57羽:招かれざる客人
いよいよ最初の【A級案件】『薔薇屋敷』攻略に乗り出した恭介達。
舞台となる洋館前で、準備は整った。
メンバーは恭介、千寿、真代、修の4名。急造チームではあるが、バランスは悪くない。比較的安全に偵察のできる千寿や真代がいる中で、恭介は4人での突破を指示する。
万全を期すのであれば、もちろん先に偵察して情報を集めたほうがいい。
ただそれはこちらの情報を渡してしまうことにも繋がる。以前の偵察でBランク以下の能力者でも途中まで入り込めたことを考えると、脅威なのは蔓の数と再生力。Aランク2名を前線に据えたこの陣形であれば、ある程度までは問題なく進めるとの判断だった。
蔓で塞がれていた門を乱暴に突破し侵入を開始する。
敵対行動を認識したのか、奥の通路から蔓がずるずると伸びてくる。出てくる先を追っていけば、いずれは本体に辿り着けるだろう。
「突破します!」
刀を2本抜き、武器強化を施して突貫する恭介。隣には千寿の姿もある。
”死霊令嬢”に身を包んだ彼女だが、手には細長い両刃の剣が握られている。彼女の能力によって生み出された、魂を誘う霊界の剣”魂魄刀”。その切れ味は物質の硬度に左右されない。
「はっ! ほっ!」
恭介に負けず劣らずの勢いで、前方から湧き出てくる蔓を潰していく。
真代と修は注意しながらその後ろに付いていくが、彼らに蔓の攻撃が漏れてくることはなかった。そうこうしているうちに継続的な攻撃が止み、一瞬の静寂が訪れる。
その間にも4名は歩を進め、角を曲がる。
大広間に繋がる長い通路に差し掛かると、先ほどよりも1本1本が倍以上に膨らんだ蔓がお互いに絡まり合い、物理的な破壊力を増して迫ってきていた。それは通路いっぱいに広がりながら、太い木の幹のようになっている。まともに受ければただでは済まないだろう。
「ここは俺が!!」
潜伏場所を生み出そうとする真代を制し、先に動いたのは恭介。
漆黒に染まる2本の刀を膨張させ、その威力を開放する。方向性を絞って放たれた黒の刃二連撃は、螺旋を描きながら目の前に迫った蔓を根こそぎ吹き飛ばし、前方の視界を開けさせた。
「おお、やるねぇ!」
「ありがとうございます。油断せず行きましょう」
黒刀を振り切った態勢の恭介を、追いついた千寿がばしばし叩く。
相手にとっても渾身の一撃であったであろう、蔓の濁流を正面から潰せたのは牽制の意味でも大きい。これで向こうが怖気づいて投降すればよし、抵抗されてもいつでも大きいのが打てると意識させることができただけでも、戦況を優位に運ぶことができるだろう。
そして、辿り着いたのは大広間に繋がる大扉。
洋館の玄関と同じか、それ以上に蔓が密集して簡単には開かないようになっている。
「ここは……主任お願いします」
「了解、何かあったらすぐ伝えるわ」
先ほどまでと同じように強行突破とは行かず、千寿に偵察をお願いする恭介。
彼は自身を中心に円状に展開されている領域により、扉の奥に人の存在を確認していた。彼の領域”悪夢の中心”による探知・索敵能力は、物理的な壁に制限されることはない。しかし、それが囚われの一般人なのか、悪意のある能力者なのかまでは分からない。
相手の意図が分からないまま、全員で突入するのは危険に思えた。
その点、千寿であれば反撃さえ試みなければ、物理的攻撃はすり抜ける”死霊令嬢”がある。最悪一人でも対応できる戦闘能力がある分、この場面においては真代よりも適任と言えた。
これまでは透明化の恩恵は見せていない。
すぐに相手に対応されるということもないだろう。千寿はそのまま直進し、大扉をすり抜けて中へと消えていった。その間にも、左右を恭介と真代が警戒する中、修が脱出用の転移ポータルの設置を進めている。今のところ蔓による妨害はない。
「皆入ってきてOKよ。あ、内側から壊すから少し離れててね」
「了解です。……どうぞ!」
内側に入った千寿から声が掛かる。彼女は無事なようだ。
中の様子が窺えないこちらからよりかは、確かに向こうから開けてもらった方がいいだろう。蔓でがんじがらめになっているので、乱暴な方法で開けるのには変わりないのだが。
クロスにすっと剣閃が走り、その一瞬の後、さらに高速の斬撃が走る。
物理的な硬さを無視する千寿の”魂魄刀”の連撃。まるで豆腐でも切るかのように、纏わりついていた蔓さえ意に介せず、固く閉ざされた扉をあっさりと突破して見せた。
無数の破片に変わった扉を跨ぎながら、恭介達も大広間へと足を踏み入れる。中も蔓に侵食されていたが、ある程度動き回れる程度のスペースは確保されているようだった。
「中はどうでしたか?」
「向かってきた蔓は切り伏せつつ、どうにでもできたけど……問題はあれなのよね」
「あれが……」
領域で確認した内容との答え合わせ。
大広間の奥の方に、蔓が纏まって垂直に伸び、木の幹のようになっているところがある。そして前方には床よりは天井に近い位置で、垂らした両腕を蔓に絡めとられ、磔のようにされている一人の少女の姿があった。




