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二人旅~朴念仁は日本全国制覇する!~  作者: 涙目


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9/12

第九話 職人の街と伝統工芸

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「次は、京都伝統産業ミュージアムです!」


 二条城を出たところで、藤宮さんがスマートフォンの画面を見せてきた。


「伝統産業ミュージアム?」


「はい! 京都の伝統工芸品をまとめて見られる場所なんですよ!」


「……伝統工芸ですか」


 昨日、清水寺へ向かう途中で見かけた清水焼を思い出す。


 あのときは店先を眺めただけだったが、ほかにも京都にはいろいろな工芸品があるのだろう。


「どのあたりにあるんですか?」


「左京区の岡崎というところです! 二条城前から地下鉄東西線に乗って、東山駅で降りましょう!」


 藤宮さんが地図を拡大する。


 目的地は、京都市勧業館という建物の地下にあるらしい。


「みやこめっせ……ですか」


「そうです!」


「ここなら、移動もそれほど大変ではなさそうですね」


「でしょう!」


 俺は時計を確認した。


 まだ見学する時間はありそうだ。


「では、行きましょうか」


「はい!」


 こうして俺たちは、二条城を後にした。


◇


「……随分と雰囲気が変わりますね」


 東山駅から地上へ出て、歩きながら周囲を見渡す。


 先ほどまでいた二条城周辺とは、街並みが違っていた。


 大きな道路。


 落ち着いた住宅や商店。


 そして、周辺には文化施設らしい建物が点在している。


「あっ、悠真さん! あれ見てください!」


 藤宮さんが指さした先には、大きな朱色の鳥居が見えた。


「……鳥居ですか?」


「平安神宮の大鳥居ですよ!」


「平安神宮……」


 名前は聞いたことがある。


 ただ、今日の目的地は神社ではない。


「そちらにも行くんですか?」


「今日は時間が足りないので、またの機会ですね!」


「そうですか」


 少し残念だが、仕方ない。


 京都には見たい場所が多すぎる。


 すべてを一度に回ろうとすれば、かえって落ち着いて観光できなくなりそうだ。


 やがて、目的の建物が見えてきた。


「ここです!」


「……京都市勧業館」


「みやこめっせっていう愛称があるんですよ!」


 建物の案内を確認し、地下へ向かう。


 そこには、京都伝統産業ミュージアムの入口があった。


「さて、何があるんでしょうね」


「ふふふ、楽しみにしてください!」


 藤宮さんに続き、俺も中へ入った。


◇


「……多いですね」


 館内の展示を見た第一印象が、それだった。


 壁一面に、さまざまな工芸品が並んでいる。


 織物。


 染物。


 陶磁器。


 漆器。


 扇子。


 仏具。


 ほかにも、名前を知らない品が数多く展示されていた。


「京都市の伝統産業が、七十四品目も紹介されているんですよ!」


「七十四……」


 思っていたより、ずっと多い。


 京都の伝統工芸と聞いて、俺が思いつくのは清水焼くらいだった。


 だが、目の前には、それ以外にも数多くの品が並んでいる。


「……これ、全部見ていたら結構な時間がかかりませんか?」


「そうですね! だから、気になるものを中心に見ましょう!」


「それがよさそうですね」


 藤宮さんが展示を見渡す。


 そして、一つの場所で足を止めた。


「あっ! まずはこれです!」


「……西陣織?」


「はい! 京都を代表する織物の一つですよ!」


 展示されているのは、美しい模様が織り込まれた布だった。


 金色や赤色、青色などの糸が複雑に組み合わされ、細かな模様を作り出している。


「……綺麗ですね」


「でしょう!」


 俺は展示に近づき、模様を眺めた。


 遠くから見ると、まるで絵が描かれているように見える。


 しかし、よく見ると、一本一本の糸によって模様が作られていた。


「……これ、全部織っているんですか?」


「そうなんですよ!」


 藤宮さんが展示の説明を指さす。


「西陣織は、先に染めた糸を使って模様を織り出すんです!」


「糸を染めてから、ですか」


「はい!」


 俺は少し考えた。


 布に模様を付けると聞けば、完成した布に絵を描くようなものを想像する。


 だが、これは違う。


 糸を組み合わせる段階で、模様を作っているのだ。


