27話「決着!」
『──────調停者であり裁定者よっ!!』
「さっ裁定者よっ!!」
眼前の彼女に続き杖を、そして手を掲げ、詠唱を唱える。
傍らに抱えられたまま、その腕の中で体重を自分の元へと取り戻し、姿勢を正して息を大きく吸い込む。
イメージは戦隊アニメのワンシーン。
ラストはいつだって極大の魔法での決着。
全てを打ち払う、そんな魔法。
「さぁ覚悟しろ悪臭害獣ダッシーこれで終わりだ…ってうわぁ!!」
悠々と息巻いたその瞬間、どひゅっ!という風切り音と共に突如として頬を掠める上段げり。
慌てて中断した詠唱を呑み込むと舌先を少しばかり噛んでしまう。
既の所で腰に回された腕に引かれ直接の被弾を回避する。
「ちょ…ちょっと良樹くん!もう魔法受けて終わりにしてー…!良樹くんの腰も限界だし、凛ちゃんも様子がおかしいし…早く終わりに…っ!?」
小声でそう伝えるも、彼は納得のいかない表情で難色を示す。
「…まだ、大丈夫よ!それにこんなんじゃとても宣材動画として提出できないでしょう?」
「…っ!だ、だからってさっきから…本気で倒しに来てない!?」
再度掠めた彼の足先が、衣装の先端をその勢いのままちぎりとる。
長く健康的で程よく筋肉の乗った長足が次から次へ瞬きの間もなく飛来する。
ダッシーのモコモコとした毛並みの着ぐるみを着ている為幾分動きも遅い…ハズなのに、その動きは目で追う事が限界で身体はどうにも反応しきれない。自分一人では避けれそうにないし、一発でも直接的に食らったならどうにも立ち上がれそうにない。
けれど、彼の決断によって急遽ヒートアップした格闘シーンはどうやら観客達にすこぶる刺さったようで男臭いドワーフ似の男しか居ないはずの店内を何処からともなく飛来した黄色い声援で包んでいる。
「ねぇっ…梓!その子…もしかしたら」
「な!なに…!避けるのに必死で…」
最早自身の意思で動く事は辞め、傍らの彼女、ビンセントの憑依した鹿内 凛の腕に振り回されている状態。
攻撃の合間合間差し込まれる会話に懸命に答えるも、中々に思考を回す余裕がない。
事態は複雑だ。
ダメダメ演技の僕のせいで瓦解仕掛けた演目。
その所為で敵役のダッシーを務めてくれている良樹くんにまでそれは影響している。
そして、突如として『豹変』と言うのが正しいか、気絶から目覚めた彼女の変貌ぶりに、未だに理解が追いついていない。
まさかここで一旦中止にして作戦会議!だなんて真夏とはいえ冷める真似は到底出来ない。
故にヒートアップした戦場でこの混乱に乗じて何とか立て直し、上手く着地させる。
それしかない。
「彼女、多分あれよ…あれ!」
「なっ…なに、もぅ…目が回って…ふへぇ〜」
「車に乗ると…性格が変わる。もしかして、そんな類の生き物じゃないかしら?」
「ふぇ〜…?あっ…それだ!」
先程から、人一人を傍らに抱えているとは思えない程の軽やかな動き、エレガントな身のこなし、力強さを見せている彼女。
ほんの数刻前、酔っ払いに飛びかかって逢えなく取り押さえられた彼女の弱々しい小動物の様な一面は一切感じられない。
それどころか、この嵐の様な攻撃の差し合いに時折反撃の意志を見せている事から、やはりほんの数分前までの彼女では無いことを如実に物語っている。
産まれて始めての化粧をして、排斥して敬遠していた『可愛い』を知り、その衝撃で気絶。
そんな中での無意識下、彼女の中で目覚めたんだ、理想の自分、黄色の魔女っこビンセントが!
