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10話「はやとちり?」



蓋を開けて見れば、なんともまぁ馬鹿げた話だった。


「実は思い当たる節があります」


「うん、聞かせてよ」

そう短く一度頷くと、傾聴に徹するように静かに目を瞑ってみせる彼。


今朝の事を、数時間前の事から順繰りに思い出してみる。

以降、悪臭事件は以下『私、ケープハイラックスだった件』と呼称する事にする。


「今朝は随分と暑かったですから──────...


例年稀に見る酷暑で、暑さに耐えかねた属するグループの男女数人が悪ふざけの延長で水遊びを始めたんです。

突発的な遊びではあったのでもちろんタオルなど誰一人として持っておらず、徐ろに私へと向けられた視線に耐えかね...泣く泣く...いえ、みんなが風邪を引いたら大変ですから、率先して制服を差し出したんです。

もちろん私もタオルなんて持っていなかったので、仕方なくですが」


「あっもちろん私は参加してませんよ?先生方に見つかったら大変ですから見張っておけって言われて...」

「いえ、私ももういい歳ですから!お水パシャパシャして喜ぶだなんて...そんなこと...自分から辞退して...」


「本当は?」

「…………お水遊び、羨ましかったなぁ」


「まっまぁ!今にして思えば、みんなでハンカチを出し合うのがベストだったなとは思いますが。

自分達の可愛い可愛い限定キャラ物のハンカチが汚れるのか、私の制服で間に合わせるのか...天秤にかけたならやはり後者、きっとそれでも私が制服を差し出す事になっていたと思いますよ」


「何にしても、とにかく馬鹿げた話です」

フィクションの物語の様に激的な展開も無く綺麗なオチもない、つまらない話。

感傷に浸る事もなんだか烏滸がましい些細な出来事。

結局は簡単な話「早とちり」と言う奴だ。

尤も、制服自体は確かに濡れた埃と納豆の様な、獣臭と言われればそう感じなくもない不思議な匂いを発していたわけだけれど。

臭い事にはなんら、変わりないわけだけれど……。

それでも、匂いとやらが自分発信出なかった事に安堵を覚える。

こうなってみては、こんな些細な小さな出来事で喚き立てて、悲劇の被害者ぶってみせて、私はなんて恥ずかしい事か。


あぁ、穴があったら入りたい。

どこか岩場の割れ目や他の動物の巣穴なんかでもいい。

それこそ本当にケープハイラックスの様に。


ところで私は常々思う。

脈絡も前後関係も全くないが今、ふと思ってしまったのだから仕方がない。

それというのはやはり、行動を起こす為にはそれなりの動機、理由付けが必要だと言う事。


しかし現実と言う物はそう都合良くは行かない物で、フィクションの様に舞台装置的に用意される事もなく、超える事を前提とした丁度良い壁なんかも存在しない。

結局、現実は小説より奇なりなんて事は全くもってないのだろうと。

小説は現実よりも奇なりの方が幾分しっくりくるのではなかろうかと。

兎にも角にも事のあらましは日常の取り沙汰する事もないシンプルな一コマ、それそのものであった。


ちゃんちゃん。


「ですが...私なんだか得をした気分です!」


「得?どちらかと言うと損にあたるんじゃない?」


「時間や気持ちの面で見ればそうかもしれません

けれど、私は今日経験をしたんです」


「臭いって言われる経験?それは...それはたくましいね…!?」


「全然全く違いますよっ!」


「...紆余曲折あり、公園でお魚にご飯をあげて、ベンチでお昼寝なんかしていたら、見知らぬ女の子......?と出会ってこんな時間まで話耽けてみる」


「なんだかこれって少しだけフィクションの、漫画で見た青春ぽくはないですか?」


「確かにっ……なんだかいけない事をしているみたいだね」


「ふふっ」

「これで事の顛末が何か匂いを通して相手を催眠出来る力に目覚めたりだとか、この唾棄すべき匂いが実は千年に一人選ばれた証だったりだとか...そんな展開だったなら更に心踊ったモノですが」


「それはまた随分と飛躍した話だね」

私はどちらかといえばアウトドアな方ではなく、インドアなタイプだ。

好きな事はそんな雑輩の例に漏れずもっぱら凡そ想像通り。

読書や映画に音楽であったり、手先細かい作業、とりわけ一人完結型の集中出来る事全般が好きだ。

読書はそんな中でもやはり群を抜いて好きだと言える。

それというのは一重に妄想に浸れるからだろう。

尤もそんな妄想力豊かな生態のせいで生き辛さを感じる事が多々あるのだが。


そんな趣味の一つの読書、昔読んだ小説の中に『春が空から落ちてきた』なんて素敵な書き出しがあった気がする。


今のこの現状をそんな小説に感化されて書き出してみるとするなら

『夜に女の子がやってきた』

う〜ん...ちょっと想像した情緒溢れるフレーズとは違って邪な感じになってしまった。

けれども、私にはこれくらいがちょうど良い。


「何にしても、こんなに夜遅くに公園にいるという状況が、既にして儲け物です!」


「マンガの読みすぎアニメの観すぎ...だなんて笑いますか?」



「──────ううん、笑ったりなんてしないさ」



「僕だってずっと夢見がちさ。物心ついてから今日この日までの将来の夢は...」


「━━━━━━━━━━━━━━━『魔女っ子』だからね!」



「──────!?...それは」




「……漫画やアニメの観すぎではないですか?」


「...あっあのねぇ!!」

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