7話「僕?私?」
「ねぇねぇ...一体何故なんです?」
「ねぇねぇ、減るもんじゃないじゃないですか」
「なんでなんですか?ねぇねぇ...」
「なんでなんでなんでなんで......なんで?」
気になる、知りたいがとめどない。
遅ればせながらやってきたなぜなぜ期。
一般的に2〜3歳ごろに始まり、4〜5歳ごろにピークを迎えて、6歳ごろに落ち着く脳の発達と心の成長を目的とした時期。
私、鹿内 凛は現在15歳。
脳の発達、心の成長を目的とする本来のなぜなぜ期と違うのは、周囲の物事や仕組みを深く理解しようとせんある種知的好奇心やそれに類する向上心のようなものがベースにある事くらいだろうか。
「ねぇねぇ、なぜ...」
「一体全体──────なぜ男性物の下着をっ...」
「わああああぁぁぁっ!!?もうっ!君しつこいなぁ!」
眼前の彼女、ちょっと変態チックな格好をした天女様は片手は裾の端を、もう片方の手はこちらを制止するのに使用している。
段々と日も暮れ始めると辺り一面一気に仄暗く視界も段々と悪くなる。
よく整備された道程から外れた雑木林という事もあり周囲よりもさらに一段と暗く、等間隔に設置された街灯が無ければ互いを視認する事も難しいだろう。
「わっ...うるさい人、夜だって言うのに。それによく通る声だから余計に近隣住民に迷惑ですよ...」
「...っ!?大体君は初対面なのにっ──────」
「ぼっ...暴力は行けませんよ、暴力は最も品性下劣で愚かな許し難い行為です」
「それに、女同士の喧嘩は膠着した髪の毛の引っ張り合いに必ずなりますから...とても見れたものじゃない、犬も喰わないとはこの事です...かね?」
「暴力なんてしないよっ!ただ一言文句を言ってやりたいそんな気分だっただけさ」
白くて細いうなじ、華奢な首、今にも折れちゃいそう。
折れちゃったならそうだな...勿体ないからポン酢でちゅるんっ...一口かな?
それにしても、やはりよく通る聴き心地の良い声。
この時期だとオオルリやコマドリ、ウグイスなんかが、毎朝毎朝自らを目覚ましだと勘違いして屋根の上、恩着せがましく朝からピーピー鳴いているのを散見する。
件の彼女の声は、その細かな息遣いは、一つ一つその物がある種そんな綺麗な声で鳴く鳥たちの様であり、鳴き声を採用した新規性のある音楽の様な様相を見せている。
カミーユ・サン=サーンスの「白鳥」なんかがこの声音には丁度噛み合うのではなかろうか?
彼女の声に合わせてピアノの美しいさざ波のような伴奏やチェロの奏でる優雅な音なんかが合わさればそれはもう立派なクラシックミュージックとして成立するだろう。
なんて、ちょっと浸ってみたり。
私って奴は意外にもロマンチストなのだ。
私は聞き耳を立てる、傾聴に徹する。
彼女の呼吸に合わせて動く喉元から口元の動きを追うように。
暫し眺めていると、口の動きとその音に合わせて喉仏が若干のタイムラグでもって上下してるのがわかる。
それというのは人間の構造故だろうか。
肺に声帯と共鳴、3つの器官の協力。
肺から息を吐き、のどの奥にある声帯をふるわせて音を作り、口や鼻で響きを整える
それすらもが、人体構造の神秘性までもが彼女の魅力として機能している、かっこ可愛い。
何を取ってもとびっきり『女の子』だ。
私なんかとは、獣臭いと世評の私とは大違い。
私も彼女みたいに甘く良い匂いで、可愛くスタイルも良くて、声を発するだけで人を魅了してしまう様な美少女に、綺麗でかっこいい女の子になりたかった。
あぁわたしの悪いクセだ、悪癖だ。
一度何か気になる事が生まれれば頭の中はソレでいっぱいに。
思考を根っこの様に巡らしては現実はおざなり?なおざり?にしてしまう。
もっと上手く、現実と向き合わなければならないのに、現実主義をモットーに生きているつもりなのに、私は元来どうしようもなく夢見がちなのかも知れない。
胡乱な思考はすごくすごく疲れる。
叶うなら、次産まれ変わるなら木々の下や地中奥深く誰の目にも触れずに居られる動物に...。
「それもきっと叶わぬ運命...あっ!モグラなんていいかもですね」
「えっと...君ってば大丈夫?」
............................................................................ん?「あれ?」
喉元に何か引っかかっる。
何か、何か見落としている様な。
飲み込みがたい何か...。喉、喉、喉。
「その......だいじょうぶ〜って?」
「──────のっ......ののののっ喉仏?」