「凛ちゃん…君は本当に変わった…ううん、面白い人だ!」
見上げれば、彼女の表情には確かな自信が見て取れた。
微笑を浮かべるその唇には仄かに輝くラメ。
緩く巻かれ高々と結われた髪を自慢げに揺らし、後れ毛を直す仕草にも力強さを感じる。
──────最初どことなく、自信の無い子だと思った。
やたらと自分を卑下しては、無理な屁理屈で身を守る面白くて、変で、ちょっぴり可哀想な子だと思った。
けれども、彼女の中にも確かに憧れはあって、それは僕と少し似ていて、だからこそ彼女と、彼女を相方に「もう一度」アイドルをしたいと思ったんだ。
『可愛い』って奴を知れたんだね。
良かったね、もう今の君は、悪臭振り撒くケープハイラックスなんかじゃないっ!
そんな悪臭ごとっ!全て消し飛ばしてやろうっ!
「凛ちゃん!良樹くん…じゃない悪臭害獣ダッシーはもう疲弊している!最後にふたりでトドメの一撃だ!」
「あぁ、天女様。丁度私も、そう思っていたところだよっ…!」
そう言って力強く踵を打ち鳴らし駆け出すと、二人揃って魔法の続きを唱える。
眼前、戦闘態勢を崩さないダッシー。
けれども既にして彼とも意思は疎通している。
最後に自然と必殺技を受けて、大袈裟に倒れる手筈。
今か今かと受ける準備をして待ってくれている。
駆ける最中、拳に魔力を溜めて、肩甲骨を浮かし腰ほどまでに引き絞る。
黄色い花弁でできた魔力が拳を、やがて体をも覆うそんなイメージ。
──────さぁ、これで終わりだ!
「これが私の…」「これが僕の…」
『魔法だぁ──────!!』
時がスローモーションに見える
打ち出された拳が、じんわりとやわらゆっくりと彼、鷲見良樹へと近づいていく。
拳の軌道は丁度彼の腹部へ当たる位置。
これで、寸止めでもって幕引きだ…!
──────ガッ!
「……あっ?」
間際、片足がステージからこぼれ落ちる。
その体重は重力そのまま彼女を下へと強引に引っ張り、打ち出された拳は当初の軌道から大きくそれ、ダッシーの、鷲見良樹の下腹部へ目掛け…──────
──────ゴッ!
「あらっ…ごめんなさい、つい反射的に」
「『無い』とはいっても、やっぱり無意識で反応してしまうものね」
「──────ぶべっ!?」「ッ!?」
鷲見良樹の反射的に蹴り上げられた足先が、鹿内 凛の顎先を捉え掠めると空気の抜けた風船の様な珍妙な音を鳴らし、間も無くその場に…音もなく…崩れ落ちた。
「けれどもこればっかりは『元男』であったなら仕方の無い事……よね?」
「り…凛ちゃ──────んっ!?」
沈痛な叫びは決して彼女へは届かない。
まさかまさかの二度目の気絶。
『黄色の魔女っ子ビンセントVS悪臭害獣ダッシー』
その結果は、悪臭害獣ダッシーの激的KO勝利に終わった。
これにて間も無く世界は、悪臭と異臭に包まれる混沌の世となる事だろう。
ベベンっ!
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──────なんだか、へんちくりんな夢をみている。
決して絶対絶壁に、有り得はしないのだけれど…。強くて可愛いツヨカワな私、鹿内 凛が突如現れた天女様と共に悪臭振り撒く大怪獣ケープハイラックスと激闘を繰り広げる。
そんな夢。
夢の中の私は自信に満ち溢れていて、多幸感に包まれ、無敵の様な感覚。
現実でもこんな風にあれたなら、どれ程に良いか。
けれどもそんな夢は結局、クライマックス手前、その終わりを見せないまま、やがて別のくだらない夢へと移り変わっていった。
あぁなんだか、夢だって言うのにまるで──────現実の様に顎が痛い。




