↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

25話「殺陣ヒーローショー」

ソファと同じベロア生地に包まれたモニター前の小上がりスペース。


背後のモニターからは戦隊モノ特有のキャッチーなリリックとアップテンポなサウンドが鳴り響く。

足元を靴先でコツと一度叩けば、小気味の良い空気の内包された音が聞こえてきて、なんだか心許なくなる。


天井には演目にはやや不釣り合いなピンクと金を執拗なまでに反射したくるくると回るギラッギラのミラーボールが吊るされていて、時折その光が目を刺す事で少々狼狽える。


20〜30人は難なく入れるであろう店内には屈強な、かつ逞しい様相のヒゲ面ドワーフの様な男たちが既にして所狭しとビッシリ。


ステージ前、横長のカウンター、ソファのボックス席、その全てから一身に注がれる視線という視線。


こんな重圧には、もう随分と晒されていなかったなと、なんだか嫌に懐かしい気持ちに包まれる。


緊張は無い。臆することも無い。慣れっこさ。

けれどもまぁ...予定と言うやつはどうしようもなく不親切で、人間万事塞翁が馬とでも言うのか、度々に臨機応変さの底力とその膂力を試される。


本来であれば三人で行うつもりだった演目。

イエローの魔女っ子ビンセントを僕が、マスコットキャラクターでもあるサポート妖精ヴィンセントと相手役の魔獣「悪臭害獣ダッシー」を二人に務めてもらうつもりだったのだが...ほんの数刻前から固まったまま動かず、放心状態?...気絶してしまった凛ちゃんの突発的不参加により、まさに土壇場の底力を試されるものとなっている。

とは言っても、そもそもの話、彼女にとっては前準備の無いものであったし騙し討ちの様な話でもあった訳で、どの道と土壇場の底力は問われていた訳で。


予定は未定にして決定にあらず...なんて言葉がある様に、それでも当然言い訳になんてならない訳で...兎にも角にも、必要最低限、かつ最大限。

何としてもこの演目を成功させるべく、身震い二回、体の内側から臓腑を震わせる事で自らを鼓舞する。


大きく息を吸い込んでみると、慣れた様に喉を一度鳴らしサッとチューニング。

良し!と自分の中で断定、納得付けてカッ!と目を力強く見開くそんな懐かしのルーティン。

今から僕、私は強く逞しい魔女っ子。

イエローの魔女っ子ビンセント!!

カッっと足を一歩前へと踏み鳴らせば、もう後戻りは出来ない。


──────開幕の合図。


「僕っ...わ!私は!魔女っ子パンチ!イエローの魔女ビンセント!今日という今日こそは貴様をこの拳のサビに〜...!!」

なんて大見得きった直後も直後、噛みっ噛みのひょろっひょろ演技が飛び出て来まして、これにはさしもの僕もびっくら仰天。もちろんそれは僕自身...張本人なのだけれど...。

穴があったら入りたい、それこそ件のケープハイラックスの様に。


余談ではあるがケープハイラックスは別名イワダヌキ、または『ダッシー』とも呼ばれているみたいでなんだか某人気ゲームの頼れる相方の様でなんだか妙に可愛らしいネーミング。

そんな反芻思考とも取れる胡乱な考えはすぐに端っこに追いやり、目の前の敵役『悪臭害獣ダッシー』を務める鷲見 良樹へと向き合う。


「ガーハッハッハッ!お前も、お前も、そこのお前らもっ!────── 一人残らず獣臭くしてくれるわァ!!!」

上背があり、スタイルの良いその身体を中腰に無理やりと折り曲げ、半ば強引にその着ぐるみの様な物に収まっている彼。

そんな彼は開幕の合図と見るや否や、威勢の良い大きくよく通る声でまるで本物の魔獣さながら、元禄見得の様なポーズでもって開幕の口上をこなす。


「そっ……そんな事!私の目がある内は決してサセナイワァー...!」

最早言及はすまい、僕の演技は兎も角メインは殺陣、ヒーローショー。

演技も台詞回しも当然として大事なのだが、一番の見せ場はやっぱり格闘シーン...!!

