20羽:乙女心クェッション
「……それが早計に大智確保に動いた理由か?」
「ふふー、まあね」
少しのぞかせた矛は戻したのか、恭介の問いかけに上機嫌に答える。
「お兄さんのほうはたぶん分かってなかっただろうけど、あなたのその能力にも落とし穴があったの」
「え……?」
「あなたの能力『略奪者』の推定ランクはA-。十分強いけど、妹ちゃんの能力はもっとすごい。彼女の能力『紅焔』の推定ランクはA+。限りなくS-に近い、ね」
「Sランクに近い……!!」
驚いたのは大智だが、逆に思い当たる節もあった。
何故なら奪ったはずの炎の能力が、何故か解除もしていないのに妹に戻ったからだ。あれはそう……霞が面会に訪れてその数時間後だった……。
「俺の能力のかかりが不十分だった……?」
「私の見立てでは、あなたの能力は相手の能力ランク、言ってしまえば能力の格に左右される。つまり各上相手には効きづらい、もしくは十分には奪えない」
「そんな……」
落胆する大智に、アズミはさらなる追い打ちをかける。
「一つの証拠になりそうなのが、あなたのその今奪っている能力」
「あ……」
アズミの言葉に思い出したのか、シャツを捲る大智。その胸には輝かしい紋章が発現していた。
「それは、剛さんの『武勇紋章』……。やはり、お前が奪っていたのか」
「すみません……」
恭介が大智の本当の能力に気づけた一番の大きな理由。それは大智の監視役についていた野津木 剛からの話があったからだった。
*
「俺の能力が奪われた」
「は?」
剛が話してくれた内容は、にわかには信じられない話だった。
それでも、大智が美紗達を撒けた要因、剛が現状能力が使えないこと、そして大智が能研を敵に回してでも守りたかった何か。その一つ一つが繋がり答えへと導かれたのだ。
大智には能力を奪う力がある。
それほどの力、炎の能力がメインと考えるとあまりにも分相応だ。
決して大智を貶めるわけではない。奪う力のほうがメインと考えるほうが、まだ能力者事情の枠に収まる、というだけの話だった。そこを前提に置くと後は面白いように繋がっていった。
結果、アズミの見通し通り、不完全な状態で奪われていた『紅焔』は接触を期に本来の持ち主、妹の霞へと戻った。再びコントロールを失った霞は、暴走して人に被害が出ることを懸念してか、件の工場地帯へと足を踏み入れたのだろう。
「確かにこの人の能力は、すんなり使えました。『紅焔』はどこか開かない引き出しがあるかのような、そんなもどかしさがずっとあったんですけど……」
剛の能力『武勇紋章』。異なる紋章を行使して、身体強化ができる能力だ。
影人形達との戦闘において、恭介が到達するまでに大智が持ちこたえられたのは、この能力の恩恵によるところが多い。少ないながら使用していた炎の能力は、霞に出会ってからストックのような形で、左手で吸収していたものだろう。
「いずれ妹ちゃんが暴発するのは目に見えてた。その時、お兄さんがどんな行動をとるのか、それが見たかったの♡」
満面の笑みで悪びれもせず答えるアズミ。
策略を巡らせた悪事を働くより、おぞましい何かを感じる。こいつは根底から狂っている。いや、人として何かが欠けているのだ。あるいはその欠けている物にこそ、執着して異常な行動をとっているのか。
「結果、お兄さんは能研を敵に回してでも妹ちゃんを助ける道を選んだ。本当に尊くて……私はそれが見れただけで十分満足なの……はぁ」
全く1ミリたりとも理解する気にはなれなかったが、ある意味大智はアズミのお眼鏡にかなった働きをしたと言える。
「だから、私のわがままはおしまい」
すーっと息を吐き、己の影から棒状の何かを引っ張り出す。
「後は単純に能研に歯向かう異分子を処理、これで解決♡」
「逃げろ、大智!!!」