「……ということは、どこにどの色の糸を使うか、あらかじめ決めておく必要がありますよね?」


「そうですね!」


「途中で間違えたら、大変そうですね」


 藤宮さんが笑った。


「悠真さん、やっぱりそういうところが気になるんですね!」


「いや、だって……」


 俺は複雑な模様を見つめた。


「これだけ細かいと、完成するまでの作業を想像しただけで気が遠くなりますよ」


「それだけ手間がかかっているんですよ!」


 近くには、製作工程を紹介する映像もあった。


 画面の中で、職人が糸を扱い、織物を作っていく。


 一定の動きを繰り返しているように見えるが、その手元は驚くほど正確だった。


「……速いですね」


「そうですねえ」


「しかも、迷いがない」


 俺は画面を見つめた。


 糸の一本一本を見分けることすら難しいのに、職人は当たり前のように作業を進めている。


 長年の経験があるからこそ、できることなのだろう。


「……これは、簡単に真似できませんね」


「でしょう!」


 藤宮さんは展示されている織物へ視線を戻した。


「西陣織って、帯だけじゃなくて、ネクタイや小物にも使われるんですよ!」


「ネクタイにも?」


「はい!」


 確かに、この技術を使えば、いろいろなものが作れそうだ。


 俺は自分のネクタイを思い出した。


 仕事で使うものは、基本的に値段と使いやすさで選んでいる。


 だが、あの小さな布にも、作り方によってさまざまな違いがあるのだろう。


「……そういえば、西陣って地名なんですか?」


「京都市の上京区周辺にある地域の名前ですよ!」


「上京区……」


 俺はスマートフォンで地図を確認した。


 二条城のある中京区より北側に、上京区がある。


 そして、今いる岡崎は左京区だ。


「……つまり、ここは西陣ではないんですね」


「そうですよ! ここは京都市内の伝統工芸をまとめて紹介している場所ですから!」


 なるほど。


 工芸品の名前と、展示されている場所を混同してはいけないらしい。


 地図を閉じ、もう一度西陣織を眺める。


 これだけ見事な織物が、京都の一つの地域で育まれてきた。


 そのことにも、少し興味が湧いた。


◇


「次は京友禅です!」


 藤宮さんが隣の展示へ向かった。


「京友禅……」


 そこには、鮮やかな模様が施された着物が展示されていた。


 花々。


 流れるような線。


 細かな色の重なり。


 先ほどの西陣織とは、また違う美しさがある。


「……これも織物ですか?」


「京友禅は、染める技術なんですよ!」


「染める?」


「はい! 布に模様を染めていくんです!」


 俺は展示の説明を確認した。


 手描友禅。


 型友禅。


 どうやら、模様を染める方法にも種類があるらしい。


「手描きと、型を使う方法があるんですね」


「そうなんです!」


「……同じ着物でも、作り方が随分と違うんですね」


 先ほど見た西陣織は、染めた糸を織り合わせて模様を作る。


 一方、京友禅は、布に色を染めて模様を表現する。


 完成品だけを見ると、どちらも美しい布だ。


 だが、そこへ至る工程は違っている。


「……面白いですね」


「どちらが好きですか?」


 藤宮さんが尋ねてきた。


「……難しい質問ですね」


「そうですか?」


「ええ。どちらも綺麗ですが、作り方が違うので」


 俺は二つの展示を見比べた。


「西陣織は、糸そのもので模様を作るところが面白いです」


「ふむふむ」


「京友禅は……」


 目の前の着物を見る。


 淡い色から濃い色へ、自然に変化する模様。


 細かな線で描かれた花。


「絵を描くように模様を作れるところでしょうか」


「おお!」


「……何ですか?」


「ちゃんと見てますね!」


「……見学に来たんですから、見ますよ」


「ふふっ、そうですね!」


 藤宮さんは楽しそうに笑った。


「ちなみに、京友禅は江戸時代の宮崎友禅斎という人物と関係が深いんですよ!」


「宮崎友禅斎……」


 初めて聞く名前だ。


「扇の絵を描いていた人として知られているんです!」


「扇の絵ですか」


「はい! その人の名前が、友禅という呼び名に残っているんですよ!」


 俺は展示の説明を読み直した。


 工芸品の名前にも、作り手や技術の歴史が関係している。


「……西陣織は地域の名前で、京友禅は人の名前に由来するんですね」


「そういう違いもありますね!」


 なるほど。


 名前だけでは、なかなかわからないものだ。


◇


「……藤宮さんは、こういう着物を着たことがありますか?」


 展示を眺めながら尋ねた。


