53羽:vs Unknown
場所は変わり、ここは演習場の一室。
真代の希望で、誰も使用していないところを使うこととなった。変なことになったなと思いながらも準備をする恭介。通常ならば、組手はお互いの能力を把握した上で行われる。能力によっては、危険が伴うので当然といえば当然だ。
しかし、今回はその情報は一切ない。
先に伝えようとした恭介を制し、真代が提案したことだった。こういった場合、求められるのは単純な能力の強さだけではない。未知の能力を持つ相手に対して、どのようなアプローチをかけ、勝利に繋げるのか。真代が今回組手を選んだのは、恭介のそういった力量を図るためなのかもしれない。
またやる気なのは真代のほうで、修のほうは組手に参加する気はないらしい。
ちなみに任務中での連携も考慮して、名前で呼び捨てしてもらって構わないというのは、真代からの提案だ。同じ現場に立つ以上は、上も下もない。もちろん指示系統は順守しないといけないが、そうした考えは恭介も望むところだった。
「それでは、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
準備運動が終わり、双方戦闘態勢を取る。
恭介は腰にある3本の黒刀の内、1本を右手に持ち様子を窺っている。ナイフよりちょっと長いぐらいの小刀で、取り回し重視の装備となっている。組手を行う際の恭介のスタンダードな態勢だ。
恭介の能力『虚構支配』。
珍しい精神系の能力だが、本来近接戦闘は得意としていない。それ故か能力発現当初のランクはB-。真代たちと同じであり、弱くはないが、飛びぬけて強くはないという評価。
ただ打たれ弱いという明確な弱点を補うように、後天的に獲得した技能が、3本の影手からなる”重なる影”。様々な強化や既存の能力との組み合わせができ、恭介をA-ランクへと押し上げた優秀な能力だ。
その能力との組み合わせで出来上がったのが今の恭介、すなわち「前線で戦える精神系能力者」。
嵌れば強いタイプが、弱点を埋め合わすことができたのであれば、それはもう単純に強い能力者と言えよう。恭介が組手で使用するのも、基本的に”重なる影”がベースの戦法となる。3本ある影手の内、1本を身体強化に、もう1本を黒刀の武器強化に当てる。最後の1本は予備として残してある。
元の能力からは、自身のみが感知できる円状の領域、技能”悪夢の中心”が使われている。
領域内の人や物の動き、様子などを俯瞰的に把握できる優秀な技能のため、戦闘時にはほぼ100%使用されている。恭介の戦闘能力があれば、これらの組み合わせで大抵の能力者の相手はできた。組手で相手の力量を図るには、もってこいの能力構成なのである。
対する真代の装備は、棒状の武器。片方の先端が短く二又に別れている。
準備運動とばかりに軽く片手でくるくると回し、両手で構えて見せた。能研から貸し出されている、刃を潰した黒塗りの剣や槍とはまた少し趣が違う。いずれにせよ何かからくりがありそうな先端部分には気を付けておいた方がいいだろう。
「来ないのであれば、こちらから」
「……!」
先に動いたのは真代だ。
槍での牽制と同じように、素早く細かい突きが入る。時には避け、時には黒刀で弾き、相手の力量を図る恭介。近接戦闘タイプの恭介から見ても、真代の動きはなかなかのものだった。一撃、一撃は決して重いものではないが、手数を活かし相手を寄せ付けない。間合いの短い恭介では、近づくのすら一苦労しそうだった。
(サポートメインと言う話ではあったけど、対人戦の経験はけっこうありそうだな)
攻撃を捌きながら、冷静に判断する恭介。
恭介自身は、まだ入所2年目の若手。それより前から活躍しているであろう、真代を値踏みするというのもおかしな話なのだが、実際のところ、恭介の近接戦闘能力は能研内でも評価が高い。能力の組み合わせももちろんあるが、彼の戦闘センスには目を見張るものがあった。
(慌てたところが一つもない。これは骨が折れそうですね)
対する真代も果敢に攻めながらも、固い恭介を前に冷静に戦力分析を行う。
リーチはこちらが上、ただし押せている印象はない。余裕をもって捌かれているようにすら見える。メイン武器は手持ちの黒刀で間違いなさそうなので、近づかせなければ脅威ではないだろうが、簡単にこちらの攻撃をもらってくれる風にも見えない。となれば、勝負をかけるタイミングはやはりあそこになるだろう。
(……能力を使ってこない。何が狙いだ?)
これまでの攻防では、真代は培った戦闘技術のみを駆使して戦っている。
それはおそらく間違いない。
お試しとばかりに攻防を繰り広げた中で、恭介はある程度集まった真代の戦力データを叩きだしていた。近接戦闘能力はそれなりのものだ。能力だけに頼っているBランク以下の能力者であれば、最悪一人でも対応可能だろう。ただし、その戦闘能力を押し上げる身体強化能力はおそらくない。
受けた手ごたえや武器からも、そういった強化の恩恵を受けた威力は感じなかった。
身体強化+武器強化がある恭介ならば、間合いの差は多少の強引さを以てこじ開けることができる。距離を詰めることは可能。ならば次に考えるべきなのは、相手のそこからの反応、つまり未だ見せていない能力そのものだ。
(……攻めてきた!)
間合いに入れずただ攻撃を捌いていただけの恭介。
だがここに来て前進しながら、繰り出された二又の武器を弾いて見せた。真代もこれまでの攻防で、恭介が身体強化の恩恵を受けていると判断していた。なので、多少強引にでもいずれは攻めてくると分かっていたのだが、予測よりも踏み込みが鋭い。
瞬く間に真代の懐に入り、黒刀を振りぬく態勢に入る。
最小限の動きながら、強化された力により強く弾かれた真代の武器は、恭介を迎え撃つ態勢には持って行けていない。目線で能力を見せろ、と恭介が訴える。タイミングと態勢的に防げない一撃。一応みねうちに切り替えて放った一撃ではあったが、十分な威力を持っていた。
一閃。
振り切った一撃は、しかし真代を捉えることなく空を切った。感触がない、だけでなく真代の姿自体がその場から消えていた。
その直後、恭介を襲った衝撃。
彼は謎の痺れを覚えながら、体が傾くのを他人事のように感じるのだった。




