28話「行ってきます」
「あぁ〜ん最っ高よぉ!!さながら美女と野獣、ベルばら!そんなの……あたし達の大好物じゃないっ!!」
そんな大層な物語要素があったかどうかはさておき、拍手喝采、鳴り止まぬ黄色ともどどめ色とも取れる声援を受け、僕は今現在、ひたすらに戸惑っている。
「ああ、彼ら、いいえ『彼女』達はみんな1人残らず──────オカマよ」
「えっ…えぇ〜……」
それというのは明白で、目の前に広がるドワーフ畑が、一瞬にして意識丸ごと花畑に変わったからだ。
「ネコとタチ、ポジショニングを意識した素晴らしいタッグだったわよ」
「なんだか私、久々に熱くなっちゃったわ〜!」
「…ね…ねこ達…?ですか……?」
殺陣ヒーローショーは無事に成功、とはとても言い難く行き当たりばったりのアドリブオンリーな着地と相成った。
けれどもそれは、結果だけを見ればきっと大成功と呼んでも良いのではないかと、僕は思う。
「なんだかなぁ〜…不完全燃焼だよ良樹くん」
「良いじゃない。オカマ喜ぶコンテンツは世界に通ずるのよ、なんだって私たちは人よりも遥かに世界をみているのだから」
「そういう物なのかな」
「そういう物なの、良かったわよ。特に最後。息ぴったりだったじゃない」
「……うん、それも全部、彼女のお陰だね」
未だ目覚めない彼女、鹿内 凛。
今ステージの立役者となった彼女はステージを終えて数十分、半ば宴に切り替わった今も尚、その目を覚ましてはいない。
けれども時折寝言の様な、癖の強いいびきのような音を発している事から、きっと疲れて眠りコケているだけなのだろうと思う。
「そういえば、どうしてその子を相方に選んだの?」
コの字型のベロア生地のソファ、店内の最奥の席に寝かした彼女の隣で氷いっぱいのジュースでもって祝杯をあげる僕の隣へ、ふいに良樹くんがお酒片手に現れる。
「彼女がなんだか、僕に似ている気がしたんだ。どうしても欲しいものがあるのに、手を伸ばす勇気がなくて、迎合することばかり得意になった僕と…少しだけね」
視線を傍らに落とすととても年頃の女の子とは思えない姿勢で大口を開けて眠りコケる彼女。
「それに!彼女はどうにも出会った時から様子が可笑しくって!卑屈で偏屈でそれでいて遠慮が無くて、更にはちょっぴり変態で…きっとこの位タフな変人じゃないと、ご当地アイドルなんてやっていけないって、そう思ったんだ」
店内の喧騒に負けない音量の彼女のいびきには、きっと彼女も相当に気を負っていたのだと、そう理解させられる。
緩く巻かれた髪は既に解け、結った髪は解け落ちている。
汗で落ちたアイシャドウは某ロックバンドの教祖様の様に顔中に広がり、垂れたヨダレでグロスもその殆どを無いものとしている。
けれどもその間の抜けた寝顔は、彼女と出会った短い期間の中で、一番に幸せそうな顔にみえる。
「もう二十一時ね。一人で帰らす訳にもいかないから、梓、送って行ってあげなさい」
「えっ……僕が?」
源氏名ちゃんこちゃんであり、舞台上ではダッシーであって、本名が鷲見良樹である彼に、そう提案される。
かぶりを振って少しの抵抗と期待の眼差しを彼に向けると、短いため息の後にこう告げる。
「私が送って行ったら話がややこしいでしょう?あなたの相方なのだから、責任もって面倒見てあげなさい」
「うん、そうだよね。わかったよ…」
全くもってぐうの音も出ない言葉に、最早抵抗は無意味だと悟る。
勿論として、送っていくのが嫌な訳では無い。
抵抗がないと言えば嘘にはなるが、当然女の子を一人で夜道を歩かせる訳にはいかないし、予定よりも幾らか遅い時間になってしまったため、誘った張本人が送り届けるのは当然と言えば当然なのだけれど…。
「……なによ?まだなにかあるの?」
「送っていくのはわかったんだけど…その、さ?」
「なによ?はきはきしなさいな」
「その…「どっち」で行ったらいいかな……?」
「…どっち?」
「あぁっ!そんな事。別にあなたならどっちでも…いえ…そうね、やっぱりこうしましょうっ!」
「──────にしましょう!」
「えぇ〜…やっぱり「そっち」か。でもまぁ夜も遅いしね、ちょっぴり治安も悪いし」
自ら掲げた二択ではあったが、どちらかと言えば嫌な方の選択をされてしまった。
けれどもこれ以上胡乱な思考をしていても仕方無いし、時間は今も刻一刻と過ぎている。
当然彼女の両親も心配しているだろう事から、腹を括りサッとバックヤードに回りその場で準備を済ませる。
準備を済ませ、歓談に騒ぐ人混みの中をくぐり抜け彼女を背中に背負うと、想像よりもずっと軽い重みが背中に伸し掛る。
最早迷いはなく、良樹くんの開けてくれた重い鉄扉の先へと抜けると、空は既に暗く、街灯とネオンの灯りできらきらと光っていた。
「気をつけてね」
そう手を振る良樹くんに、首の動きだけ上下させ返すと、ドッと店内から髭もじゃドワーフ達も躍り出てきた。
そんな光景が、外の飲食店の匂いや夏の季節由来の匂いと相まってなんだか妙に面白可笑しくて、思わずくすくすと笑ってしまう。
前へ向き直り、足を数歩進めた先でまだ、言っていなかった事に気づき慌てて振り向き、やや距離がある事に気づくと、お腹いっぱいに空気を溜めて、今日一番、一際大きな声で叫ぶ。
「じゃあ行ってくるね!」




