8話「シュレディンガーの高柳くん」
「あぁ、出会ったばかりだものね...」
「名前を名乗っても実はあんまり意味は無いのだけど、高柳 梓。」
「女の子っぽい名前だけれど──────正真正銘、この通り...男の子だよ」
「おとこのこ...」
おとこのこって...なんだっけ?
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説明しよう。
男の子とは、男性の性別を持って生まれた子どもや少年(男児)のことです。一般的には、赤ちゃんの頃から18歳頃までの若い世代を指す言葉として使われます。
「おっけーグルグル、ありがとう!」
「...ふむぅ」
「...」
「...」
「...!?私とした事が名前も名乗らず失礼しましたっ!」
「私は鹿内 凛と申す者です。目と鼻の先、ここからやや斜め上、空を見上げた時丁度見えるコンクリート作りの校舎、あそこの生徒で...」
「って──────どの通りですかっ!!!?」
「わっびっくりした...」
ノリツッコミの様な物をしてみる。
初めての試みではあったが、存外上手くいったと思う。
盛大な前振りが効いたのだろうか、良い助走をきれたなと、割に手応えがあった。
...とそんな事は今は詮無いこと。
「ぉ...おおおおおお、男の子?」
「...?どっからどうみても、男の子じゃないかな?」
「どっからどうみても女の子ですよっ!?」
柔らかな言葉使い、優美な物腰。
ドレスの様なワンピースの様なフリルのあしらわれた衣服、その裾を優雅につまみ上げる、少女の様な立ち居振る舞い。
これは映画やなんかでよく見る挨拶の一種、確かカテーシーなんて名前だったか。
足を一歩、何気なく踏み出す時、次いで踏む足は当然の様に同じ場所へ...身のこなしまでがエレガントに洗練されている。
感情とは関係無い存在その物に付与する憂いを帯びた雰囲気。
歩き方、声、匂い、当然見た目から全てが目の前の彼女を女の子だと認識させる。
どこかキョトン?とした表情も全くもって女の子そのもの。
『さぁご覧!この絵が何に見える?』なんて、だまし絵の様な物をふと思い出す。
私はああいう類の者が苦手だ。
どんなに意識を切り替えても、キリンはキリンにしか見えない。
それはワニだって同じだ。ワニはワニ。イヌはイヌ。ネコはネコ。
女の子は女の子、男の子もまた然り。
「今日は...人に見られるつもりが無かったから、化粧なんかもしてないんだ」
そう言ってむず痒そうに指先で頬をかく彼女...いや自称彼!をマジマジと観察してみる。
「だからかな...?なんだかとっても恥ずかしい気分だよ...」
やはりどうにもこうにも、何をどうとっても、見方や思考を切り替えても、彼は彼女にしか見えない。
「シュレディンガー...」
「シュレディンガーの男の子...」
「それってば猫のやつ?」
「...みせてはくれませんか?」
「みせる?みせるって一体なにを...」
「証拠、男の子だって、その証拠を」
「証拠も何も...ほら喉仏!これは君には無いものでしょう?」
「男の子にあって、女の子には無いもの。これは充分証拠って言えるんじゃないかな?」
「男の子にあって私には無いもの──────...はっ!?」
「──────ではお〇んち...を」
「ぜっ─────
──────たいに嫌だっ!!!!」
「何を言い出すんだ君はっ!?///」
大きな声を出した時、雑に震えた喉から出た声が、少し低音を多く含んでいた。
それは小学生から中学生位の声変わり初期の男の子の様な、アニメの女性声優が演じる少年主人公の様なイメージ。
「なにも全容とは言いませんほんの一端ほんのひと握り...ひと握り?」
ワキワキと両手で繰り返し空を揉んでみる。
視界には顔を真っ赤にした彼女、もとい彼氏。
それだけで、不思議と幾分邪な気持ちになってくる
「それも!い・や・だっ!!」
「なんて手前勝手な人ですか!こんなにも好奇心を刺激しておいて...責任を取らないって!そう言うんですかっ?」
「君、よく変わってるって言われない?言われるよねっ?」
「言い得て妙ですね...とても初対面とは思えません」
そんな他愛もない与太話?、ほんの少し愛のありそうで無さそうな会話を初対面、何故か自己紹介を含めしてみる。
スモールトークの様でかつアイスブレイクの意味合いもある。
私は、鹿内 凛は意図してそんな会話術を日々用いている。
もちろん嘘である。
「少し隣に座ってもいいかな?...なんだか疲れちゃった...」
「えぇもちろん、公園と公園の物は皆の物ですからね」
聞き終わる前に、彼女(彼)はその白すぎる衣服を汚さないよう小さなハンカチを徐ろにベンチに敷くと、まぁなんとも、座るという些細な所作までもが、全くの女の子でもって形成されている。
「ふぅっ…〜なんだか変な汗かいちゃったよ」
パタパタと自らの胸元、やや緩めな衣服の襟を繰り返しパタパタと風を送り込む彼。
時折除く白すぎる肌と薄い胸板が、見てはいけないとは分かっているが、何故か自然と視線が吸い込まれていく。
さながら、夏に現れる欲望を絡め取る悪魔の様。或いは劣情誘う天使の様にも感じる。
日が落ちるのが遅いとはいえ時刻は既に19時を過ぎていてもう間もなく20時を回ろうとしている。
辺りはすっかり夜の暗さを取り戻し、木製の脆いベンチ横に取り付けられた街灯の暖色だけが丁度私たちを淡く丸く照らしている。
公園の周りに家はなく、人の往来も車の行き来も疎らな為、安全大国日本とはいえ少々の不安を感じさせるには充分だった。
既に体も心も、全快とまではいかないが回復している。
眠る前の億劫な心も、件のノンデリケープハイラックスな発言も迂遠も迂遠、既に小さな物となっている。
これで私はまた明日から強く逞しく生きて行けると、あとは帰ってシャワーを浴びて暖かなご飯を食べて眠ろうと、スクッと勢いよく立ち上がると駅方面、整備された道へと一歩二歩と歩みを進める。
「では辺りも暗くなった事ですし私は先に帰りますよ、男の子とはいえあなたも十二分に気をつけて下さい...」
「もしっ、もしお嬢さん...」
「あのさっ…?良ければもう少し、僕とお話して行きません...か?」
「わたしと……お話し?」
「うん、ダメ……かな?」
「それは」
「──────もしかしてナンパ……ですか?」
「違うよっ!!」