「ありますよ! 旅行先で着物を借りて観光することもあります!」


「へえ」


「京都でも、着物姿で歩いている人を見かけますよね!」


「確かに」


 昨日の清水寺でも、着物姿の観光客を何人か見かけた。


 だが、目の前のような立派な着物とは、少し印象が違う。


「……着物って、値段も結構違うんでしょうね」


「そうですね! 素材や技法によっても違いますから!」


 なるほど。


 今まで、着物といえば一つの服装としてしか考えていなかった。


 しかし、使われる布や染め方、仕立てによって違いがあるのだろう。


「悠真さんも、着物を着てみません?」


「……俺がですか?」


「はい! 似合うと思いますよ!」


「そうでしょうか」


「絶対似合いますって!」


 随分と自信満々だ。


「……藤宮さんの方が似合いそうですけどね」


「えっ?」


「先ほどのような華やかな柄とか」


 俺は展示されている着物を見ながら答えた。


 すると、なぜか返事がなかった。


「……藤宮さん?」


「……い、いえ!」


 彼女が少し慌てたように顔をそらした。


「何か?」


「何でもありません!」


「そうですか?」


 不思議に思ったが、それ以上は聞かなかった。


 藤宮さんは一度咳払いをしてから、次の展示へ歩き始めた。


 ……何だったんだろう。


◇


「あっ、これ!」


 藤宮さんが足を止めた。


 展示されているのは、色鮮やかな陶磁器だった。


「昨日見た清水焼ですね!」


「そうですね」


 清水寺へ向かう坂道で、いろいろな器を眺めたことを思い出す。


 今回は、その製作工程も紹介されていた。


「京焼・清水焼って、いろいろな技法があるんですね」


「そうなんですよ! 一つの決まった模様があるわけじゃないんです!」


 並んでいる器を見比べる。


 落ち着いた色合いのもの。


 鮮やかな絵柄が描かれたもの。


 形そのものに特徴のあるもの。


 同じ京焼・清水焼として紹介されていても、それぞれに違った個性があった。


「……これだけ種類があると、選ぶのも難しそうですね」


「だから楽しいんですよ!」


 藤宮さんが笑った。


「自分の好きな器を探せますから!」


「なるほど」


 俺は展示を眺めながら、昨日の湯呑みを思い出した。


 青い模様が描かれた、小ぶりな器。


 結局、買わずに帰ってしまった。


 だが、今日こうして製作工程を知ると、少しだけ見方が変わる。


「……一つの器を作るにも、随分と手間がかかるんですね」


「そうですね!」


 形を作る。


 乾燥させる。


 焼く。


 模様を施す。


 もちろん、すべての器が同じ工程をたどるわけではない。


 それでも、完成した品が店頭に並ぶまでには、多くの作業があるのだろう。


 俺は展示の前で、しばらく足を止めた。


◇


「……そういえば」


 次の展示へ向かおうとしたところで、ふと気になった。


「藤宮さん、こういう伝統工芸品って、どうして値段に差があるんでしょうね」


「うーん、いろいろ理由はあると思いますよ!」


 藤宮さんが少し考える。


「材料の違いもありますし、作るのにかかる時間も違いますし!」


「そうですよね」


「それに、一つずつ手作業で作っているものもありますから!」


 俺は先ほど見た西陣織の製作映像を思い出した。


 細かな糸を扱う職人の手。


 あれだけの技術を身につけるには、相当な年月が必要だろう。


「……単純に材料費だけでは決められませんね」


「そういうことです!」


 俺は頷いた。


 仕事で物品を購入するときは、価格だけでなく、品質や納期なども比較する。


 だが、工芸品の場合は、それだけでは判断できない部分もあるのかもしれない。


 同じ用途の品でも、製作方法や技術によって価値が変わる。


「……そう考えると、安いか高いかだけでは判断しにくいですね」


「悠真さんがそんなことを言うなんて!」


「……どういう意味ですか?」


「いえいえ!」


 藤宮さんが嬉しそうに笑った。


 何だか、少しからかわれている気がする。


「でも、無理に高いものを買う必要はないですよ!」


 彼女が続けた。


「気に入ったものを、自分で納得して選ぶのが一番だと思います!」


「……それは同感です」


 値段が高いからいいものとは限らない。


 安いから悪いものというわけでもない。


 何を求めて、何に使うのか。


 そこが大切なのだろう。


◇


 展示を一通り見終えたところで、ミュージアムショップへ立ち寄ることになった。


「……いろいろありますね」