ヒーローショー。

なんだかお互いの掲げる信念、目的を語った上で、ヒーローと敵役。当然として相容れはしないので必然的に戦いになる。

そんな良くあるストーリー。


本来の殺陣は剣や武器を用いての斬り合い。

──────であるが、広義の意味ではヒーローショーもその一つ、範囲内と言えるだろう。


殺陣は歌舞伎の伝統『見得』をルーツとした見せ方、手法であり本来のヒーローショーはアクロバティックで現代的なスーツアクションが主なのに対し今回は静と動の見せる演技、安全面に考慮した格闘シーンを主としている。

二つの要素の丁度中途半端を織り交ぜた様な演目。

その為、これは紛れもなく、殺陣ヒーローショーと題する他にはないのだ。


向かい合い、口上を切り、初撃の拳を交える。

尤もそのフリであるのは言うまでもないが、メインとなるこの殺陣でさえも、練習の甲斐なくなんともぎこちの無い物となってしまっている。


「ちょっと...!梓あなた...どうにかならないのそのなよなよ演技...!」

観客にこそ聞こえない声量で、拳を交わす彼、『悪臭害獣ダッシー』もとい鷲見良樹から耳の痛い言及を受ける。


いっそ展開としてお決まりのクライマックス、激しい格闘の末の結局魔法を用いての一撃必殺!

──────ですぐ様決着を付けた方が傷が浅いのではないかと、割に本気で思案してみる。


「仕方ないじゃないか!なんだかどうにも、男勝りな逞しい女性というものに肌感がなくて...あと...運動音痴だし...」

そう、僕、高柳 梓は元来運動音痴なのである。

なんでもそつなく人並み以上にこなせて、勉強だって特に行き詰まった事は無い。

けれどもどうしても、何らかの呪いや魔法がかかっているのではないかと思うほどには、運動って奴が苦手なのである。


「この動画、事務所に編集して送るのよ?もっと気合れなさいな...あなたの元相方、『華恋』だって目にするかも...」


──────グキョッ...

何度目か、そうして小言と拳を交えた時、突如──────どこからともなく空気が勢いよく弾けた様な音が耳に届く。

見れば、苦悶の表情を浮かべる良樹くんもとい悪臭害獣ダッシーが膝を着いて地を真っ直ぐに見つめている。

表情こそその纏った着ぐるみで見えはしないが、何故だか不思議と確かに、苦悶の表情が見て取れる。

「あっあ〜...わたしももう歳ねっ...」

腰を抑えなんとか立ち上がろうとするも痛みを生む腰から力は抜けていき再度膝から崩れ落ちる。

未だ演目は始まったばかり、拳を交えたばかりだと言うのに、既にして満身創痍。

「よ...良樹くん...頑張って...?!」

このままでは、お遊戯会にも劣るとてもショーとは呼べないただのわちゃわちゃとなってしまう。

どうにか打開の一途を探っていたその時、遠く、コの字型のソファの「ー」の部分に寝かせられていた彼女が鹿内 凛が、不意に勢いよくムクリッ!と起き上がるのが目に入る。


「──────凛ちゃんっ良かった!目...覚めたんだ...ね?」

そう言葉にこそしないが心の中で助かった!どうにかなるっ!と安堵する。


スクリッ!と勢いよく立ち上がるとツカツカと音を立ててこちらへとやって来る彼女。

道中屈強な髭面ドワーフ達が彼女を視線で追うも意に介する様子はない。

俯き、影がかかり、その表情こそうかがい知れないが、どこか纏う雰囲気やその所作、特に足運びや姿勢、出で立ちには別種の何か、ちょっとおかしなテンションのアップダウン、高低差の激しいペットショップの人に懐かない小動物の様な彼女とは別の何かを感じる──────気がする。


「...凛ちゃん...裏に妖精の小道具があるんだ。起き抜け早々に悪いのだけれど、急ぎ準備してきて…ちゃんこちゃんのライフはもう…──────ぜろ...!!??」


『──────ずいぶんと綺麗な顔をしているじゃないか...愛らしいお嬢さん?...いや天女様?』


『私の力が...──────必要かい?』


「──ふぇ...?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。