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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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46/103

46羽:new challenger

 あれだけ空を埋め尽くしていた天使がすでに半分もいない。


 そしているはずのない人物がここに一人。誰もが声を紡げない中、最初に声を発したのは甘菜だった。


「あ、あれ? 班長何でここに?」

「……あーっ、たくっ、咄嗟のこととはいえ、とんでもないことに巻き込んでくれたな」


 質問には答えず髪の毛をぐしゃぐしゃに掻きながら、悪態を付く憑神がそこにいた。





 時は少し前に遡る。


 恭介達と離れ離れになった甘菜は、失意の中能研へと帰還した。


 その中で戦闘班主任である古川 千寿と合流し、戦闘班班長である憑神に事態を報告。美紗の能力の関係により、無事であるとの確証を得て、探索を開始した甘菜は境界線前で別れた恭介達を発見。すでに戦闘が始まっていたので慌てて駆けつけた、というのが甘菜が取った行動だった。


「戦闘班班長である君が、支部長に刃を向ける。この意味が分かってるのかな?」


 アズミから当然の質問、いや警告が浴びせられる。


 いくら憑神が碌に働かない班長といえど、1区の戦闘班を預かる身なのは間違いない。戦闘班の一戦闘員ではなく、そのTOPの反逆行為だ。もはやクーデターと呼ばれてもおかしくない事態である。


「……あーっ、一つだけいいか?」


 アズミからのプレッシャーもなんのその、ただただめんどくさそうに受け答えする憑神。少しは考える振りもしたが、結局途中で諦めたのか、だるそうに己の現在の立場を説明した。


「俺はそこの転移女の転移に巻き込まれただけ。さっきのは自己防衛。以上」


 ただ単に巻き込まれただけ。


 部下が死にかけた場に置いて、かばうでもなく、ただ己の無罪を主張し出したこの男。

 

 憑神はこういう男だった。


「……あんたはっ! この状況でよくそんなこと言えるわね!!」

「ごふっ!!!」


 横から美紗のドロップキックを浴び、綺麗に吹っ飛ぶ憑神。


 なおも罵る美紗と、どう反応したらいいか分からない恭介達。何故か甘菜だけはそっか~と納得したような空気を醸し出していた。


「あははっ、オッケー。これまた強力なカードだけど、別にルール上禁止してないしね」

「いや、だから俺は巻き込まれただけだ」

「それでもこうしてゲームに入ってきた以上は、誰であろうと簡単には逃がさないよ?」

「はぁ……」


 交渉決裂、というか憑神はただ無関係を主張していただけだが、アズミは逃がす気はないようだ。


 美紗は未だに憤慨していたが、これは大きな助け舟だ。何故ならこの憑神と言う男、伊達に戦闘班班長という座に座っているわけではない。戦闘力だけで言えば支部長級、とも評されるガチガチの戦闘向きの能力持ちなのだ。


 ちなみに転移に巻き込まれた経緯はこうだ。


 礼を言いすぐにでも転移しようとする甘菜を引き留めることもなく、適当に見送ろうとした憑神。仮にも上司である憑神のその無関心な態度に千寿が怒り、ちょっと突き飛ばした結果、甘菜に触れてしまい一緒に来てしまったのだ。残った千寿も今は頭を抱えていることだろう。


「班長、巻き込んで申し訳ないとは思ってます。ただこのゲームは境界線を潜れば勝ち。なんとかお力添え頂けませんか」


 素早く側により声を掛ける恭介。


どう対応したかは定かではないが、あの天使の群れから救ってくれたのは間違いなく憑神だろう。支部長級の戦闘力を持つ彼が協力してくれるのであれば、影天使の大群と言えど決して越えられない壁ではない。


「あー……実際俺が来てなくてもどうにかなっていたと思うがな」

「え?」


 あの絶体絶命の状況でなんとかなっていた? 淡々とのたまう憑神が目線を送った先には、一人の天使が長い髪をなびかせながら、境界線の門上に降り立っていた。


「あれは……紗衣華(さいか)?」

「恭介……」


 透明感のある少女だ。


 影天使のように羽が生えているが、その色は純白で、まごうことなき天使に見えた。彼女こそ2区のTOP3【三天柱(さんてんちゅう)】の一角、【涙天使(るいてんし)】の暗号名(コードネーム)を持つ少女、市姫(いちひめ) 紗衣華だった。物憂げで感情に乏しいような表情だが、神秘的で不思議な魅力を放っており、その雰囲気に見惚れるものは多いだろう。


「私はお目付け役……。変な期待はしないで」

「そうは言っても俺が割って入ってきたのを確認して、慌ててUターンしたようにも見えたが」


 憑神の突っ込みに露骨に肩をびくつかせながらも、あくまで平静を装う紗衣華。


「気のせい。仮にも2区のTOP3が、軽々しく1区の揉め事に介入することは許されない」

「ふーん、そうかねぇ」

「【案山子(かかし)】……嫌い」


 にやにやしながら、嫌われちゃったなとおどけて見せる憑神。恭介ともなにやら知り合いのようだが、今は深く確認している状況でもないだろう。


「あらら、いよいよ大事になってきちゃったねぇ。私の完璧な計画が台無しだよ」


 言葉とは裏腹に余裕そうな態度は崩さないアズミ。


 アズミが手配したのでなければ、恐らく明石の時と同じように、初代1区支部長からの警告だろう。現在は支部長補佐に収まっている立場上、基本的にアズミの好きなようにさせているらしいが、それでも根回しも含め一定のラインはしっかり引いているようだ。


「はぁ……仕方ねぇな。縞葦、こっち来い。お前らは適当に準備しておけ」

「は、はい!」


 指名を受けた甘菜はぷかぷか浮きながら憑神の元へと向かう。


 恭介達も最後の戦いだと、改めて気持ちを奮い立たせ、武器や技能の割り振りを考える。その中で先に動いたのはアズミだ。今までは余裕を見せ準備が整うまでは律儀に待つ姿勢も見せたが、憑神の参戦に紗衣華の目もあり、言葉ほどの余裕はなくなっていたようだ。最早タイムリミットはわずかだと言わんばかりに、影天使を一気にけしかける。


「は、班長危ない!?」

「あ?」


 甘菜と何やら話をしていて、不意を突かれた形になった憑神。


 無防備な背中に残りの影人形達が殺到したが、その攻撃が届くことはなかった。影天使は次の瞬間には綺麗に刻まれて無数の欠片となり、それも風に攫われて消えた。


「これが……班長の能力……」


 初めて目の当たりにした憑神の能力、その威力に言葉を失う恭介達。攻撃を仕掛けた側であるアズミも驚嘆したような声を上げ、静かにその力を称えるのだった。


「これは想像以上……これが全てを切り裂く異能『無法地帯(パンデモニウム)』、か」

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