ったから
「目覚めたか?」
「…………」
目を覚まし見上げるのは知らない天井。
半覚醒のままぼーっとしていると、ベッドの横の椅子に腰かけていた恭介から声がかかる。小栗は寝たままゆっくりと顔を動かし、部屋の状況を確認する。
小栗がいるのは能研の一室。
ベッドが据えられた、救護スペースとして利用されている部屋だ。小栗は最終的に電磁ロッドで意識を断たれただけなので、目立った外傷はない。ただそのまま放っておくわけにもいかなかったため、この部屋を借りた次第だ。
「ん、私負けちゃったんだね」
「そうだな、下手な真似はするなよ?」
「……もうしないよ」
この一室には恭介の他に千寿、真代、修もいる。小栗を拘束こそしていないが、いつでも対応できる配置についていた。
「今回の件の後始末、概ね親御さんへの説明だがな。聞くか?」
「うん……お願い」
修辺りは未だにびくびくしているが、小栗にはもう反抗する意思はなさそうだ。上体を起こし布団のふちを指先で弄りながら、聞く姿勢を見せていた。
「今回対応したのは社長さんだ。急な要請にも関わらずすぐ時間を作ってくれた」
「うん」
「泣いてたよ」
「そう……」
小栗の顔が僅かに歪むが、恭介は構わず続ける。
「うちの娘には人にない才能があったって。ただの社長の娘なんかで収まる器じゃないって、泣きながら喜んでたな」
「…………」
小栗は無言だったが、若干引いていたのかもしれない。ちなみに恭介以外の面子はここで初めて小栗と一緒に報告を聞いている。千寿などは顔をしかめドン引きしていた。
「まあ反応に困ったことはあったが、対応としてはしっかりされた方だったよ」
そこから告げられる恭介と社長、小栗の父親とのやり取り。
彼はまずは恭介の話をじっくりと聞き、その後深々と頭を下げたらしい。大変申し訳ないことをしたと、親失格ですと自分を責め、一所員に過ぎない恭介に何度も謝った。それを小栗は表情を変えず聞いている。しかし、両手はぎゅっと布団のふちを握り、何かに耐えているようにも見えた。
「娘のしたことは許されない。ただもし、可能であれば働きを以て返させてほしいと」
「うん……」
「宇奈月 小栗、お前にその意思はあるか?」
「ある」
愛されているという自覚があった小栗。
何も親に反発したり、気を引くための行動ではなかったが、いずれにせよ起こした行動への責任は取らなければいけない。彼女の能力は一人でも多人数を相手取ることもできる有用な能力だ。隠密性、という意味では欠けるかもしれないが、彼女を引き込めれば今後の【A級案件】、そして【S級案件】に当たる上で力強い味方となるだろう。
「主任。彼女はこう言っています。チームを預かる身としても、戦力として加われば心強い。……大丈夫ですか?」
「…………」
小栗の宣言を聞き、恭介もチームに加えることはやぶさかではない。
しかし、一度は敵対した相手、心情としては簡単に呑み込めるものではない。特に千寿に限っては、一度は重体になるほどの攻撃を受けている。今は能研の回復能力を持つ所員により、すっかり回復しているが、気持ち的には当然気分のいいものではない。
昨日の敵は今日の友などとも言うが、命がかかる戦場において、本当に信用して背中を預けることができるのか。決してただの感情論と切り捨てて、おざなりにしていい問題ではない。
恭介の問いに応えず、無言で小栗の前に立った千寿。
小栗も顔を上げ千寿と目を合わせる。その直後、乾いた音が響いた。千寿が小栗の頬を引っ叩いたのである。しかも、全力の一撃だったのか、小栗の頬のみならず、千寿の掌も赤く腫れていた。
「これでおあいこ。私は水に流してもいいけど、どう?」
「うん……それでいい。……ごめんなさい」
打たれた頬を手のひらでなぞりながら、その熱さをしっかりと確かめる小栗。
小栗はその後ベッドから立ち上がり、しっかりと千寿に頭を下げ謝った。これで彼女の起こした罪が消えることはないが、次に繋げるための足掛かりにはなったはずだ。
「宇奈月 小栗、14歳。能力名は『嘆きの華』。どうぞよろしくお願いします」
固い顔をしていた千寿もようやく相好を崩し、今度は握手を交わし新たなチームメイトを迎えるのだった。




