6話「ナイスミドルって奴」
「あの...さ、君ってば...」
「────────────おじさんなの?」
────────────。
鹿内 凛15歳。
自動車メーカー勤務の父と専業主婦の母との間に産まれる。
父親は営業を生業とし、それなりに成果をあげている様で度々表彰などされている...がしかし、事家族関係に至ってはその営業能力は無に等しくお得意の饒舌ちゃらんぽらん口達者な面は家族一同悪癖だと認めている。
そんな父親を見て育ったせいか、今現在に至るまでどこか男の子には苦手意識がある。
乱暴粗暴で口汚い、デリカシーや常識がない存在と認知している。
尤もきっとそんな例は極僅かで大多数は真面目で素晴しい人間なのだとは思うのだが、やはり芽生え植え付けられた苦手意識と言うものは中々に消えてくれない。
それと、そんな父親を選んだこと以外は至って普通な母親から産まれたのが、兄と妹に挟まれた中間子の私。
特段悪い家庭環境でもなく、目立って良いと言う事もない。
ごくごく普通の家庭に誕生した女の子。
誕生日は2月29日、4年に一度の超絶激レア誕生日が自慢だ。
そんな両親の愛を一身に受けて育った?可愛い可愛い?「女子高生を捕まえて『おじさん』とはどういう了見でしょうかぁっ!?」
「...あぁっでも!!一般的に『イケおじ』なんて呼称されるおじさんは割と嫌いじゃない...でもやっぱりどこか手垢に塗れてる気もする...」
『もしかしてもしかするとナイスミドルって奴!?』
「あははは...なんだ、ただの変わった子だったね」
垂れた眉、不安そうな顔から一転、破顔一笑。
鈴の音を転がした様な美しい声音が耳から脳内へと走り抜け、思わず『ビビビッ!!』っと電流のような物が走る。
現在、頭の中考える事はただ一つ。
眼前の彼女に対するシンプルな一言、一口サイズの感想が繰り返し繰り返しアラームの様に鳴動し、やたらめったらうるさく我鳴っている。
「──────かっ...可愛い...!!」
よく見れば口元に小さな可愛らしい黒子がある。
一説によると、口元の左下の黒子は誠実で人望厚いなんて意味合いがあったりなかったり、雑誌の人相学で呼んだ記憶があったりなかったり。
兎にも角にも、そんな小さなアクセントが妙に似合っており、ある種彼女を最大限引き立てる為のアクセサリーの様な役割を担っている。
「ねぇ...僕ってば可愛いっかな?」
口元をいじらしく、指先を当てたポーズをとって見せる彼女。
「うん...かわうぅぃ〜...」ポケェ〜...
「──────...はっ!!」
「そうじゃなーいっ!...そのっ!失礼じゃないですか?一体全体私のどこにおじさんが見え隠れしたって言うんですか?」
「どこ?って...」
チラリッ。
ドレスのスカート部分、その端っこを軽く持ち上げて見せる彼女。
「っ──────バッ!!」
先ず視線が先に着弾する。
追随する様にあとから首が頭を連れて見え隠れするスカートの内側を自動追尾で追いかけてく。
「ジ──────」
チラッチラッ。
ヒラリヒラリ、舞い踊る様に不随意に風に乗る柔らかな生地。
その内側、肉質の良いあんよがちらりちらりと見え隠れ。
「っ──────バッバッ!!」
繰り返し首を左右上下、縦横無尽に振り続ける。
「くっ!...あっあとちょっとっ!...見えそうで見え...ない!!」
「──────ねぇ...やっぱり」
「ちっ...もったいぶりやがって...」
「ジ──────あぁっ...見えっ!?」
「さっきから...ずっと内ももばっかり目で追ってるよね...?」
「──────はっ...!?」
「違います違います、ただ美味しそうだなって、間違えた...美味しそうだなぁって!!」
「...あれ?」
「あはははっ君は欲に忠実な子だなぁ」
「むっ...本当に違いますって...」
天女の様な浮世離れした美少女。
腰ほどまで伸びた髪の毛は枝毛のひとつも無く紫外線なんかの痛みすらを一切感じさせない色艶がある。
頭の先からつま先まで余す所なく手入れが行き届いていて、スタイルも細身でしなやかで、さながらどこか異国のモデルのような完成度。
肌は血管の位置がわかるほどに白く透明感を持ち合わせていて、シミやたるみやむくみといった老廃物に類するものが一つも見当たらない。
出るとこは出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。
やや、と言うより大分控えめな胸を除けばまさに完璧、完全な造形美。
