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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う

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16羽:真相へ至る道

「しばらく見ないうちに随分ぼろぼろになったな。生きてるか?」


 聞き覚えのある淡々とした物言いだが、大智には驚きしか出てこなかった。


「な、なんで……」


 大智が戸惑うのも無理はない。


 大智の監視役である美紗達に堂々と刃を向けたのだから、それは能研への反逆だ。もとより能研に入った経緯が経緯なだけに、今更言い訳も挽回も不可能だと思っていた。それなのに、今能研所属のこの人は、大智を守る形で身を挺してこの場に立っている。


 驚きが収まってくると、今度は嬉しさが沸き上がってきた。だがいまだ恭介の真意が分からず、腕を伸ばし声を発しようとするが、言葉にならない。


「おいおい、()()()()()()()()のはやめてくれよ?」

「……!? ……なんでそれを……恭介さん、あなたはどこまで……」


 にやりとする恭介は、あてずっぽだと呟きながら、何かを確信するかのように小さく頷いていた。そんなやり取りが行われている中で、周りはもちろんただ見ているだけではない。


 突然の横やりにも動じず、早々に反撃に転じた特戦員が間近に迫る。


「恭介さん、にげっ……!」

「いいか、大智。こいつらはこうしないと止まらない」


 振り降ろされた剣をいなし、回転しながら振りぬいた恭介の黒刀は、相手の首に吸い込まれそのままきれいにすっ飛ばした。


「はっ!? いや、ころ、死んだ……!?」


 特戦員のとんでもない耐久力を見せつけられたばかりの大智ではあったが、いくらなんでもこれは無理だ。人を殺したかもしれないという衝撃は、大智にとって人生で感じたことのないほどの恐ろしいものだったが、今度は見せつけられる形で死を目の当たりにする。


 首を吹っ飛ばされた特戦員の一人は、少したたらを踏んだ後、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。


 そのまま影のように黒く染まり、個体から液体に溶け出すように地面に吸い込まれ消えていった。後には何もない。真っ赤に染め上げる血も、吹っ飛んだ首も見当たらない。最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消えた。


 もはや大智の頭は展開に追いつけず、発する言葉さえも失い、ただ呆然とするのみだった。


「大智」

「……は、はい!」


 大智の意識を強制的に引き戻したのは恭介の声だ。


 もはや何と戦っていたのか忘れそうになる。ただ一つ確かなのは大智の窮地に恭介が、いや恭介達が駆けつけてくれた、その事実だけだった。


(な、なにやってるの恭君~~~!?)


 建物の物陰から見守る甘菜は声にならない悲鳴を上げる。


 心配で近づきすぎたせいか、大智には見つかってしまったみたいだが、戦闘の足手まといになるわけにはいかないので、こうしてじっと待機しているのだった。


 本来の流れは頃合いを見計らい、恭介が大智を救出し、甘菜の転移能力でまとめて逃げ出す、というものだった。多少の小競り合いこそ覚悟はしていたものの、特戦員との面と向かった戦闘は計算に入れていなかった。これでは恭介達まで完全に反逆者扱いだ。


 ただどうも様子がおかしい。


 恭介は何か今までの事件の中で、引っかかっていることが多々あったようだ。手のひらに汗を滲ませながらも、甘菜はぐっと堪え、恭介の帰りを待つのだった。



「俺には事の顛末が分かってきた」

「恭介さん……」

「とんだ茶番だ。だが落ち着いたらお前の口から直接話を聞きたい」

「……」


 大智には紡げる言葉がなかった。能研の中では短い期間ではあるが、一番お世話になった人だ。


 能力戦のイロハを教えてくれた人。新しい世界への道しるべとなってくれた人。寮での反省会では、普段の毅然とした態度から少し内面を覗かせてくれた。心を開いてくれた。そんな人を大智は裏切った。最悪の形で。


