17羽:crow claw cry
暗号名:【影夜叉】。それは恭介の能研内での呼び名だ。
主に作戦時に使われるもので、強者の証でもある。
暗号名を持っているのはほんの一握り。Aランク以上の能力者且つ、能研管轄の任務の達成率が一定以上でないと呼ばれない。
お偉いさんが趣味代わりにつけているだけとの噂もあるが、戦闘時の姿や能力を反映した呼び名となっていることから、全くの適当という訳でもないようだ。
通常の任務【B級案件】では特戦員ほかBランク以下の能力者が当たる。だが手に負えないと判断された案件は、【A級案件】に格上げされ、彼ら暗号名持ちに引き継がれる。実質的な能研の主力部隊であり、対能力者戦においての切り札とも言えた。
鳥の仮面に、黒色の翼をはためかせるその姿は、烏を彷彿とさせる。どこまでも黒づくめであり、【影夜叉】という暗号名は正しく彼のためのあだ名に違いなかった。
組手の時には使用していなかったが、これが彼本来の戦闘スタイルなのだろう。
実際に翼を使って空を飛んでいるわけではないが、その動きはまるで空を飛んでいるかのように軽く、捉えようのない動きだった。恭介には「対象強化」の能力がある。近接戦闘能力には目を見張るものがあり、翼はその動きの補助兼武器として使われていた。
一番近くの影人形から突き出された槍を跳躍で躱し、相手の顔面を蹴り飛ばす。少しの時間差で後ろから別の影人形が剣を振り降ろすが、腰から生えた翼で弾き、もう片方の翼を地面に降ろし踏ん張り、空中で急回転。
そのままの勢いで手持ちの黒刀で一閃。上体の崩れた相手の首を跳ねる。半ば無茶な態勢からでも、第3,第4の手足として翼を使うことで、うまく方向転換や反撃に用いている。
翼の先は鋭利な3本爪のようになっており、それだけで凶悪な武器にもなり得ている。まるで意思があるかのように動き、瞬く間に相手の首を跳ね、その数を減らしていく。
業を煮やしたのか、残りの影人形達は一か所に集まり、同時攻撃に移る。
玉砕覚悟の特攻だ。恭介の言う通り、全員実体のない影人形だとすれば、そういう運用こそ能力を最大限に活かせる方法なのかもしれない。恭介はうまく立ち回りながら、一対多数の状況でも、一人ずつ切り結び数を減らしていった。
ただここで求められるのは、まとめて相手を倒せる力、すなわち破壊力だ。恭介の腰から翼が消え、腰に一本の黒刀を戻すと、もう一つ残した黒刀を両手で構える。
黒刀に沿うように影が渦巻き、短刀ほどのサイズだった刀身が如実に伸びる。その切れ味や、威力も恐らく「強化」されているだろう。能力を一身に受けた黒刀はその破壊力を、向かってくる影人形達に全て解き放つのだった。
*
「終わったな」
膝の上を叩き、埃を払い落とす恭介。
まるで準備体操でも終わったかのような気楽な感じで言われ、大智は返す言葉が見つからなかった。
「すごい、本当にやってのけた……」
辺りを見渡すと、先ほどの影人形は一体たりとも残っていなかった。
会話をしていた影人形がリーダー、もしくは支部長本人かとも思ったが、恭介の睨んだ通り、全員能力で生み出された影人形だったようだ。もちろんあれが支部長の能力全てではないだろうが、恭介一人で凌ぎ切ったのも事実。
首を跳ね飛ばさないと止まらない、身体強化能力者並に動ける集団を相手に無傷で勝つなど、例えAランク能力者と言えど簡単なことではない。
「甘菜、こっちに来てくれ!」
「は、はい!」
恭介が声を張り上げ、甘菜を呼ぶ。
飛んできた甘菜はまるで恭介と一緒に戦っていたかのように、汗をかき心なしかぐったりしていたが、なんとか一つ乗り切ったことで元気も取り戻してきたようだ。
「もう~~~っ、どれだけ危ない橋を渡るの!! 恭君のばか!!!」
「すまん、相手があいつだけと分かったもんだから、行くのに躊躇う必要がなくなってな」
「知らない! ばか!! もう!!!」
「……悪かったよ」
恭介に抱き着く勢いで猛抗議する甘菜の頭を撫で、謝罪をする恭介。
今回は恭介の戦闘能力でなんとかこの場を凌ぐことができたが、甘菜の協力がなければひょっとしたら間に合わなかったかもしれない。恭介にも随分と危ない橋を渡った実感はあったのか、甘菜をあやしつつ、その抗議をただしっかりと受け止めるのだった。




