4話「うまずたゆまず」
学校、教室、友人関係。
ごくごく狭く独自の生態系を築いていくちっぽけなビオトープの様なもの。
外から見たなら簡素でチープでなんとも物足りないつまらない子供遊びに過ぎない。
けれども義務教育を終えたばかりの私達には、そこが...そこだけがどうしようもなく世界そのものなのだ。
そこでの私の役割?ズバリ...『賑やかし』!の更に下『いじられ役』
賑やかしの手となり足となり...時に笑い話の種になる。
まさに賑やかし役の体のいい道具でありリーサルウェポン!
「でも良いんだ、皆が笑ってくれるなら...」
尤も、笑わせていると思っているそれは、『笑われている』に他ならないのだが。
こんな媚びへつらう様な、誰彼構わず顔色を伺う様な...迎合する事だけが唯一得意な、むず痒い水虫のような女...それが紛れもなく私。
同調圧力、共依存、付和雷同、集団心理、ハーディング行動のオンパレード。
「まったく...はぁったら..........はぁ〜...」
男は度胸で女は愛嬌だなんてよく言うけれど私に言わせてみれば『はぁ?』
なんて乱暴で粗雑な一言に尽きる。
勿論こんな乱暴な言葉は決して口には出さず頭の中の弁慶だけに限るんだけれど。
女こそっ!度胸を持ち合わせて無ければ到底生きて行けないと私は声高に宣言する!
男子達のそれよりも遥かに手練手管、完璧に上手くやらないと急転直下の真っ逆さま、俗に言うカースト?って奴の最下層へもれなく転がり落ちちゃうんだから!
だって如実に物語っている。
入学早々作り上げられるグループ達。
あぶれにあぶれ、やぶれかぶれに体のいい雑な扱いを出来る『大人しいけど、なんか調度良い女』キャラを演じたことで間一髪事なきを得た経験。
今でこそ、そこそこの仲を築いた友人関係が複数存在しているが、一寸先は闇、踏み出す足を左右間違えるだけでもおむすびころりん底も見えない暗闇に真っ逆さまに転がり落ちる。
「本当のわたしは、そんなキャラじゃないのに...」
『誰からも人気な女の子っ♡♪』
そんな役割は私には来世にだって到底周ってきませんとも。
そんなクラスの中心的役割...では無く雑に扱える気を割く必要のない相手、そんな役割と存在が私。
決して居心地は良くないのだけれど、やっとの思いで漕ぎ着けた現状から、少々の変化すらを恐れて現状に甘んじている。
保守的武装に身を包んだ青春魔女っ子戦士!
戦隊モノにしたなら女の子の嫌な所がぶつかり合って身内揉め、内戦が起こり瞬く間に壊滅する確かな未来が見える。
女同士のいざこざは、実は暴力なんかより遥かに恐ろしかったり...。
奇数じゃなくてせめて偶数だったならまだ...ね。
そんな物思いにふけつつも足だけはその回転を止めない。
故意に辱められ、鯉になけなしの小麦まで掠め取られ...気づけばもう手元には何も残っていない。
肌に張り付いた鬱陶しい後れ毛を乱暴に耳にかけると大きく息を吸い込んでみる。
「ハァッ...──────フゥ...お外、気持ちいいなぁ」
窮屈だった教室を抜け出し、辿り着いた安住の地。
鬱蒼とした木々の間を抜け、よく整備された道程からやや外れ、木々の合間を次々と縫って歩く。
──────ガサゴソガサゴソッ...と木々と擦れ合い、名前も知らないチクチクがこれでもかと制服にまとわりつく。
意に介さない。
意に介さないったら介さない。
ハンバーガーを食べる時、口や手が汚れることなど厭わず素手で一思いに大きく齧り付く、醍醐味。
食べ終えるその時まで口元に着いたソースなんかはあえてそのまま、それがある種風情、情緒みたいなもの。
森や林で眠るなら、それこそ植物のひとつやふたつ虫の1匹2匹...寧ろ纏ってやる事こそが最も品が良く森に対しての礼節を尽くしていると言える。
「あっここなんかいいじゃないですかっ!」
「げっ...糞ももりもり...」
「でもなんだが...このぺトリコールの匂いって落ち着く...」
雨が降り、地中が湿り、舞い上がる癖のある香り。
オマケにほんの少し鳩の糞の香り。
私、鹿内 凛は一人になると元気になるのだ。
それというのはやはり、周りに気を使わないからだろう。
皆が思う控えめで扱い易い『調度良い』性格。そんなものでは決してない。
場を弁えず冗談も言う、独り言だって得意。
笑う時には大きく口を開けるし、腹を抱えて笑う事もある。
欲しいものは欲しいし、我儘だって言う。
それに『可愛い』物だって...。
「はぁ、皆心配するかな...しないよね。私なんか」
「少し、ほんの一時間だけ心が落ち着くその時まで...おやすみなさい」
大した荷物の入っていないバックを枕代わりに、所々欠けたベンチに横になると、足先だけがやや飛び出す形になる。
ふくらはぎが、欠けた木に擦れて痛みを生む。
これも醍醐味。
私はここで生きてるんだって!
こんなどうしようもない私にも神様は痛みだけはちゃんと分け与えてくれたんだ!って感謝してみたり。
汚ったないオンボロベンチはそんな大切な事をいつも教えてくれる。
人生はいつだってそう、すり減った先駆者がその身で持って酸いも甘いも教えてくれる。
これが小綺麗な樹脂製や金属製、デザイン重視の今どきおしゃれベンチであったなら趣なんて何も無く感じ得る物もひとつとしてなかっただろう。
言うなればAI生成の様なもの。
膨大なデータを掛け合わせ、プロンプトをなぞるだけの無機質な存在。
情緒もくそもありゃしない。
次第に重くなる瞼を自然と受け入れる。
オーガニックな睡眠。
皆が皆こういった自然由来な質の良い、人間本来の睡眠さえ取っていれば、陰謀論、モラルハザード、隠蔽体質、世に蔓延る汚い穢れた物だってひとつずつ確実に減っていくと言うのに...。
「ふぁわ〜...「ッ!?」...ぺっ!!」
「羽蟻さん食べちゃった...ごめんなさい」
口内に少しの苦味を覚える。
これは苦渋か青春の味か...はたまた昆虫汁か。
やがて閉じた瞼の裏が赤とも黄色とも取れる色合いに染まっていく。
強く射し込んだ木漏れ日の熱をひしと受けそのままうつらうつらといつの間にやら眠りにつく。
「んにゃ...来世は...人間意外がいいなぁ〜...むにゃり...Zzz」
少し、荒れ荒んだ心が癒えたなら、受けた言葉が迂遠に迂遠、小さく弱々しい物になったなら、教室へと戻ろう。
そんな事を眠りにつく迄の僅かな時間。
最後に考えていたのだけは鮮明に覚えている。
?「──────ここなら誰も来ないかな...?」




