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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
2章.芽生えた彩花は静かに揺れる

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61羽:眠り姫に祝福を

 鎌首をもたげて花びらを発光させる薔薇の化け物。


 どうやら恭介を捕らえたあたりから、”技能封印”の対象を変えていたらしい。今の恭介は黒刃は使えるが、黒翼は使えない。つまりはそういうことなのだろう。


 動きを封じられた恭介は、その実力を認めざるを得なかった。


 能研所員顔負けの能力の使い分けにより、エース級の能力者をも手玉に取ってしまう。能力だけでなく、戦況をコントロールする力もあるようだった。こればかりは実際にやってみないと分からないことであり、彼女にはそうした才能があったのだろう。


「あなたも違うのね……」

「そうして、理想の王子様が来るまでここに立て籠もるつもりか?」

「そうね、今の私にはそれしかないから」


 社会的に恵まれた環境にある小栗。


 こうした行動を起こしたということは、今までの生活を全て捨てる覚悟があるのだろう。己の理想を追い求め、その力を惜しみなく使う。決して自暴自棄などではない、確かな意思を感じる。


 最もやがて辿る道は、破滅へと続く道であろうが、彼女は決して悲観しない。


 安易な説得などは今更通用しないだろう。今恭介にできることは、彼女を正面から打ち破り、悲願を叶えてあげること。寂しそうに夢を紡ぐ彼女に、破滅以外の道を示すにはもはやそれしか残されていなかった。


「こっちも仕事だ。お前の言い分に興味はないが、いい加減終わらせるとしよう」

「……今のあなたに何ができるの?」


 蔓で両手両足を封じられ、身動きが取れない恭介。


 過度な暴力は望まない小栗だが、己の夢への道のりを今更降りる気はない。自分にすら勝てない相手には、もはや何の興味もない。うるさい口も封じて、す巻きにして放りだそうと思った矢先、捕らえた恭介の姿がぐにゃりと歪む。


「お前を、救うことができる」


 静かに、だがはっきりと告げられた言葉。それは彼女の後ろから聞こえた。


「……なんで!!?」


 咄嗟に反応し新たに生み出した蔓をその方向に差し向ける。


 その視界の先に見えるのは、黒刃を放つ構えを取った恭介。捕らえたと思ったのは、彼の幻であった。


 ”拡散する悪夢(ナイトメアエア)”、領域内でのみ発動可能な幻覚を見せる技能である。恭介が蔓に捕らえられる幻覚を見せられていた彼女は、まんまと”技能封印”の効果で封じていた黒刃を、再び恭介に戻してしまっていたのだ。


 もはや”技能封印”の切り替えは間に合わない。


 大量の蔓を幻の恭介を捕らえるために割いていた彼女にとって、別方向からの襲撃はまるで予期していなかった。苦し紛れに放った蔓の群れは、一瞬の内に黒刃の波に呑まれる。そして、瞬時に距離を詰める恭介。しかし、黒の閃きが彼女を捉えるぎりぎりのところで、その刃は空を切った。


「あはっ……惜しかったね。次は油断しないから……!」


 天井に伸ばしていた蔓を使い、すんでのところで緊急離脱を成功させる。


 蔓を身に纏い、防御を固めようとする小栗であったが、遠ざかる彼女に対して、恭介は追う素振りすら見せず、腰に刀を収めた。


「なんの余裕……!?」

「俺の仕事は終わった。なあ、一つ忘れていることはないか?」

「何を言ってるの……!?」

「俺は一人で来たわけじゃない。そういうことだ」

「……!!」


 天井に迫ろうかという勢いで距離を取る小栗にかかる影。()()()()()()()()()()()。驚愕に目を見開き、見上げた先にはスリムなシルエット。


「こんにちは、お姫様。そして、おやすみなさい」

「あっ……」


 時すでに遅し。


 薔薇の化け物の監視網を掻い潜り、密かに小栗に接近していたのは真代。


 負傷した千寿を修と一緒に送り届けた真代は、単身再びこの戦場に戻ってきていた。彼女の能力『潜伏者(ハイドアウト)』は、潜入捜査に秀でた能力。見つからない、人の目を忍んだ行動はお手の物だ。


 真代が合流できたのは、ちょうど幻の恭介が捕らわれていた頃。


 催眠効果の範囲外にいた真代は、一人喋る小栗の姿に違和感を覚えながらも隙を窺っていたが、先に恭介に肩を叩かれ、危うく声を出すところだったのはここだけの話だ。


 後はジェスチャーで示し合わせながら、二人で小栗を詰める作戦を決行。


 小栗も粘りを見せたが、想定外の方向からの攻撃にはどうしようもなかった。真代の武器、電磁ロッドの火花が散り、速やかに対象を無効化する。糸が切れた人形のように力を失い落下する小栗を、恭介がしっかりキャッチする。


 先ほどまでの暴虐なまでの攻撃とは裏腹にその寝顔は穏やかで、それこそ物語のお姫様のように美しかった。

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