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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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28/103

28羽:迷走オーバーラン

 戦闘は延々と続いている。


 疲労が積み重なり、時間間隔もあやふやになる中で、最初ごろの勢いは全くなくなり、もはやただ意地と使命感だけで戦っている状態だ。


「はぁはぁ……、ぐっ!!」

「剛さん、右斜め飛ぶよ!」


 決死の覚悟で恭介人形の群れに挑み、前進を続けてきた剛達。


 その歩みはだんだんと鈍くなり、逆に押し返されつつあった。前線で奮闘する剛ではあったが、防御はもはや”日輪(サンリング)”頼みになり、動きにも精彩を欠いている。見兼ねた甘菜が恭介人形達の背後へと周り、防御から一転、反撃へと繋げる。


「はぁ……悪い、助かった」

「ううん、次来るよ……!」

「ちぃ……!!」


 影人形相手に危惧する一番の問題は、体力だ。


 相手は当然ながら疲れを知らない。当然剛達も持久戦を考えているわけではない。ただ厚いのだ。少しずつ減らしているのは間違いないのだが、それをあざ笑うかのように影人形の生成は止まらない。


 一方向からしか沸いてこないため、大本が近いのは間違いないのだが、そこにすらなかなか到達できない。切り込めたかと思えば、黒の刃の反撃にあい、距離を取らざるを得なかった。


「はぁはぁ……霞、もう少しだけ頑張れるのか?」

「う、うん……」


 日野兄妹の限界も近い。


 大智は左手の吸収と放出をメイン武器として、霞の護衛兼、剛が漏らした敵の相手を買ってくれている。戦闘経験はほとんどないにも関わらず、剛から受けた身体強化の恩恵をフルに使い前線を支えている。必要であれば肉弾戦も厭わず、前後へのフォローをいっそ献身的なまでに行っていた。


 霞は霞で、この戦線を支える柱だ。彼女の能力なしでは、とっくに影に呑まれていただろう。


 各自への”日輪”のフォロー、炎での牽制など、目まぐるしく状況が動くこの戦場で、小学生の女の子に伸し掛かる負担はどれほどか。それでも彼女は弱音一つ吐かず、己の能力をコントロールし続けている。


(多少無理やりでも遠距離移動を使うしかない……)


 剛に背負われたままの甘菜は考える。


 彼女とて、高速で戦闘を続ける剛の背中でただ揺られているわけではない。それだけでも負担はあるが、剛の補助や全体を見据えての転移などやることは多く、彼女自身にも余裕はない。そんな中、出した結論。


 今の作戦は遠距離への移動を諦め、最短距離を抜けようというもの。


 それが抜けないのであれば、必然的に頼るのは一つ頭をぽーんと飛び越える裏技。結局遠距離移動に戻ってくるわけだ。


 それ自体はやろうと思えばできる。ただ問題なのはそれにかかる時間だ。今の状況で、甘菜を守りながらそれまで耐えるのは無理だ。黒の刃に捕まり、動きを止められてしまうのがオチである。


 何より今は、近接戦闘用の恭介人形も近い。一度隙を見せれば、瞬く間に捕まってしまうだろう。


 一度は否定したその方法だが、もはややらなければならない。このまま続けてもこの壁は越せない。最初の勢いそのままに突破できれば何も問題はなかったのだが、いかんせん手札が乏しすぎた。


 もう一つの誤算は、恭介人形の強さだ。


 恭介ほどの強さはない。それは断言できるが、彼らは彼らで学習能力があるらしく、剛や大智の能力を理解した上で行動してくるようになったのだ。


 黒の刃は近接戦闘で恭介人形達を迎え撃っている間にも散発的に飛んでくる。彼らにとって、例え味方の影人形がそれに巻き込まれても困るものではない。いっそ自爆的な攻撃は甘菜の転移がなければ、とてもではないが捌けなかっただろう。


 そして吸収能力のある大智には、近接戦闘を仕掛けてくることが増えた。


 その度に霞のフォローが必要となり、全体の押し上げが鈍る結果となった。大智は大智で霞の炎をうまく利用し、時には吸収し敵を退ける。明石の攻撃を参考にしたのか、一瞬だけ吸収し、相手の首を断つ戦闘法まで生み出していた。


 各上であるアズミの能力が生み出した影人形を吸収しつくすのは、彼の能力では荷が重かったが、全く通じないわけではない。もちろん剛から預かった身体強化の恩恵がなければ、そこまでの動きはできなかっただろうが、彼は自身の今持つ手札を駆使し、最大限の活躍をしているのは間違いなかった。


 おそらく剛も甘菜と同じ結論に至っているだろう。


 それでも指示を出すことができない。今辛うじて保っている均衡を、簡単に手放しかねないからだ。耐えられる勝算がなければ動けない。ただ動くにしても体力が残された状態の内に決断をしなければいけない。それでも手が足りない。やみくもに動いても失敗するだけだ。何か手はないか、何か。


「剛さん、避けて!!」

「……!!」


 思考に意識を取られすぎた。


 今この場で判断を下すべき立場にある剛は、元々それほど頭はよくない。戦闘経験から裏打ちされた判断力で戦場の流れを感じ取り、今まで指揮を執っていたが、一度詰まると脆い。甘菜の声に現実に引き戻された剛を甘菜が懸命に庇う。


 後ろから忍び寄った恭介人形に手を掴まれ、転移で撒くことができない。振りかざされた黒刀は鋼鉄化の恩恵を受けている甘菜が身を張って防ぐ。それでも相手の力に押され、擦り傷が刻まれていく。


「はなれ、ろ!!!」


 力任せに放った一撃で、迫った恭介人形を吹き飛ばす。


 ただ人形の手は甘菜をしっかりと握ったまま。雑な固定で今まで乗り切っていたが、この場面で剛と甘菜が引き離されるという事態に見舞われてしまった。機動力を失った剛に恭介人形が群がる。脚力効果の恩恵はまだ残っていたが、いかんせん彼の体は限界を迎えていた。


 甘菜が何か叫ぶがよく聞こえない。


 日野兄妹も懸命にヘルプに向かおうとするが、ほかの恭介人形達がそれを許さない。最初の脱落者がまさか自分になろうとは。スローで動く世界で、剛はそんなことを他人事のように思うだけだった。



「やっぱり私がいないと駄目なわけね」


 予測した脱落の瞬間は訪れなかった。


 地面に転がった剛を襲った恭介人形は根こそぎ、横から乱入した黒くて速い何かに吹き飛ばされた。それらは複数展開し、甘菜や日野兄妹に迫る人形すらも粉砕し、やがて一人の人物の元に集まっていく。


「美紗……」

「とんだ腑抜け面ね、剛。さあ、反撃と行くわよ」


 そこには剛達と別れ、すでに前線からは退いたと思われた尼木 美紗の姿があったのだった。

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