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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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49羽:天使の涙

 一閃。境界線を光の柱が包み、視界を白に染めた。


 すさまじい衝撃を受け、背中から吹き飛ばされる恭介達。


 地面に打ち付けられるはずだったが、感じたのは柔らかい羽毛のような感触。それは天使の羽。ばらばらに吹き飛んだ剛達もまとめて受け止めており、その慈愛をそっと添えていた。


「紗衣華……助かったよ」

「ん。無事なら、それでいい」


 いち早く気付いた恭介が地面にゆっくり降り立ちながら、感謝の言葉を述べる。


 紗衣華の返答は素っ気ないものではあったが、ケガのないようにわざわざ全員を受け止めてくれたのだ。剛達もお礼を言い感謝の嵐に見舞われていたが、無表情を装いつつ耳を真っ赤にしているあたり、あまり慣れていないようだった。



「しかし、最後の光は一体何だったんだ?」

「……というか、今私達がいる場所って……」

「境界線を越えてる……まさか、助かったんですか!?」

「みんなああああああああああ!!!!」


 事態がいまいち呑み込めず、感情の持って行き場に迷っていた面々に甘菜がダイブで飛びかかってきた。近くにいた美紗が標的にされ、受け止め切れずそのまま転がった。


「ちょ、甘菜! 重い……あはっ……ははっ」

「重くないもん~~~、美紗ちゃああああん!!!」

「はいはい、甘菜のおかげで皆生きてるよ。ありがとうね」

「うんうん……」


 しっかり抱きしめ合い、涙を流しながらお互いの名を呼ぶ二人。


 すでに先にクリア扱いとなっていた甘菜がいる。それだけで全員が今の状況を把握した。傍には恭介を始め、剛、大智、霞、そして憑神の姿もある。未だに信じられないが、もう間違いないだろう。全員、一人も欠けることなく、アズミとの地獄のゲームに打ち勝ったのだ。


「いや~、やられたね。おめでとう」


 緊張が走る。


 いくらゲームをクリアしたとはいえ、やはり完全に安心しろというのは無理がある。声の方を恐る恐る見やると、右半身が吹っ飛んだアズミの姿があった。


「ん、ああこれ? いやぁ、熱中しすぎたみたいでさ。先生からお叱り受けちゃった」

「ったく、俺らまでまとめて吹き飛ばすつもりかと思ったぜ」

「【千里眼(せんりがん)】……怖い」


 アズミに続いて、憑神や紗衣華も感想をこぼす。


 どうやら境界線を越えてまで追ってきたアズミを止めるために、最後は初代1区支部長からの幕引きの一撃があったらしい。白い光に視界を染められ、全体をも巻き込んだ広範囲の能力かと思いきや、負傷しているのは意外にもアズミだけだった。アズミ自身が決めたルールを守らせた形だ。


 能力者がその場にいないにも関わらず、この威力と精度。やはり、軽々しく敵に回していい相手ではないだろう。


「これでゲームクリア、大智達への処分は……」

「分かってる分かってるよ。ここまで来て約束を破るなんて、ケチな真似はしないって」


 答えながら瞬時に体を修復して元通りになるアズミ。


 改めて底の知れなさにぞっとする。各自の尽力はもちろんだが、憑神の合流がなければこの勝利はきっと幻となっていただろう。


「班長、ありがとうございます……!」

「ああ?」


 向き直り、深く頭を下げる恭介。他の面々もそれに気づき、続けてお礼を述べた。


「俺はただ巻き込まれただけだ。どさくさに紛れてお前らと一緒にするのはやめろ」


 あくまで自分は部外者だと、そう弁明する憑神。


 ただ全く協力する気がなかったのであれば、自分だけへの火の粉を振り払えばよかったはず。不本意ではあっただろうが、甘菜への助言や手助けとといい、彼は彼なりに思うところがあったのかもしれない。


「さて、それじゃ私は一足先に戻るよ。付き合ってくれてありがとう! 愛してるよ~♡」

「勘弁してくれ……」


 アズミから愛の言葉を投げかけられ、げんなりする恭介達。


 ほかの影人形と同様、地面に吸い込まれるように、一瞬でその存在は消えて見せた。あれほどの執着を見せておきながら、あっさりと手を引くあたり、やはりアズミの中ではどこまでいってもゲームでしかなかったのだろう。


 ただ脅威は去った。


 全員がその事実に実感を持ち始めたころ、恭介に忍び寄る影が一人。


「…………」

「ん? ……紗衣華か」


 後ろからぽすんと頭を押し付けられ、気づく。


 恭介とも親交があるようだった紗衣華。2区のTOP3【三天柱(さんてんちゅう)】としての立場上、1区の揉め事に安易に首を突っ込むわけにもいかず、肝を冷やしたことだろう。憑神が合流した際にも触れられていたが、彼女は彼女で心配してくれていたらしい。


「厄介ごとに巻き込んで悪かったな。もう終わったから大丈夫だ」

「……ぅ…………」

「ん?」

「うわあああああん、恭介ぇ……無事でよかったよぉおおおお……!!!」

「!!?」


 まさかの大号泣。


 その後は言葉にならないようで、盛大に泣きじゃくる始末。その溢れんばかりの涙が次々に地面に振り落ち、その波紋を立て続けに拡げた。


「傷が……これは……」


 恭介だけでなく、剛や美紗達も気づいたようだ。


 涙を伝わり、【涙天使(るいてんし)】の癒しの力がこの一面を暖かく包み込む。それは美紗の技能”損傷緩和(リリーブアシスト)”の比ではない。傷だけでなく疲労を取り、体力を急激に回復させる万能薬、本物の最上級の回復効果だ。能力の反動により、体力を著しく消耗していた剛や霞でさえも、全開の状態に持ち直したようだ。


「すごい……これが”天使の涙”」


 誰ともなく呟いた言葉。


 最上級の癒しは儚い天使からの贈り物。天使の他者を思う気持ちが、その効果の源だ。未だ泣きじゃくる紗衣華は、決して意図して起こした行動ではなかっただろうが、彼らを瞬く間に救って見せた。


「紗衣華」

「ぅ……ぐす」


 自分達を想って心を痛めてくれた紗衣華の頭を、恭介はそっと手のひらで優しく触れる。


「泣けるように、なったんだな」


 それは二人だけの間で通じる言葉。


 過ぎた力は時に人を狂わせる。癒しを強要され続けた天使はいつしか泣けなくなっていた。


 過去に恭介と別れ、2区に身を寄せるようになった紗衣華。能力のポテンシャルは誰もが認めるものではあったが、まさか今現在【三天柱】という能力者を統括する立場となり、こうして再会するとは思っていなかった。彼女も彼女なりに、努力を続けていたのだろう。


『泣きたいときは、泣いていい。』


 いつかかけられた言葉。


 その問答を、今示し合わすかのように、ただ寄り添い彼女は涙をその頬に伝わらせるのであった。

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