41羽:悪魔の密会ごっこ
どれだけそうしていたか分からない。
アズミさえ消えてしまったその場所で、甘菜はただ一人膝をつき茫然としていた。
どれだけ理解を拒んでも、結果は変わらない。恭介を、美紗を、剛を、大智を、霞を、助けられなかった。なぜ自分はあの時転移で追わなかったのか。どうして一緒に連れて行ってくれなかったのか。何故自分だけ残ってしまったのか。自分自身の力不足を棚に上げ、今は環境を呪うしかなかった。
自己嫌悪というには生ぬるい感情が延々と渦巻いていたが、いつまでもここにいても仕方がない。任務は失敗だ。いやアズミ的には成功だろうか。どちらにせよ戻らなければならない。行動に移すことで、心の中の虚無を少しでも満たそうと、甘菜は転移でその場を後にした。
とある能研の一室では、一組の男女が話をしている。
気さくに話す男に、椅子に座っている女。どうやら女の部屋に男が出向いた形らしい。部屋の外にはそれぞれの護衛なのか、ドアの両端に仁王立ちする男が二人いる。
「それで、わざわざ何の用事?」
「おや、用事がないなら会いに来ちゃいけないのかい? 冷たいね」
「はぁ、そういうのはあなたの部下だけで間に合ってるから」
外にいる護衛の一人がくしゃみをする。
中の会話は漏れていないはずだが、もう一人の護衛は額に青筋を立てている。部屋の中の女は暗に刺激をするなと、無駄話をするなら話を聞く気はないと告げる。
「冗談だよ。外の彼にうっかり殺される前に用件だけ話すとしよう」
「そうして」
短く告げる女に男が用件を伝える。
「……それはわざわざ密会して伝えるほどの事なの?」
「ああ、麗しい君に会う口実、ではないと誓うよ」
「一つ聞くけど……十中八九今外で起こっている騒ぎ関連よね?」
「おや、耳が早いね」
おどける男に女は皮肉を込めて返す。
「あなたの可愛い可愛い娘がやんちゃしてるなら、誰でも気になるわ」
「ははっ、これは手厳しい」
女は椅子から立ち上がりカーテンをずらしそっと外を眺める。
その先には1区と2区の境界線が見える。大仰な門などはないが、一応境界が分かりやすい区切りの塀が連なり、案内板が建てられている。外に羽が数枚散るのが見えると、女はカーテンを戻した。
「どんな結末になるにせよ、君にとって悪い方向にはいかないだろう」
「なんなら後始末を押し付けようって腹のくせに、よく言うわ」
「それに見合ったメリットもあるはずだよ」
「そうなればね。境界には彼女に行ってもらったから、何かあれば頼るといいわ」
諦めたように椅子に深く座る女。男からの提案を渋々了承した感じだろう。
「その言い方から察するに【涙天使】かい?」
「ええ」
「【三天柱】の彼女まで派遣してもらえるとはね。直接お願いに来た甲斐があったというものかな?」
「他の二人だと殺しかねないし、一番大人しい子を選んだだけよ」
「はは、寛大な対応に感謝するよ」
どこまでも本音を覗かせない男の対応に飽きた女は、それ以上の問答を良しとしなかった。
男も必要なことは伝えたとばかりに、その場を後にする。護衛の男と合流し、すぐにその場から消えさった。
残された護衛は部屋に入り、主へと歩み寄る。
「殺したほうがよかったですか?」
「もう、何度も言ってるけど開口一番でそれはやめなさい」
「は。しかし、【征天使】に取り入ろうとする不埒な輩は多いので」
「仮にも過去の災厄を共に乗り切った同胞を、そういう扱いはしたくないわね」
「出過ぎた真似を。失礼致しました」
直立不動で答える護衛にため息をこぼす。
何故か彼女の周りには物騒な考えの持ち主が多い。それが彼女を守ろうとするがゆえの行いだと分かっているので、あまり強くも言えないのだが。
「夏目……あなたが私を大事にしてくれてるのは分かるけど。たまには肩の力を抜いたらどう? 明石君みたいに、は言い過ぎだけど」
「あの女たらしは円佳様ならず、全世界の女性の敵です。あなたの制止がなければとうに100回は殺しています」
「ごめん、忘れて」
出す例えを誤ったと悟った女、2区の支部長を務めるS+ランク能力者、【征天使】天城 円佳はため息と共に話を終わらせた。