脈絡なく振り降ろされる大鎌。
それは躊躇なく日野兄妹の命を確実に刈り取る速度と勢いを持っていた。その間になりふり構わず入った恭介。突き飛ばすような形となり、防御態勢も間に合わなかった恭介の背中に深々とその凶刃が突き刺さった。
「ぐ……がぁああ!!!」
「恭介さん……!?」
「恭君……!?」
呻く恭介をよそにすっと大鎌を戻すアズミ。
苦しそうにする恭介だったが、まるで影人形と同じように血は流れず、目立った外傷もないように見受けられた。
「あらら、邪魔してくれちゃって。今更君にこれ効くのかなぁ」
「ああぁぁあああああ!!!」
うずくまる恭介の腰から黒い翼が吹き荒れる。まるで制御を失ったようなそれは数秒噴水のように立ち上り、やがて静かになくなっていった。
「はぁ……はぁ……」
「おお、やっぱり耐えたねぇ。私の能力にも抗えるなんて、私もとんだ能力者を生み出してしまったのかも♡」
「だ、大丈夫なの……!?」「恭介さん……!!」
慌てて恭介に駆け寄る二人。霞までもアズミを睨み、その前に立ちはだかろうとする。
「んー、妹ちゃんまで加わるとちょっと話が変わってくるなぁ」
ぽんぽんと、大鎌の柄を肩に乗せ思案するかのような素振りを見せるアズミ。その言葉とは裏腹にまったく焦っている風には見えない。
「あー、でもこれはこれであり? 妹ちゃんからの愛はまだ堪能してないし……」
ぶつぶつと呟くアズミをよそに、恭介は回復し立ち上がるとこまでは来ていた。大智達に心配されながらも、なんとか動くことはできそうだった。
「あ、ちなみにこの大鎌でかすり傷でも付けられたらどうなると思う?」
「何を……」
息を切らせる恭介の横で、大智が微かな反抗の意思を見せる。当のアズミは別に答えを待つつもりはないようで、あっさりとネタバレをし出す。
「答えはねぇ、私と同化するの」
「は……?」
「正確には『切った対象のコントロールを得る』。物理的な傷も残らないし、怖くないよ~。”君に首ったけ”っていう私の十八番の技能。あ、先に見せた影人形は”愛の形”っていうの。可愛らしいでしょ、ふふ。あなた達に使ったのはただの私の能力で生まれた下級トークンだけど、そこに生身の人間を加えることもできるってこと♡」
危険だ。この思想にこの能力。反則級な能力なのは今更驚かないが、使い手が悪すぎる。
もはや詰んでいるのか。触れただけでバッドエンド確定な大鎌。本人自身、影人形のような移動もできるであろう。それから逃れられるビジョンがまったく沸いてこない。
「彼は半分私の能力を取り込んで強くなったようなものだから、その効果も効かないみたいだけどね」
「気分は最悪だけどな……」
なんとか状態を戻してきた恭介が言葉を返し、戦闘態勢に入る。
「うんうん。君はやっぱりいいね。いつ如何なる時でも私を殺しに来てもいい。その約束をしっかり覚えてくれてたからこそ、今回も迷いなく影人形の首を吹っ飛ばせたんでしょう?」
「お前を負かせば【S級案件】の開示をしてもらう、そういう約束だからな」
十分強い恭介がそれでも強さを求める理由。
彼にも何か引けない強い思いがあり、それがアズミとの歪な関係に繋がっているようだ。
(恭君……今なら飛べるよ)
小声で恭介にコンタクトを取る甘菜。
現実問題として、全員で戦いを挑む、という方法はなしだ。とにかくなんとかして逃げるしかない。それは恭介も分かっているようで、あとはそのタイミングに全てがかかっていた。
今正に生死を分ける、極限状態に晒されている恭介達。
誰もが次のアクションへの感覚を研ぎ澄ませている中、それを嘲笑うような呑気な声がアズミから発せられるのだった。
「ん~、そうだなぁ。君らの強い愛に感謝の気持ちを表して、ゲームをしよっか」




