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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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32/103

32羽:愛の鼓動

 時は少し長めにさかのぼる。


 甘菜が日野兄妹を転移で逃がし美紗達と合流したころ、恭介は一人アズミの元に残り、無数の影人形相手に奮闘していた。並の能力者であればその数の暴力に呑まれ、瞬く間に取り込まれていただろう。だがそこは恭介の能力と戦闘経験により、むしろ押し返すぐらいの反撃を見せていた。


「お~お~、すごいすごい。50人コースでも余裕だねぇ。次100人コースいっとく?」

「……ちっ」


 影で作り出した即席の椅子に座り、高みの見物をしているのは2代目支部長のアズミだ。ここ1区の実質的なTOPであり、全ての能力者の頂点に立つS+ランク。最強の、いや最凶の能力者である。


 耐久勝負ではまず勝てないだろう。


 恭介も人間である。いずれは影人形の波に呑まれてしまう。そこまで付き合う気もなかったが、今は甘菜達を無事逃がす時間が必要だ。


 ここで足止めをしていても、影人形による甘菜達への妨害までは防げないだろう。そこは日野兄妹にまかせるしかない。能力だけで見れば、霞の能力『紅焔(プロミネンス)』頼みになってしまうが、後は信じるしかなかった。


 何よりアズミだけは行かせてはいけない、という強い危機感もあった。


 そうこうしているうちに100人コースも凌ぎきり、一時の空白の時間が訪れる。呑気に構えるアズミからは大げさな拍手と称賛の声がかけられた。


「いや~、すごい! 改めて、君も化けたよねぇ」

「はぁ……はぁ……」

「私の能力を取り込んだからとはいえ、もう自分の能力にしちゃってるしね」


 本来であれば、私に刃を向けることすらできないはずなんだよ、とけらけら笑う。本人にとってはまさしく予想外であったろうが、それすら楽しむように上機嫌に笑う。


「悪趣味なお前の能力……『寄生愛(パラサイトラブ)』だっけか? それだけは感謝してるよ」


 恭介が息を整えながら悪態を付く。


 アズミの能力『寄生愛』。ほかのS+ランク能力者の様な、ど派手な技や破壊力はない。ただ他人に干渉する異質なまでの能力により、今の地位に上り詰めた。


 基本技能”愛の形(ラブトークン)”を使い、主に影人形を扱い、数で圧倒するスタイル。頭を破壊しなければ止まらない、命なき兵隊だ。彼女はこれらを下級トークンと言ったが、言葉通り最下級の兵隊だ。生み出せる数に制限は、ない。


 防御不能&制御掌握の大鎌”あなたに首ったけ(ラブクラフト)”と組み合わせるとどうなるか、想像に難くない。それは本気で人類を滅ぼしかねない、まさしく悪魔の能力だ。


 そしてもう一つ、恭介にかけた能力がある。


「……あの時の俺にとっても、今の俺にとっても、これは必要な力だ。今更返せとか言うなよ?」

「言わないよ~。そもそも私の手からそれはもう離れてるから。君が精神系の能力者だったからかな? 変に混ざっちゃっておもしろいよねぇ」


 面白くもなんともないとぼやき、露骨に嫌な顔をする恭介。


 体力の回復と時間稼ぎのためには、このままお喋りを続けてもらったほうがいいのだが、いつ切りかかろうかと心の底でどうでもいい葛藤とも戦う羽目になっていた。


 アズミが恭介にかけた能力”愛の鼓動(ハートビート)”。


 ある特定の条件を満たした相手に植え付けることのできる、寄生型の技能だ。効果は『対象者の能力補正アップ並びに服従効果』。要は体のいい強靭な(しもべ)を生み出す技能である。


 服従効果は経過時間により効果増幅されるが、恭介はどうやらその枷からはすでに外れているらしい。アズミに刃を向けることすらできない、という発言は事実それだけの力があるという、自信の表れでもあるのだろう。もちろんほかにも隠し持った技能はあるだろうが、恭介にもアドバンテージがないわけではない。


 アズミの技能”愛の鼓動”を克服したからなのか、大鎌による攻撃は最悪受けてしまっても、その効果を受け付けることはない。ひどい不快感に襲われるだろうが、制御掌握の効果を受け付けないというのは、アズミを相手取るうえで大きなメリットと言えた。


「さってと、そろそろ人形ごっこも飽きたし、今度は私とやろっか♡」

「……!」


 アズミの呟きと共に、椅子が地面に消える。


 代わりに取り出した大鎌を、準備運動とばかりにくるくると振り回す。恭介にとって願ってもない申し出である。正直延々と物量作戦で来られれば、恭介はいずれ負けていた。


 今回の鬼ごっこに限らず、いずれは超えていかなければいけない相手だ。ここで負かせさえすれば、自らの手で全てを掴み取ることができる。己の悲願のためであれば、恭介はどんな相手にでも立ち向かうだろう。


 顔には烏を模した仮面、腰からは黒色の翼を噴出させ、恭介は再び戦場へと身をゆだねるのだった。

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