17話「ひまわりミミィ」
『それは一回きっちりかっちり…断ったでしょうがあぁ──────ッ!!』
慟哭。
私、鹿内 凛は声高に叫び、ついでに宣言する。
ケープハイラックスな私は、決して今生に限らず魔女っ子になんて絶対にならないと。
何を隠そう、私の意思はニッケル合金なんかよりも硬いのだ。
「なんですかっ!ニワトリなんですか?おばぁちゃんですか、失念でもしていたんですかっ!?」
一体何度断れば理解を示してくれるのだろう?
魔女っ子なんて可愛いらしさの象徴の様なモノ、私には縁遠い物だと、一切合切関係の無いものだと言うのに。
「鹿内さん、ううん…凛ちゃん!これは、導入に過ぎないんだよ!」
「なんですか凛ちゃんって馴れ馴れしい私達そんな仲では………とゆうか、え、導入?」
導入とはなんだろう?
『魔女っ子』があくまでも始まり、導入なのだとすれば、一体全体本題はその先はどうなってしまうんだ?
「知ってるかな…数年前活動していた、ご当地アイドル『ひまわりミミィ』って…」
今にも興味が無いと唾棄しようとした所を思わぬ一撃をくらい、どこともなく向いた視線は再び彼の元へ。
高柳くんの口から発せられたその言葉、名詞を聞いた時、ビビビっ!っと思わず体は不随意に震え、興味を関心を、それに類する物を一気に吸い寄せられた気がした。
だってそれは、余りにも懐かしくて、焦がれたい物の象徴であったから
「ひっ…ひまわりミミィ!今『ひまわりミミィ』っていいましたかっ!?」
ひまわりミミィ、酷く懐かしい名前、それでいて良く聞き馴染みのある名前でもある。
「えっ…なんか想像と違う反応だね…もしかして知っているの?」
「はあぁ…!!私以外に『ひまミミ』を知っている人が居たなんてっ!!」
ひまミミ、ひまわりミミィを略して呼ぶ略称。
略すとなんだかトンチンカンな略称にはなるが、またそれも可愛らしく、一つまたユニットやグループの魅力と呼べるものでもある。
「知ってるも何もっ!地元のお祭りや自治会にカラオケ大会!その他イベント諸々なんでもかんでもエトセトラ!」
「ぜんぶぜーんぶ見に行ってましたからっ!」
地元の公園で行われるひまわりの種まき大会。
ひまわりの咲き誇る公園で行われるお祭り。
自治会主催のカラオケ大会。
文化会館で行われるライブコンサートなんかも欠かさず観に行っていた。
その他諸々、市内でのイベント事は決まって大体ひまわりミミィがオープニングとエンディングを飾っており、当時はそれ程に人気があった。
「『魔女っ子パンチ』が人生のバイブルだとするなら『ひまわりミミィ』は憧れそのもの!」
「私の中の『可愛い』という概念はこのふたつで構成されていると言っても過言ではありません!」
『ひまわりミミィ』記憶懐かしいひまわりカラーの小さな小さな可愛い魔女っ子な女の子二人、そしてひまわり祈願の魔法。
『魔女っ子パンチ』同じくひまわりカラーの魔女っ子、清く正しく美しく逞しいイエロー担当のビンセント。
私という人間の根底には常にこの二つが本質として存在している。
言うなればそう、私はイエベ!!イエローベース!!
意味こそ絶対に違うのだけれど、そう題するしかないのだから仕方がない。
「僕、嬉しいよっ!魔女っ子パンチにひまわりミミィ、君とはどっちにも共通点があるなんて、やっぱり僕たちってば運命かもしれないよ!」
テンションの上がった私に負けじとギアを一段二段と上げてくる高柳くん。
まるで自分の事のように私の『ひまわりミミィ』に関する言葉にいちいちと反応してみせる彼に私は思案する表情、姿勢で続ける。
「尤もひまわりミミィは半ば自然消滅の様な形で突然姿を消し、公式サイトもそのまま、声明も無く、今の今まで一切の音沙汰がありませんが」
解散、したのかどうかも定かではない。
けれども、理由何てものは考えれば数多あるだろう。
例えばその人気が、あくまでも市内に限った話だったから。
井の中の蛙が大海を知ってしまったが故か、または内輪揉めによる消滅、成長に伴う心の問題など考えれば色々とあるのだろう。
それでもやっぱり、今でもたまに口ずさむあの歌…と言うよりもそのワンフレーズは、唯一覚えているソレは替えのきかない大切な思い出で、私という者を形成するのに唯一無二、必要不可欠で…願わくばもう一度、いや何度だって見たい聴きたいと今でも強く思う。
そんな風に、かつてのひまわり咲き誇る情景を思い出しながら、頭の中彼女達のすがたを思い耽ってみる。
「ひまわりミミィの二人はとってもちっちゃくて可愛いくて…」
「うんうん!」
「あどけなくて幼気でそんな所が底なしに可愛らしくて…」
「うんうん!」
「歌はちょっぴり下手くそでそこも可愛いくて…」
