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二人旅~朴念仁は日本全国制覇する!~  作者: 涙目


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第三話 初めての旅行計画

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 旅行に行くことを決めた。


 行き先は京都。


 目的は祇園祭。


 日程は七月十七日から十九日までの三連休。


 ここまではいい。


 問題は、まだ交通手段も宿泊施設も決まっていないことだった。


「……さて、どうしたものか」


 仕事を終えて帰宅した俺は、パソコンの前で旅行の予定を確認していた。


 昨日、藤宮美咲さんという女性と京都旅行に行くことが決まった。


 二十五歳。


 旅行が趣味で、三連休のたびに各地へ出かけているらしい。


 一方、俺は高瀬悠真、二十七歳。


 観光旅行の経験など、ほとんどない。


 正直、自分で宿泊施設を予約することすら初めてだった。


「まあ、必要なことから決めていくか」


 俺はメモ帳を開いた。


 交通手段。


 宿泊施設。


 集合場所。


 そして、持ち物。


 ひとまず、思いつく項目を書き出す。


 観光する場所については、藤宮さんに任せるつもりだ。


 彼女は京都にも行ったことがあるらしいし、今回の旅行を提案したのも彼女なのだから。


 俺は、自分に必要な準備を進めればいい。


 そう考えていると、スマートフォンが震えた。


『こんばんは! 悠真さん、今お時間ありますか?』


 藤宮さんからだった。


『大丈夫ですよ』


『じゃあ、電話してもいいですか?』


『どうぞ』


 すぐに着信があった。


「もしもし」


『こんばんはー!』


「こんばんは、藤宮さん」


『美咲でいいですよ!』


「……それは、もう少し仲良くなってからで」


『あはは! わかりました!』


 電話の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえる。


『それで、京都旅行のことなんですけど!』


「はい。ちょうど準備を始めたところです」


『おお! さすが悠真さん!』


「まだ何も決まっていませんよ」


『じゃあ、一緒に決めちゃいましょう!』


 どうやら、彼女もそのつもりで連絡してきたらしい。


「それでは、まず交通手段から確認しましょうか」


『はい!』


◇


「今回は新幹線で行きたいんです!」


 藤宮さんが、最初にそう提案した。


「高速バスでは駄目ですか?」


『駄目じゃないですよ! 私もよく使いますし!』


「では、今回はどうして?」


『祇園祭の山鉾巡行があるからです!』


「ああ、なるほど」


 七月十七日に行われる山鉾巡行。


 今回の旅行で、彼女が一番楽しみにしている行事だ。


『朝から始まるので、できるだけ早く京都に入りたいんですよね!』


「それなら、新幹線の方がよさそうですね」


『でしょう!』


 目的地は京都駅。


 俺たちは名古屋駅から新幹線を利用することになった。


 自宅から名古屋駅までの移動も必要だが、京都方面への交通手段としては便利だ。


「……あれ?」


『どうしました?』


「新幹線って、種類があるんですね」


『のぞみ、ひかり、こだまですね!』


「そう、それです」


 予約画面を見比べる。


 同じ京都行きでも、列車によって所要時間や料金が異なっていた。


「この違いは、停車駅ですか?」


『そうですよ! のぞみは停車駅が少なくて、こだまは各駅に停まるんです!』


「ひかりは、その中間ということですか?」


『大体そんな感じですね! ただ、停まる駅は列車によって違うので、確認した方がいいですよ!』


「なるほど」


 確かに、同じ路線でも途中で停まる駅が違えば、所要時間は変わる。


 名古屋から京都へ向かうだけなら、今回はのぞみが便利そうだ。


 続いて、料金の内訳を確認する。


「……乗車券と特急券?」


『ああ、それですね!』


「別々に必要なんですか?」


『基本的には両方必要ですよ! 予約方法によっては、まとめて買えるものもありますけど!』


「そうなんですね」


 画面には、乗車券の運賃と新幹線の特急料金が表示されている。


 なるほど。


 鉄道に乗るための運賃だけでなく、新幹線を利用するための料金も必要になるわけか。


「……普段、車ばかり使っていると、こういう仕組みを知る機会がありませんね」


『確かに、慣れていないとわかりにくいかもしれませんね!』


「とりあえず、合計金額と利用条件を確認すればいいわけですね」


『そうです!』


 俺は予約画面に戻った。


「指定席にしますか?」


『はい! 三連休ですし、今回は席を取っておきたいです!』


「わかりました」


 列車の候補を絞り、出発時刻を確認する。


 ここで一つ気になった。


「……藤宮さん、巡行は最初から見る予定ですか?」


