9話「注文の多い鹿内さん」
「どうやら私という生き物は悪臭異臭の公害モンスターらしく...缶詰にでも加工してどこが遠い人里離れた誰のものでもない山奥へ祀っておいて下さい」
「それは...打ち捨ててもいいのかな?」
「いいえ祀ってください、それが私個人に対する礼儀であり最低限の礼節というものです...さもないと」
「祟りますよ?」
「なんだか物騒な話だな...」
遠く視認出来るギリギリの位置、遊具を主とした小さな公園の街灯が消えた。
時刻は二十時。
ひょんな事から出会った彼と、ある種の運命じみたものを感じ...はしないがなんとなしに他愛もない井戸端会議の様な与太話を繰り広げてみる。
それというのは他でもない件の彼、高柳 梓が私を引き止めた所から始まった。
所で、ひょんな事のひょんって一体何なんだろう?
なんだか響きがとっても可愛いかも。
私は閃いてしまった、きっとこれはぬらりひょんの『ひょん』だ。
我ながら洞察力に優れている。これは先ず間違いないだろう。
私という奴はたまにこんな画期的な発見もしてしまう。
あぁっまた勝手に思考回路に邪魔が入り込んだみたいだ!
良くない癖だ、悪癖だ、この癖は脳みそがフル回転でどうにも疲れを誘発するから嫌いだ。
例えるならいつも勝手にバックグラウンドで自動再生されているアプリの様な...。
まぁいつもの事...諦めるしかない、さてとさてと切り替え切り替えっと。
兎にも角にも、本題はそんな物語じみた出会いを経て今に至るところから。
「ケープハイラックスみたいな匂いって...一体どんな匂いなの?」
「分かりませんよっ!ケープハイラックスだなんて...見た事も触れた事もないんですからっ!」
ネズミの様でネズミでもない、モルモットの様でウサギにも似ている。
その実、ゾウの仲間だったりもする。
ん〜姿形が想像がつかない……。
「でも私はとっても強くて逞しいので、一見普通の女子高生なら泣いて喚いて保護者呼び出しの大騒動になるところ、涙ひとつと流さなかったんです」
「ふふっ...すごいでしょ」
「それは凄いね...僕なら脇目も振らず泣いてしまうかもしれない...君ってば凄い子だったんだね!」
「そうであろう!そうであろう!」
(き...気持ちいい……ッ!?これは一体っ!?)
こんなにも自己肯定感が満たされたのはいつ以来だろうか?
久しく感じていないまるで産まれて初めての様な感覚。
最後に感じたのは、未就学児、幼稚園、小学校、中学生、そして現在.........。
──────(あっ......今日が初めてだ。)
「それで、思い悩んでこんな所に一人で居た訳?なんというか...行動力のある子だね」
「えぇですから、私はこれから山を探さなければならないんです、誰の持ち物でもない雄大な大自然な山を」
思い返せば散々な人生だった。
嫌なことを嫌と言えず、本当の自分をひた隠し猫を毛皮をそのまま被り続ける...強がりと見栄で構成された醜いモンスター、それが私、鹿内 凛なのだ。
願わくば来世は人間以外に、そうだなぁ、本当にケープハイラックスにでもなれたならいいのに。
「そんな事...」
「もし、あなたに一つ二つ或いは三つ、お願いがあります。私の、缶詰促身仏に関しての」
「お願い?」
「何も難しいことはないですよ。ただほんの少しのせめてもの願い...!!」
「先ず、毎週発売の漫画雑誌は必ず備えてください〇ンプ〇ンデー〇ガジンetc、お菓子は甘いからしょっぱいまで幅広く、アイスは氷菓は有りですがラクトアイスはお断りです。最低でも乳脂肪分3.0%以上のアイスミルクでお願いします。流行りの音楽はJからKまでPOPは一通り聞かせてください。推しの配信も欠かさず見たいのです。なるべくなら画面は大きい方がいいですね。ホームシアターなんか取り付けれれば尚の事完璧です、その為に先ず山に電気を通す事から始めましょうか。それと週末は必ず皆揃ってBBQ...〜etc」
「そ...それ全部かい?」
「私は、もう現世に多くは望みません...ただ山篭りに際してほんの少しの平穏を頂ければいいのです...あっ週に三回はお寿司もお供えして下さい...敬虔なる信徒よ...頼みましたよ」
「(............なんだか面白い子だな)」
「それにしても匂い...匂いかぁ...」
──────くんくん...くん...「うん...?」
鼻を鳴らす彼。
人一人分空けて座すベンチの上、スススー…っと目と鼻の先まで来たかと思えばなんと、首筋に口付けでもするような距離で思い切りと空気を吸い込んで見せたのだ。
「ぎゃっ!?なんですかっなんなんですかっ!!?」
これには私もびっくら仰天。あわやあわや、ベンチから転げ落ちる勢いの狼狽を披露する。
「いや...ケープハイラックスの匂いに興味があって...」
「でもこれは...」
暫く考え込む様な仕草、表情でもって固まっている彼を前に、なんとも言い難い羞恥心のようなものに苛まれる。
何かこう、乙女にとって大事なものを失った様な、空虚な気持ち。
「──────ほ、ほらっ!」
「やっぱり…やっぱり臭いんじゃないですか!でもでも私って奴は用意周到で、予め自己申告してたので決してわるくなんて...ないんだからねっ!」
「もっと…獣臭さやアンモニアの様な匂いを想像していたんだけれど、これはなんというか」
「単に、制服が生乾きなんじゃ...?」
「えっ、生乾き...って生乾き?」