 店内には、工芸品の技術を生かした品々が並んでいた。


 布製の小物。


 陶磁器。


 扇子。


 生活雑貨。


 展示室で見たものとは違い、こちらは実際に購入できる商品だ。


「あっ、これ可愛い!」


 藤宮さんが小さな布製の小物を手に取った。


 淡い色合いに、花の模様があしらわれている。


「いいですね」


「でしょう! こういうの好きなんですよ!」


 彼女はしばらく眺めたあと、値札を確認した。


「……うーん」


「どうしました?」


「ちょっと悩みますねえ」


「珍しいですね」


「何がです?」


「藤宮さんが買い物で悩んでいるので」


「私だって、何でも買うわけじゃないですよ!」


 少し頬を膨らませる。


「……失礼しました」


「もう!」


 そう言いながらも、彼女は笑っていた。


「旅行に行くと、欲しいものがたくさん見つかるんですよ。でも、全部買ってたら大変ですからね!」


「それはそうでしょうね」


「だから、本当に欲しいものを選ぶんです!」


 藤宮さんは商品をもう一度眺めた。


 そして、そっと元の場所へ戻した。


「今回は、もう少し見てからにします!」


「そうですか」


「はい!」


 彼女は別の棚へ向かった。


 俺も店内を見て回る。


 すると、一つの商品が目に留まった。


「……ああ、これか」


 小さな名刺入れだった。


 濃い青を基調とした生地に、細かな模様が織り込まれている。


 西陣織を使った商品らしい。


 手に取ってみると、思っていたよりもしっかりしていた。


「悠真さん、何か見つけました?」


「ええ。名刺入れです」


「おお! 綺麗ですね!」


「そうですね」


 俺は表面の模様を眺めた。


 先ほどの展示で見たような、華やかな大きな柄ではない。


 だが、落ち着いた色合いで、普段の仕事にも使いやすそうだった。


「買うんですか?」


「少し考えています」


「へえ!」


 藤宮さんが興味深そうに覗き込む。


「今使っているものが古くなってきたので、ちょうどいいかなと」


「なるほど!」


 俺は値札を確認した。


 普段買う名刺入れよりは高い。


 だが、手が出ないほどではない。


 問題は、これを買って後悔しないかどうかだ。


 もう一度、手に取ってみる。


 指先に伝わる生地の質感。


 細かな織り模様。


 落ち着いた色。


「……これにします」


「おっ!」


「せっかくですし、仕事で使ってみようかと」


 藤宮さんが目を丸くした。


「悠真さんが、自分からお土産を買うなんて!」


「……別に、買い物くらいしますよ」


「ふふふ、そうでしたね!」


 彼女は嬉しそうに笑った。


「でも、いいと思います!」


「ありがとうございます」


 俺は名刺入れを持って、会計へ向かった。


◇


「……そういえば、藤宮さんは何も買わないんですか?」


 会計を済ませて戻ると、彼女はまだ商品を眺めていた。


「うーん、どうしようかなあ」


「気になるものがあるんですか?」


「さっきのもいいんですけど、こっちも可愛くて!」


 彼女が見せてきたのは、花柄の布小物だった。


 淡い桃色を基調とした、柔らかい雰囲気の品だ。


「……藤宮さんには、こちらの方が似合いそうですね」


「……えっ?」


「さっきのものより、普段の服装にも合わせやすそうですし」


 藤宮さんが、なぜか黙った。


「……どうしました?」


「……悠真さん」


「はい?」


「そういうこと、普通に言うんですね」


「……何がですか?」


「いえ、何でもありません!」


 彼女は慌てたように商品へ視線を戻した。


 ……またか。


 さっきも、似たような反応をしていた気がする。


 何か変なことを言っただろうか。


「……気に入らなかったなら、すみません」


「違います!」


 即答だった。


「……そうですか?」


「はい!」


 藤宮さんは少しだけ頬を赤くしながら、手元の商品を眺めた。


 そして、小さく笑った。


「……これにします!」


「決まったんですね」


「はい!」


 彼女は嬉しそうに商品を持って、会計へ向かった。


 ……やっぱり、この人の考えていることはよくわからない。


◇


 ミュージアムを出ると、外は夕方の空気に変わり始めていた。


 それでも、夏の日差しはまだ強い。


「いやあ、面白かったですね!」


 藤宮さんが購入した小物の入った袋を持ちながら言った。


「ええ。思っていたより、いろいろなものがありました」


「京都って、本当に工芸品が多いでしょう!」


「そうですね」


 俺は自分の袋へ目を向けた。