『できれば見たいですけど、今回は途中からでもいいかなって思ってます!』


「そうなんですか?」


『はい! せっかく京都まで行くんですし、無理のない時間に出発しましょう!』


 そう言われて、少し考える。


 俺としては、祭りを見るなら最初から見た方がいいと思っていた。


 だが、三日間の旅行だ。


 初日の朝から疲れ切ってしまうのも困る。


『それに、山鉾巡行は進むのに時間がかかるので、見る場所によっては後からでも楽しめるんですよ!』


「なるほど。では、どのあたりで見るんですか?」


『御池通の方がいいですね! 辻回しも見たいので!』


「辻回し?」


『山鉾が交差点で方向を変えるところです! 前に写真を送りましたよね!』


「ああ、あれですか」


 巨大な山鉾が曲がるところ。


 写真を見たときから、どうやって動かすのか気になっていた。


「それは見てみたいですね」


『でしょう!』


 藤宮さんの声が弾む。


 こういう観光の知識は、やはり彼女の方が詳しい。


 俺は彼女の提案に従い、無理のない出発時間を選んだ。


◇


「次はホテルですね!」


「はい。昨日送っていただいた候補を確認しました」


『どうでした?』


「少し離れた場所の方が、宿泊料金は安いみたいですね」


『そうなんですよ!』


 藤宮さんが選んだ候補には、京都駅周辺のホテルや、市内中心部のホテル、少し離れた地域の宿泊施設があった。


 どこも一長一短だ。


「藤宮さん、二日目と三日目はどうする予定なんですか?」


『二日目は二条城とか、そのあたりを見たいですね!』


「二条城ですか」


『はい! あと、行ってみたいお店もあるんです!』


「なるほど」


 俺は地図を確認した。


 京都駅。


 二条城。


 そして、彼女が送ってくれた観光地の候補。


 位置関係を見ていると、少し気になることがあった。


「……このホテルだと、移動が増えそうですね」


『どれです?』


「一番安いところです」


『ああ、確かに!』


「宿泊費は抑えられますが、三日間の移動を考えると、必ずしも得とは限らないですね」


『なるほど! そこまで考えてませんでした!』


「単純に、移動する回数が多くなりますから」


『さすが悠真さん!』


「……別に大したことではありませんよ」


 仕事でも、何かを比較するときは条件を揃える必要がある。


 目に見える金額だけを比べても、実際にかかる手間まで同じとは限らない。


 今回もそれと似たようなものだ。


『じゃあ、京都市内のホテルにしましょうか!』


「その方が便利そうですね」


『私も賛成です!』


 藤宮さんが別の候補を選び、画面を共有してくれた。


 駅からの距離。


 宿泊設備。


 朝食の有無。


 条件を確認していく。


 そして、予約人数を入力しようとしたところで、俺は手を止めた。


「……ところで、部屋は別々ですよね?」


『えっ?』


「二人で一室ではないですよね?」


 電話の向こうが、一瞬静かになった。


『……あっ、そうですね!』


「はい」


『ふふっ』


「……何か?」


『いえ、悠真さんらしいなと思いまして!』


「そうですか?」


『はい!』


 どういう意味だろう。


 初めて会った女性と、いきなり同じ部屋に泊まる方が不自然だと思うのだが。


『じゃあ、別々のお部屋でお願いします!』


「わかりました」


 俺は二人分の空室を確認した。


 幸い、条件に合う部屋が残っているようだった。


「それでは、ここにしましょうか」


『はい!』


 候補を一つに決め、予約画面を開いた。


◇


「……キャンセル料って、プランによって違うんですね」


『そうですよ!』


 予約画面には、さまざまな条件が並んでいた。


 チェックインとチェックアウトの時間。


 朝食の有無。


 支払い方法。


 そして、キャンセル規定。


「このプランは、キャンセルできる期限が決まっていますね」


『そうですね!』


「こちらは条件が違います」


『本当だ!』


 同じホテルでも、選ぶプランによって内容が異なるらしい。


 俺は一つずつ条件を確認していった。


『悠真さんって、こういうの読むの苦にならないんですか?』


「別に。仕事でも似たようなことをしていますから」


『そうなんですか?』


「一般事務なので、書類の確認や数字の照合はよくありますよ」


『へえ! そういうお仕事なんですね!』


「藤宮さんは?」


『私は企画と広報のお仕事をしています!』


「企画と広報ですか」


『はい! イベントのことを考えたり、情報を発信したりですね!』


「なるほど。旅行先を考えるのも得意そうですね」


『あはは! 仕事とはちょっと違いますけど、好きなことを考えるのは得意ですよ!』


 確かに、彼女ならそうだろう。


 初めて会ったときから、旅行の話だけで随分と盛り上がっていた。


『でも、こういう細かい条件を確認するのは助かります!』


「予約したあとに困りたくないだけですよ」


『それが大事なんですよ!』


 そう言われて、少しだけ考える。