──────まるでボンキュッボン!女王アリの様だ。
少し、見た目から想像するイメージよりも低い声、けれどもどこか透き通る水や硝子の様な浮世離れした透明感を帯びた声音。
笑った時、目元がクシャッとなったのを目元クシャフェチのわたしは見逃さなかった。
「欲に忠実...そうやって、よく家族や友達に言われたりしない?」
「そ...そんな事はありません私ってやつはどうしようもなく無欲恬淡、淡白な性格が取り柄だと自負しているので...」
そう、私、鹿内 凛は欲に塗れた節操なしなどでは無い。
煩悩など私とは最も遠い言葉、私利私欲に飲まれる事もなく、欲深さを罪や咎とし、強欲とは最もかけ離れた存在なのだ。
いっとき残り物には福があるなんて言葉を座右の銘に掲げていた事もある程だ。
「...ふぅ〜ん」
「じゃあさ?...もっと...その色々と...」
ゆっくりと、獲物を釣り上げる釣り糸の様に...僅かずつ上がっていくドレスの様なワンピースの様な柔く薄い透けた生地。
直近の言葉はどこへやら、なんとも虚しく視線は勝手に彼女の生地を摘む指先へ、その対象へと吸い込まれていく。
「ゴクリッ!?」
「────────────みてみる?」
「見──────見ますっ!!!??」
バッッ!!っと一瞬の出来事だった。
目に力を集中させたタイミング、或いはその劣情がGOサインを出したタイミング。
強く風が頬を突き抜けて行った瞬間たった一度の瞬きの後、夢の先はどこへやら、怪訝そうに薄ら笑いを浮かべる彼女がせっかくあと少しまで持ち上がっていた生地をしっかりと定位置まで戻していたのだ。
「ふっ...おじさん」(ボソッ)
「はっ...!?嵌められた...天使かと思ったら堕天使だった...くぅ」
「だっ堕天使って...僕のこと!?」
「ここに他に誰かいるんですかぁっ!?」
「...なんだか、出会ったことの無い生き物と出会ってしまった様な複雑怪奇な気分だよ...」
「これは奇遇ですね、私もちょうどそんなような事を考えていましたよ」
「どういう訳か...僕一周まわって楽しくなって来ちゃったかも」
「これまた奇遇、私達、もしかしたら相性が良いのかもしれませんねっ!?」
なにを根拠に...と思うかも知れないが先程から、彼女とは何度となく視線が交差する。
普段人と目を合わす事が得意ではない私はなんだかそれが悔しくて、逸らさないよう踏ん張ってみる癖があるのだが、何故だろう?
彼女と目を合わせても怖さの様なものは何も感じない。
それどころか、違和感なく数秒見つめ合うタイミングすらある。
「.........ぷっあはははっ!」
何が面白いのだろう?お気に入りのバラエティ番組でも思い出したのか、服の中入り込んだ虫が動き回りこそばゆいのか、笑いキノコでも拾って食べたのか...とにかく変な人だ。
「はぁ...なんだ、不審者かと思って損しちゃった」
「...こんな幼気な女子高生を捕まえて不審者なんて人聞き悪いどころの話じゃありませんよ、まったく」
「所で...君、こんな遅い時間『とっくに学校も終わってる時間』に女の子がこんな所で何をしているの?」
辺りは未だ明るい、冗談かとも思ったが辺りから喧騒のような物は全くもって微塵も感じられない。
それはさながらまるで『夜』の様で...。
「えっ......?学校終わ...た?」
「あのその...今は、今は地球時間で何時ですか?」
「えっ?えぇっと日本時間で19時だよ」
「ええええええぇ!!??」
「そんな...ちょっと仮眠を取っていただけなのに...なんで一体誰がこんな惨い...!?」
「なにか、大事な用事があったのかな...?」
「ごめんね、僕がもっと早く君に気付いていれば...」
「夕方の...ローカル枠アニメの録画をわ...忘れて...うぅなんて酷い...とても人の所業じゃない...」
「あ...アニ...メ?」
「──────ああそれと...」
『天女様はなんで男物の下着を履いているんですか?』
「いっ...?!///」
顔を耳先まで赤く染め上げ、慌てふためき自らの服を勢いよく下へと引っ張る彼女。
急ぎその肢体の、主に下部の露出を減らそうと四苦八苦している。
なんだかそんな様子が、妙に唆る、刺さる、啜りたい。
一度学校を出れば、息苦しい友人関係を抜け出せば、私の本質はこんなものなのだ。
「天女様は何故、男物の下着を履いているんですか?...大事な事なのでもう一回」
「──────...もうっ!このっおじさん女子高生っ!!」




