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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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51/103

51羽:蕾のままじゃいられない

「それで、私に課せられた【S級案件】専門のチームというのは?」


 最後は、恭介からの問い。


 【S級案件】は一都市を壊滅に追い込んだ悪夢【大災厄】の因子を取り込んだ能力者が絡んだ案件だ。その因子は『災厄破片』と呼ばれ、自身の能力とは別に”特性(ギフト)”という特殊な属性が付与される、というのはアズミから聞き及んだ話だ。


 能力世界における最大の禁忌を誘発しかねない、パンドラの箱。


 それ故に能研内でも機密事項として扱われていた。だが恭介達がアズミが持ち掛けたゲームをクリアしたことで、図らずも打って出るタイミングと判断されたようだ。


「それじゃあ、あのゲームは【S級案件】を受ける資格をかけたものだったんですか?」

「結果的にはね。まあ彼女を退けるぐらいの力は見せてくれないと、一生回ってこなかった話ではあるね」


 怪我の功名と言うかなんというか、複雑な表情を浮かべる恭介。


 しかし、今回のゲームクリアは何も恭介だけで成し得たものではない。戦闘力だけで見れば、恭介よりも強い能力者はまだまだいるし、身近なところでは戦闘班班長である憑神もいる。


「隠密性を問われる任務でもあるからね。ただ強ければいいというわけでもないんだ」


 なるほど、憑神には劣るが、戦闘力では一定の評価をもらい、後は能力の相性により恭介が選抜されたという形だろうか。専門のチームを作るということなので、ほかにもそういった能力者が選ばれると予想できた。


「分かりました。ほかのメンバーについては、すでにお決まりで?」

「それは君が見つけてくるんだよ」

「え?」


 思わぬ返しに意表を突かれた恭介。


 そこで初めて立花はニヤリと笑い、続く言葉を紡いだ。


「サポート能力者の手配はしよう。ただ君が主導して展開する作戦には、()()()()()()()()()()()()をメインに当たってもらう」

「支部長補佐!? 話の流れが分かりません!?」

「おや、言葉通りの意味なんだがね。そうだな……」


 恭介の戸惑いをよそに構わず続ける立花。


「今回の騒動の後始末により、我々は1区の重要な戦力となるはずだった、日野兄妹を失うこととなった」

「それは……」


 口籠る恭介に、立花はそっと手を上げ続きを聞くよう促す。


「ああ、別に攻めているわけではないよ。ただ本来計算された戦力を失ったからには、それを補填する必要があるだろう?」

「それが【S級案件】と何の関係が!?」

「相手は本部、もしくは()()()()()()だということを、忘れてないかい?」

「……!!」


 決して声を荒げて発せられた言葉ではない。


 それでもアズミから受けたようなプレッシャーを、恭介は再び感じ取っていた。立花曰く、本部相手に既存の能力者を動かすのはリスクが高く、それならばいっそ新規の能力者から人材を発掘するという判断に行き着いたらしい。


 しかし、そんな重要な任務を、能研所属でもない、下手したら目覚めたばかりかもしれない能力者を使う? 恭介にとってはそちらのほうが、正気の沙汰とは思えなかった。


「そんなに悲観することはない。ちょうど何件かやっかいな【A級案件】が残っていてね。君にはその解決と共に、【S級案件】に対応する人材も発掘してもらおうというわけだ」

「…………」


 正気の沙汰とは思えない、が一応話としては分かる。


 拒否権がないということも。元々【S級案件】自体は恭介が追い求めていたものだ。多少無茶な条件があろうと、それに着手できるというのであれば、選り好みをしている場合ではない。


「ちょっと、恭介いい?」

「美紗?」


 思案を巡らせていた恭介だが、不意に掛けられた美紗からの言葉に現実に引き戻される。これはあくまで私の考えだけど、と前置きした上で密かに告げられた言葉。


「私達は()()で、あなた達は()()()よ」

「……!!」


 美紗からの言葉を受けて、改めて立花の真意を探る。


 嘘は言っていないが、本音も言っていない。美紗が感じた通り、恭介にも似たような思いはあったが、うまく言語化できなかったため、美紗のその言葉は衝撃的だった。


 美紗の言う私達とは、【S級案件】から外された美紗と剛だろう。


 甘菜はおそらく元々数には入れられていなかっただろうが、事情を知るものとしては、扱いは同じだ。そしてあなた達とは、恭介とこれから出会うであろう新たな能力者。


 立花が言った、適材適所というフレーズが思い起こされる。


 敢えて事情を知るものを分けることで、裏切りや離脱などを阻止したい思惑があったのかもしれない。捨て駒とはそのままの意味だろう。成功率の低い賭けをさせるのには、何か問題があった際にいつでも切れる、能研に所属した期間が短い能力者はうってつけに思えた。上手くいけば儲けもの程度に考えているのかもしれない。


 それでも立ち止まる選択肢はない。


 立花はきっとそれも分かった上で話しているだろう。美紗も恭介は止まらないと分かった上で、敢えてこうした話を切り出した。その心遣いを確かな絆と共に確認し、美紗の肩に手をかけ礼を述べた恭介は、改めて立花へと向き直った。


「【S級案件】了解しました。態勢が整い次第、任務に当たりたいと思います」

「うん、ありがとう。よかったよ」


 恭介からの承諾の意を聞いて、言葉通り安堵した表情を浮かべる立花。


 そして、その前哨戦とも言える、複数の【A級案件】についても話し始めた。



 突如として現れた、荊に覆われた城『薔薇屋敷(ばらやしき)』。

 正体不明、感知能力者殺しの『怨念髑髏(おんねんどくろ)』。

 複数の野良能力者をまとめ上げる『街角女神(まちかどめがみ)』。



 Bランクの能力者や特戦員では太刀打ちできなかった上級ミッション。


 中には全容解明のため、最初から【A級案件】として取り上げられたものもあるが、いずれも決して楽観して臨むことはできない任務ばかりだろう。



 能力に翻弄される時代を生きる若者達。それは祝福か呪いか。


 それを決めるのは本人次第。


 今日もまた、新たな蕾が花開こうとしていた。

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