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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
2章.芽生えた彩花は静かに揺れる

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58羽:薔薇の花には棘がある

 洋館に乗り込んだ恭介達の前には、蔓に吊るされた少女が一人。


 ゴシック調のドレスに身を包み、その白い肌を美しく着飾っている。その両の目は閉じられており、微動だにすることもない。このシチュエーションも相まって、まるで囚われのお姫様だ。下半身が半分蔓と同化するようになっており、蔓の妨害を受けつつの救出は困難を極めるかもしれない。



「どう見ますか?」

「この子が今回の騒動に関わっているのは間違いないだろうけど……」

「彼女が能力者なのは間違いないです。ただ問題はどっちか、ってことですよね」

「そうねぇ……」


 真代の問いに恭介も歯切れの悪い言葉を返すことしかできない。修や千寿も次の行動に踏み切るための材料を見つけられないでいた。


 囚われの彼女を能力者だと断定したのは修。


 技能"臆病な視線(ティミッドゲイズ)"、視界に収めた相手が能力者かどうか判別できる技能だ。現在恭介の領域では恭介達と目の前の彼女しか存在を認識していない。そのため、別の能力者が関わっている線は薄いと見ていた。そのことは千寿達とも共有している。


 問題はどっちか。


 つまり、彼女自身が抵抗していたのか、あるいは本人の意思とは関係ない能力の暴走によるものか。


 恭介の脳裏には、つい最近能力暴走を引き起こした少女の姿がチラついていた。その小さい体には重すぎる業火の灯を宿した少女。恭介はじめ様々な人の尽力と、何より彼女自身の決意と行動によりなんとか悲劇は免れたが、紙一重だったことに違いはなかった。



「彼女を蔓から解放する方向で行きます。ただ注意は怠らないように」

「「「了解」」」


 いずれにせよ蔓の脅威を無視することはできないだろう。


 速やかに無効化し、この『薔薇屋敷』騒動を終わらせる。向かってくる気配を感じたのか、彼女を取り巻いていた蔓が壁や地面からするすると伸びて鎌首をもたげるように動く。


「真代と修は後方待機。脱出経路の確保と、自身の安全最優先で。あとは全体の動きを見て気付いたことがあればすぐに教えてほしい」

「はい」

「それじゃ早速」


 真代が電磁ロッドを胸の前に構え、修が地面に手を当て”転移門(トランスゲート)”を発動。洋館の外に設置した出口に繋がる緊急離脱用の入り口を生み出す。これで最悪ここに逃げ込みさえすれば、身の安全は確保されるだろう。


 その動きに反応した蔓が複数、修を目掛けて襲いかかる。


 だが真代が動く前に、その脅威は恭介と千寿によって瞬く間に潰される。そのままの勢いで今度は二人から攻撃を開始する。基本的には先ほどまでとやることは変わらない。能力を使う本体が近くにいるので、手数は通路を突破したときよりも増えている。


 それでもAランク能力者二人を前にしては、後手に回らざるを得ないようだった。


 恐るべき反応速度と手数で圧倒する恭介と、時には敢えて受けて”死霊令嬢(ホロウボディ)”の”怯え”効果を使いながら、相手を手玉に取る千寿。蔓は切る側から生えては来るが、二人の侵攻は止まらない。


「お膳立ては完了! ってね」


 千寿が怯ませた蔓を”魂魄刀(ソウルメイト)”の連撃で吹き飛ばす。前方の視界が開け、少女を捕らえている本体が目の前にさらけ出される。


 千寿の攻撃の前からタメを作っていたのは、後ろに控える恭介だ。


 両手に構えた2本の黒刀が膨張し、破壊力を秘めた刀身が力を解き放つ。透明化した千寿が恭介を通り過ぎたと同時に放出された二連撃は、少女を捕らえていた蔓の上下を吹き飛ばし、その身の解放を約束した。


「お姫様のキャッチはソフトにねー」

「分かってますよ……っと!?」

「危ない!?」

「え?」


 複数の声が重なり、事態が大きく動く。


 ふわりと落ちてくる少女を受け止めようとして武器を収めかけていた恭介だったが、直前で再び武器を構えなおしていた。落ちてきた少女から、しなる蔓の一撃を危うく受けそうになったからだ。


 空中で無理やり切り飛ばし、距離を取る恭介。対する少女は蔓を伸ばし、緩やかに着地に成功していた。


「囚われのお姫様に刃を向けるなんて……。お兄さん初めから疑ってた?」

「ただの囚われの少女でいて欲しかったが、そういう性分なんでな」

「ふふ、素敵。でも私の方が一枚上手……だね」

「……チッ」


 少女と相対しながら、恭介は舌打ちを返す。


 後ろの状況は領域で感知している。その動きまでは確認できていたが、結果は予想外だった。


「うっ……かはっ!!」

「動かないで! まずい、早く手当てしないと!?」

「恭介! 一度千寿を連れて下がります!!」


 恭介の後ろには血相を変えて話す修と真代の二人。


 そして二人が駆け寄る先には、重い一撃をもらい戦闘不能に陥った、千寿の横たわる姿があるのだった。

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