「うんうん…」
「振り付けなんかももうめっちゃくちゃ!跳ねたエビみたいに可愛いくて…」
「うんう…うん?」
「そんな小さな女の子二人の太陽とひまわりと暖かい魔法をモチーフにした可愛らしいユニットですよね!」
「──────違うよっ!?全ッ然違うっ!」
先程までの誇らしげな表情から一変、羞恥とほんのり怒りの混じったような顔で、ズイッ!と身を乗り出し否定してみせる高柳くん。
「なんですかっ急に血相変えて怖い顔して…可愛い顔が、台無しですよ?」
若干その勢いに気圧されるも、まぁどんなに怒っても可愛い美少女は可愛い訳で、チワワやポメラニアンなんかが怒ったって「生意気に怒ってるの〜?よちよち♪」なんて感想が出るくらいのモノで、兎角そんなちょっと牙を出して見せている子犬を持ち前の母性の様な物で包み軽くあしらってみせる。
「ちがっ…だってそれは君が…!?」
乗り出した上半身と、勢いの行き場を失った彼は、わなわなと震えた後シュン…とした後ストンッと丸椅子に大人しく座り直す。
「だって…だって『ひまわりミミィ』は僕と…
──────僕と「─────」の…
「いっやぁ〜っ!!それにしても高柳くんがひまわりミミィを知っていたなんて私びっくりです!」
彼の言うように運命こそ感じはしないが、周りでひまわりミミィを知っている人間を私は親族以外に知らない。
その為、親近感の様なものは…不本意ながら、大分、大いに、ひしひしと感じている。
一度舞台に出れば、小さなステージであろうと人だかりができて、大いに人気があったはずのユニット。
…なのに、私の周り、ソレを知る者は極わずか。
そして、彼女達のその後の動向は勿論、名前すらもが公になっていない。
どうにも供給不足で、この熱を吐き出す場も無くて、酷く不完全燃焼だった。
だから私は素直に嬉しいのだ。
同年代で、彼女達を知っている存在が居る事が。
「感激です!どのくらい感激かっていうと、物静かで奥ゆかしい私がこんなにも饒舌になるほど─────「とっ!…兎にも角にも!僕はもう一度絶対にあのステージに立たなきゃいけないんだ!」
「!?」
私の饒舌二枚舌に強制ストップをかけた彼の言葉には何やらどうやら強い意志が宿っている様で、それは彼の表情から、身振り手振り、その一挙手一投足の必死さからも伝わってきた。
「状況がイマイチ呑み込めません…一体どういう…?」
「そのために、後生だ…凛ちゃん」
「ですから、凛ちゃんなんて呼ばれる程の仲では…」
「『ひまわりミミィ』と『魔女っ子パンチ』をオマージュした新ユニット…可愛いさと強さの合わせ技『ひまわりパンチ!』で僕と一緒に魔女っ子を…」
「──────魔女っ子アイドルをして欲しいっ!!」
深々と、誠意を全身に纏い、こちらへと頭を下げる高柳くん。
明朗快活な私の知る彼とは少し、というより大分違った印象。
何度目かの勧誘。正直辟易している。
しつこいなと。
けれども、何やら私には思い至らない深く大切な思いが、確かにあるのだと彼の姿勢からもひしと感じ取れた。
それは実際に頭を下げて見せた姿勢の事でもあり、精神性でもある。
だからこそ、私は一笑に付すなんて事はなく今度は真摯に向き合わなければならないのだと、本能レベルで自覚する。
「えぇ…もちろん」
「──────お断りです」
「え」
「ですから、お断りですって、そう言ったんです」
そう、考えに考えた末に──────お断りである。
「それは…なんでかな?理由を教えてくれる?」
「なんでもなにもありませんよ!当然では無いですか!だってあまりにも有り得ませんよ」
有り得ない。
何からまず有り得ないって、一から並べ立てるのも大変な作業、強いて一つ言うのならやはり、私には分不相応といった所か。
「私に、そんな可愛いらしいご当地アイドルだなんて…」
「分不相応で恥ずかしいでは無いですかっ…それは私個人の事だけでなく、私なんかを据えた特定の市区町村そのものが、恥をかくじゃありませんかっ!」
そう、ご当地アイドル、別名ローカルアイドルとも言うそれは、言わばその特定の地域を代表する存在。
地域の活性化や魅力の発信、特産品のprにイベントまで幅広くこなす言わば顔役。
そんなものに、私なんかが着任してしまったなら、地域密着どころか、ヘドロの様にこびり付いて落ちない後世まで残る汚れ穢れになる事間違いなしなのだ。
「それに、理由はそれだけではありません」
「…それは??」
「──────…じゃありませんか」
「…うん?ごめんよく聞こえなくて…」
「『ひまわりパンチ!』ってなんだか名前が可愛いくないじゃないですか!!」
「──────なんだか…普通にダサいなぁって」
「…ぇ?」




