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「めちゃくちゃ広いじゃないですか。しかも、これシンボルツリー? すげえおしゃれっすね」
「ありがとうございます。ほとんど独学で……いつも好きなガーデナーさんたちを見よう見まねでやってて……恥ずかしいんですが」
「いや、すごいっすよ。フツウにすごいっす」
もっと気の利いた褒め言葉を言えたらいいのに、俺が返す言葉は、どれも呆れるほど薄っぺらだった。理由はわかっている。俺の感情が動いていないせいだ。
花も植物も、樹木も、長年触れてきたおかげで、品種は見ればわかる。庭を見ても、植物が手入れされているか、植栽にこだわっているかもわかる。だが、理解できる一方で興味、関心はない。どれも見慣れた背景のように見えてしまって、まったくワクワクしないのだ。
――とはいえ、あからさまに興味がないような態度を取るのもまた、よくないとわかる。職場の人間関係は重要だ。特に、近しい人間とはそれなりに円滑にしておかないと、仕事にも支障が出る。
そういうわけで、俺は下手なりに、必死に伊吹さんの庭を褒めたのだが、伊吹さんは不思議そうな顔をして、俺を見つめた。
「あのー……どうかしました?」
「あぁ、いえ。べつに」
にっこりと微笑み、伊吹さんは答えた。そうして、トラックの荷台に置かれている、一番重そうな切り花の箱を肩に担ぎ、店の切り花コーナーの作業台の方へ持っていく。
今の、間はなんだったんだ……?
俺は首を傾げたが、ひとまず仕事に戻ろうと、残りの荷物をせっせと下ろした。
***
ひと月経った頃。伊吹さんはかなり仕事に慣れ、接客もレジ操作も、問題なくできるようになっていった。なによりも、彼の強みは、フラワーアレンジやラッピングができることだった。
……いや。もはや彼にできない仕事はほとんどなく、時々、注文品の中に聞き慣れない肥料や薬剤があっても、お客を待たせずにメーカーに問い合わせしたり、似た商品を紹介できるという有能っぷりだった。
伊吹さんは、俺以外のスタッフともすぐに打ち解けた。彼はいつも穏やかで、人当たりがいい感じだし、そもそもイケメンだ。年齢はアラフォーだが、清潔感があって、いつも整髪料の香りなのか、彼の近くにいるとふわりと、フローラルな香りがする。
女性スタッフの中には、伊吹さんのプライベートを知りたがる人が増え、特に「恋人がいるのかどうか」に関しては、誰もが興味を持っているようだった。
植物トークになると、伊吹さんは本当に博識で、花言葉に関しては丸暗記していた。これは、アーケード内の店舗に勤務していた頃、ギフト用のフラワーアレンジの仕事が多かったからだと彼は話していたが、それにしたって、どんな花でもその花言葉をパッと話せるスタッフは、そう多くない。
俺はいつからか、そんな伊吹さんが羨ましいと思うようになった。それは、有能さや物覚えの速さとか、そういうものではない。植物への興味と愛情。それが人一倍あるということが、途方もなく羨ましかった。
品種や花言葉を覚えることは、俺にだってできる。必死に頭に叩き込めばいい。それだけのことだ。しかし、植物そのものへの興味や愛情は、いくら学んだって湧いてくるものではないし、学んで知ってかけられるものでもない。そして、俺にはそのどちらもなかった。
いいなぁ。伊吹さんは……。
だからこそ、欲しいと思った。欲しくて、けれど彼のようにはなれなくて、俺はやっぱり、伊吹さんがひどく羨ましかった。