「気持ちの整理に時間がかかるのは分かる。何よりお前が起こしたことは取り返しがつかない」

「はい……」

「だが償うことは、できる。悪いと思ってるなら、後で大人しく説教を受けろ」

「はい……!」


 もはや涙が止まらなかった。


 突き放しながらも最後には包み込んでくれる、恭介はそんな人だ。ここまで言われて、自分のために危険を顧みず乗り込んでくれた人に、もう嘘は付けない。


「全て、全て話します……だから恭介さん」

「なんだ」

「勝ってください……!」


 数は一人減ったが、まだ十数人の特戦員達が周りを囲んでいる。


 恐れも怯えもなく、ただ無機質に構える特戦員達は、どんなホラーよりも不気味に見えたが、恭介にもはや憂いはない。


「……なぜ邪魔をする、【影夜叉(かげやしゃ)】」

「……!?」


 今まで全く言葉を発することのなかった特戦員の内の一人から疑問が投げかけられる。仮面に遮られ相手の表情などは分からないが、若い男の声であった。


「能力の一端を見せておいて、まだ白を切るつもりか?」


 先ほど恭介に首を吹っ飛ばされ消えた特戦員の事だろう。大智もあれを見た後では、この特戦員達が全員生身の人間だとは思っていない。十中八九、能力絡みだろう。


 組手の中で大智も見たことがあるが、恭介の同僚にも人形使いがいる。彼女のように能力で人形を作り出せる能力者がほかにいたとしても、それは別段不思議なことではない。彼女の場合は、何故かメイド衣装に身を包んだ2体の戦闘人形であったが。


 特戦員の恰好をしているのも、能力で作られた人形だと悟られないようにしていたのかもしれない。


「今回の件はあの方が指揮を執られている。何も問題はないが?」


 あの方、とはこの1区の2代目支部長で間違いないだろう。美紗達を監視役に据えておきながら、途中から急に出張ってくるなどどたばた感は否めないが、確かにおかしくない話だ。


「気づいてないとでも思っているのか?」

「なに……?」

「ここにいる特戦員もどきは()()()()()()()()()()()()()()()だろう。ほかの誰にも見分けがつけられなくても、俺にだけは分かる」

「……」


 特戦員の沈黙が答えなのか、恭介の断言に返答はなかった。


 困惑するのは大智だ。今までの会話を整理すると、大智を追ってきたのは1区の支部長その人。まさか能研の最高戦力の一角に目を付けられるなんて。彼自身は、その支部長本人に会ったことすらないというのに。


「さて、先に答え合わせを進めてもいいが……まずは散々手間を取らされたお礼をしないとな」


 もう話し合うことはないと、恭介が臨戦態勢に入る。


 いくら恭介が強いとはいっても、相手は全ての能力者の頂点に立つ、たった七人の悪魔、その一人だ。ランクはS+。歴史と呼ぶには短い数十年の間ではあるが、能力者が生まれだしてから、確認及び認定されているS+ランクの能力者は10人にも満たない。


 対する影人形達、いや支部長側もこれ以上会話を続ける気はないようで、武器を構えじりじりと包囲を狭めていく。もはや大智に止めるすべもないが、自身が発端となった騒動なだけにやるせなさが募っていく。


 今の自分が足手まといにしかならない現状が、大切な人を危険に晒し、愛する人を自分の手で守れない、そんな現状がただただ悔しい。


「よく見ておけ大智」


 不意に恭介から言葉をかけられ、思わずびくっとしてしまう。


「能力は使い方次第で、どんな武器にもなる。力不足だと嘆くなら磨いて磨いて磨きぬけ。そして考えて考えて考えろ。決して立ち止まるな。これからを生きろ」


 顔前面に右手を添えた恭介の顔に、影が集まりやがて一つの形へと収束していく。それは鳥のように先がとがった仮面。漆黒の仮面を纏い、腰の短刀を2本引き抜くと、腰からも影が溢れるように噴出した。


 やがてそれは鳥の翼のような、巨大な3本指の鍵爪を有した手にも見える、黒の奔流をたなびかせながら特戦員の中へと踊りこんでいった。

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