 彼女は行きたい場所を次々に提案する。


 俺は、その予定が無理なく成立するか気にしている。


 どうやら、考える順番が違うらしい。


 だが、今のところはうまく話が進んでいる。


「では、予約しましょう」


『はい!』


 それぞれ自分の部屋を予約し、確認メールが届いたことを確かめる。


 宿泊先が決まった。


 続いて、先ほど候補に挙げた新幹線も手配する。


 こちらも予約内容を確認し、手続きを終えた。


「……これで、ひとまず大丈夫ですね」


『お疲れ様でしたー!』


「お疲れ様です」


『いやあ、助かりました!』


「いえ、観光する場所については藤宮さんに任せきりですから」


『そこは任せてください! 楽しんでもらいますよ!』


「期待しています」


『はい!』


 画面に表示された予約確認メールを保存する。


 これで、交通手段と宿泊施設は確保できた。


 あとは当日の準備だ。


 思っていたより手間はかかったが、決まってしまえば少し安心する。


『悠真さん』


「はい?」


『一緒に準備するのって、楽しいですね!』


「……そうですか?」


『はい! いつもは一人で決めちゃうので!』


 確かに、二人で旅行するなら、互いの希望を確認する必要がある。


 一人旅なら、自分の都合だけで決められるのだろう。


「俺としては、わからないことを教えてもらえて助かりました」


『おっ!』


「……何ですか?」


『いえ、嬉しいなって思いまして!』


 電話越しに、彼女が笑った。


「では、今日はこのあたりにしましょうか」


『そうですね! もう遅いですし!』


「それでは、おやすみなさい」


『おやすみなさい! 悠真さん!』


 通話を終了する。


 時計を見ると、思った以上に時間が経っていた。


「……夕飯、どうしようかな」


 冷蔵庫を開け、残っている食材を確認する。


 いつもと変わらない台所。


 だが、パソコンには京都行きの予約情報が残っている。


 あれほど遠い存在だった旅行が、少し現実味を帯びてきた。


◇


 夕食を作っていると、スマートフォンが震えた。


『悠真さん! 当日は歩きやすい靴で来てくださいね!』


「……靴?」


 確かに、観光するなら歩くことになるだろう。


『普段履いている運動靴で大丈夫ですか?』


『もちろんです! あと、帽子と飲み物も忘れずに!』


『わかりました』


『日焼け止めもあるといいですよ!』


『了解です』


『それと、モバイルバッテリー!』


「……結構あるな」


 俺はメモ帳を開き、必要なものを追加した。


 帽子。


 飲み物。


 歩きやすい靴。


 日焼け止め。


 モバイルバッテリー。


 これなら、家にあるもので大部分は揃いそうだ。


『ほかに必要なものはありますか?』


『うーん、あとは当日の天気を見てからですね!』


『なるほど。雨具なども必要になるかもしれませんね』


『そうです! 祇園祭、晴れるといいですね!』


 天気か。


 確かに、屋外で行われる祭りなのだから重要だ。


 だが、こればかりは自分たちでどうにかできるものではない。


『そうですね。晴れることを祈っておきます』


『はい!』


 そこで、やり取りが終わるかと思った。


 しかし、少ししてからもう一通届いた。


『あの、悠真さん』


『はい』


『今日、一緒に準備してくれてありがとうございました!』


『こちらこそ。いろいろ教えていただいて助かりました』


『でも、私ばっかり楽しみにしてるみたいで、ちょっと恥ずかしいですね!』


 俺は、その文章を見つめた。


 確かに、彼女は最初から楽しそうだった。


 祇園祭の写真を送り、観光地を提案し、ホテルを探す。


 俺はというと、条件ばかり確認していた気がする。


 だが、旅行に行くことを決めたのは自分だ。


 嫌々付き合うつもりなどない。


『そんなことないですよ』


『えっ?』


『俺も楽しみにしていますから』


 送信すると、しばらく返事が来なかった。


 珍しい。


 いつもなら、すぐに返信してくるのに。


 何か変なことを書いただろうか。


 そう考えていると、通知音が鳴った。


『……ありがとうございます!』


 いつもより短い返事だった。


 その後、もう一通。


『じゃあ、絶対に楽しい旅行にしましょうね!』


『はい。よろしくお願いします』


 俺はスマートフォンを置き、夕食の準備に戻った。


 交通手段は決まった。


 ホテルも予約した。


 必要な持ち物も確認した。


 あとは当日を待つだけだ。


「……京都か」


 改めて呟いてみる。


 祇園祭の山鉾。


 清水寺。


 二条城。


 これまでは名前しか知らなかった場所へ、実際に足を運ぶ。


 さて、どんなものが見られるのだろう。


 少なくとも、退屈な三連休にはならなさそうだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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