 中には、先ほど購入した名刺入れが入っている。


 仕事で使うものを、旅行先で買う。


 今までなら、考えもしなかった買い物だ。


「……これ、会社で使ったら、京都へ行ったことを思い出しそうですね」


「いいじゃないですか!」


 藤宮さんが笑った。


「お土産って、そういうものでもありますから!」


「そういうものですか?」


「はい! 使うたびに、旅行のことを思い出せますよ!」


 なるほど。


 確かに、机の中にしまっておくだけの品ではない。


 毎日使うものなら、自然と目に入る。


 あの織物の製作工程や、展示されていた美しい模様も、思い出すことがあるかもしれない。


「……それなら、いい買い物だったかもしれません」


「ふふっ、でしょう!」


 藤宮さんは満足そうに頷いた。


 少し歩いたところで、俺は彼女へ尋ねた。


「そういえば、藤宮さんは何を買ったんですか?」


「えっ?」


「さっきの小物です」


「ああ!」


 彼女が袋を持ち上げた。


「京友禅の技法を生かした小物ですよ!」


「そうなんですね」


「大事に使おうと思います!」


「いいですね」


「……悠真さんが選んでくれましたし」


「俺は、似合いそうだと言っただけですよ?」


「……そういうところですよ」


「はい?」


「何でもありません!」


 藤宮さんは前を向き、少し早足で歩き始めた。


 ……どうしたんだろう。


 急に歩く速度が上がった気がする。


「藤宮さん、そんなに急ぐと疲れますよ」


「だ、大丈夫です!」


「……そうですか」


 首を傾げながら、その後を追いかけた。


◇


「さて、明日はどうしましょうか!」


 駅へ向かう途中、藤宮さんがスマートフォンを取り出した。


「明日ですか」


「はい! もう最終日ですから!」


 そうだった。


 明日は七月十九日。


 海の日。


 三連休の最終日だ。


「帰りの新幹線まで、まだ時間はありますよね?」


「ありますよ! だから、少し街を歩きながらお土産を探したいですね!」


「お土産ですか」


「はい! 京都といえば八つ橋もありますし!」


「八つ橋……」


 名前は知っている。


 土産物として有名な菓子だったはずだ。


「そういえば、まだ買っていませんでしたね」


「そうなんですよ! 今日は工芸品を買いましたけど、食べ物も見ておきたいですし!」


「では、明日は買い物が中心になりそうですね」


「それだけじゃありませんよ!」


「……まだ何かあるんですか?」


「せっかくの最終日ですから、京都の街をもう少し楽しみたいじゃないですか!」


 藤宮さんが笑った。


 俺はスマートフォンで、帰りの新幹線の予約を確認する。


 出発時刻までなら、確かに少し余裕はある。


「……わかりました。ただし、帰りの時間は守りましょうね」


「もちろんです!」


 彼女は元気よく頷いた。


 俺は予約画面を閉じ、顔を上げる。


 京都旅行、二日目。


 今日は、二条城で歴史を学び、伝統工芸品を見て回った。


 そして、初めて自分のためのお土産を買った。


 袋の中には、濃い青色の名刺入れが入っている。


 今度の出勤日から、早速使ってみよう。


 そんなことを考えながら、俺たちは駅へ向かった。


 明日は、京都旅行の最終日だ。

お読み頂き、ありがとうございます。


- 京都伝統産業ミュージアム「常設展示」

https://kmtc.jp/exhibition/

伝統産業74品目、西陣織・京友禅・京焼・清水焼の展示、製作工程紹介を確認。

- 京都市「国指定伝統的工芸品(染織)」

https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000041367.html

西陣織の産地と特徴、京友禅の歴史・技法を確認。

- 京都市「国指定伝統的工芸品(諸工芸)」

https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000041368.html

京焼・清水焼の特徴を確認。

- 京都伝統産業ミュージアム「ショッピング」

https://kmtc.jp/shopping-2/

ミュージアムショップの存在と取扱商品の種類を確認。作中の具体的な商品や購入場面は創作。

- 京都市「著作権・リンク等」

https://www.city.kyoto.lg.jp/main/site_policy/0000000005.html

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