13羽:悪魔的スペキュレーション
裏で指揮を執っている人物が判明した。
ここ1区での最高戦力。七人の悪魔の内の一人。能力社会の象徴。様々な呼び方で呼ばれ畏怖される、支部長その人だった。
突然の大物の登場に、美沙は驚きよりも先に呆れが来てしまったようだ。
「Aランク一人に熱上げちゃってまあ……。初代が第一線を引いてから引き継いだ、2代目支部長……か。普段表に出たがらないくせに、どういう魂胆なんだか」
ぼそっと呟く美紗。
だが先ほどまでの勢いはなく、どこか気が抜けているようにすら見える。
彼らは支部長というポストにこそいるが、実務的な部分は別に専門の所員がしっかりついている。何せ能力者といえば、10代、20代の若者が大半。支部長においても例外ではなく、こと第1区の2代目支部長に関していえば、まだ10代。支部長の中でも最年少である。
ある程度の権限はあっても、政治や権力的にどうこうということはない。特区に置いていえば、むしろこの能力世界を統べる象徴としての意味合いが強い。
だからこそ、こと戦闘に関しての信頼は絶大だ。絶対と言ってもいい。
支部長の名において行われる捕獲作戦。その結末は決まっている。どれだけ足掻こうとも、最終的に控えているのが特区に7人しかいない最強の一角だからだ。
つまるところ、美紗達の役目はすでに終わったということに違いなかった。
あとは入口封鎖という、万が一に備えた任務を全うするだけ。万に一つもないかもしれないが、監視役を満足にこなせなかった身としては、これ以上の失態をさらすわけにはいかない。ここは今一度気を引き締める場面だろう。
人員の配置などを工場地帯の見取り図を見ながら確認をする美紗と特戦員達。元々包囲組と突入組を含めた人員を導入していたこともあり、包囲に穴はなさそうだ。
「恭介。それから甘菜も悪かったわね。巻き込んでおいてなんだけど、たぶんこれ以上の仕事はないわ」
「そっかぁ。大智君と霞ちゃんが無事に保護されるなら、それでいいんだけど。大丈夫なんだよね?」
「それについてはすでにあたしの手からは離れちゃったから、無責任なことは言えないわね」
美紗との会話の中でも、中を心配して不安げな表情を浮かべる甘菜。
甘菜は車椅子に乗ったままで、流動的な作戦には組み込みづらい。負傷者や万が一に備えて、転移役にはいてもらいたいが、美紗には甘菜を深いところで使う算段はなかった。
同僚から見てもお人好しで己を顧みない面もあり、わりと運用にははらはらする。そう思っているのは内緒だが、恭介が一緒にいるのであらば、そこは任せることができるだろう。
恭介と言えば、先ほどからいやに静かだ。
逃亡者である、日野 大智の教育係を務めていた恭介。情に厚い彼は、自分でなんとかしたいという思いは人一倍持っているはずだ。元々口数こそ少ないが、割と頑固な一面があり、何か問い詰めてくるものと思っていた。
当の本人は甘菜の後ろに控え、何か考え事に耽っているようだった。
「おーい、恭介。話は聞こえてたと思うけど、大丈夫?」
「……」
事実上監視役を外された美紗だが、本当に憤っているのは恭介かもしれない。
そう思っての気遣いの言葉だったのだが、恭介には全く届いていないようだった。顎に手を当て、さっきから何かずっと考え込んでいるようだ。
「俺は支部長のお気に入りらしい」
「はあ?」
離れようとした矢先に声をかけられ、突拍子もない声を上げる美紗。
大和にそう言われた、という恭介の次の言葉を待ってみるが、また黙り込んでしまった。仕方なしに真意を聞き出してやろうと、美紗は問いを投げかける。
「支部長のお気に入りね。それが何か関係あんの」
「俺自身は微塵もそういう意識はないが」
「ないけど、なに」
「あいつが歪んだ人間だということは知っている」
言い切った恭介の目は、すでに前だけを向いており、何か強い意志を秘めているように感じた。そして出入り口を封鎖している特戦員達の間をすり抜け、工場地帯内に入ろうとする。
「ちょ、ちょっと、あんた話聞いてなかったの!? 私達の役目は入口の封鎖! 分かってる!?」
「分かっている。美紗達に迷惑はかけない。頼むから行かせてくれ」
「全然分かってないでしょ! あんた達も見てないで、止めなさい!」
特戦員を3,4人引きずりながらなおも前進する恭介。最終的に美紗に空中に浮かべられ、また外へと連れていかれたのだった。
*
「美紗」
「なに」
「いい加減降ろしてくれ」
「降ろしたらどうする気?」
「中に向かう」
「反省の色なしか!」
まあまあと興奮状態の美紗をなだめる甘菜。
振り回される側の美沙は手をわなわなさせながら、癒しをよこせーっと喚きながら甘菜に抱き着く始末。それを宙にぷかぷか浮かびながら、黙って見ている恭介。甘菜の悲鳴のみが響き渡るこの空間は、控えめに言ってもカオスだった。
「……お前らなにやってんだ」
「ばかのお守りよ、そういうあんたはようやくお目覚め?」
カオスたるこの空間に割って入ってきた勇者は、野津木 剛。
美紗と一緒に日野 大智の監視役を務めていた男だ。工場地帯に転移してからも抜け殻のままだったが、騒がしさに目を覚ましたのか、ようやく復帰したらしい。
「恭介に話しておきたいことがある」
持ち前の元気と活力はまだ回復していないようだが、真剣身を帯びる声色には、何か無視できない迫力がある。美紗もしぶしぶ従い、恭介を地に降ろすのだった。




