16話「迂遠も迂遠」
「おかまとにゅーはーふ?の違いってなぁに?」
さてさてと…疑問提起からの滑り出しに味を占めてみる。
時は現代、時刻は十九時、日ノ本の国その一端、神奈川県のとある場所。
幼気で内向的なケープハイラックスで…ちょっと変な女子高生な私が迷い込んだのはちょっとえっちなほの暗いピンクなBAR。
アンダーグラウンドでありユートピアでもある。
名前を『桃源郷』。
そろそろお気づきかとも思うがここは単なるBARではない。
かくいう私も今の今まで全く気づいていなかった。
ここがまさかまさかの…『おかまバー』だったなんて!
「オカマって言うのは体は男で心が女性の人達、ニューハーフって言うのは体も心も女性な人達を指す」
「って書いてあるよ!」
「おっけーグルグルありがとうっ!」
水色のやたらめったらキラキラな装飾と溢れんばかり、女子力たっぷりな携帯を巧みに操作し、早速も早速答えを導き出す高柳くん。
君…よく仕事出来るって言われない?
「ふむふむ…」
「なれば高柳くんはおかまで…ちゃんこちゃんさんはにゅーはーふって奴なんだ!」
合点がいった、やっとの事理解が追いついた!
端的に言えば、ここには男二匹と女一匹、表面上は女三匹が集まっているという事になる。
けれどもどうにも納得行かないのはやはり…
──────この中で唯一女である私が一番可愛いとは程遠いという事!!
「あら、物分りがいい子ね」
「そういう子はお姉さん嫌いじゃないわよ」
──────カランカラン。
スゥーー…ふぅ。
煙草、お酒、煙草、お酒、それからまた煙草。
永久機関の様に繰り返されるループを抜け出してついでにカウンターも抜け出して、鷲見 良樹、源氏名ちゃんこちゃんは私の座る背の高い高い座椅子へとゆっくりと歩み寄る。
「ねぇ…あなた…」
細く長い指先、ピンクとラベンダーの混じったマニキュア。
キメの細かいツヤのある頭髪がエアコンの風で揺れ動く度、甘く清涼感のある香りが鼻先を擽る。
「なっ…なななんですかっ!?捕って食べたって私は美味しく…etcモニョモニョゴニョゴニョ」
その彫りの深い綺麗な顔が、美しい肢体が近づくと、針金でも通されたかのように身動ぎひとつ出来なくなる。
「よく見たら………」
値踏みするように、額、瞼、鼻先、唇、それから顎先へと伸びる手先。
「どきっ!?」
これには思わず私の中に巣食うおじさんも感嘆の産声をあげている…。
「どきどきっ!?」
はっ、ドキドキしすぎて口から動悸が溢れ出てた。
変な子だと思われる。気をつけよう。
「良く見たら、小動物みたいで可愛い顔してるじゃない…そう!あれよ、あれに似てる!」
「「?」」
『ケープハイラックス!!』
──────「「!!??」」
けーぷ…はいらっくす?
なんだか聞き馴染みのある言葉だけれど、なんだか良い印象はないぞ…?
分からない、分からない。
いや分かっている。ケープハイラックス。
この物語において、私という人物を語るのに切ってはきれない動物の名前。
「あのモルモットとウサギが混ざった様な見た目の癖に、ゾウの仲間っていう変わり者、くりんくりんのお目目なんか、もうそっくりっ!」
「ち…ちゃんこちゃん、ちょっとタイムリー過ぎるかも…」
「ん?なーに?可愛いじゃないケープハイラックス。それに私好きなのよね、見た目もそうだけどなにより……」
「──────小動物特有の香ばしい匂い!」
「……あちゃ〜」
「ゎ……わ……」
「「わ?」」
「わたしも好きですよ、ケープハイラックス」
「あらっ話がわかるじゃない」
「!?……鹿内さん?」
「良いですよね、ケープハイラックス。木の下や他の動物の巣になんか住んじゃって、ずんぐりむっくり手足なんかも短くて…ふふっ、香ばしい匂いなんかも…なんだか私にぴったり……ふふっ」
かの種は哺乳類。
私もまた哺乳類。
毛も生えているし、歯も生えている。
朝布団から這い出した時には私だって四足歩行だし、木々の合間や岩の隙間、他の動物の巣にこそ入らないが洞穴なんかは大好きだ。
だったなら、もう一緒なんじゃないかと、私はどちらかと言うと最早、人間よりケープハイラックス側なのではないかと、思ったりもする。
いいや、思った!思ったね!もういいやいっ!
人間なんて知らないっ!バーカバーカっ!
「……梓、どうしちゃったのこの子?」
「んー……軽いトラウマみたいなものかな?」
「高柳くん、私、今なら大抵の事は驚きませんよ心ここに在らずと上の空を体現しているので」
「……早速、というより大分遅い時間なのでそろそろ、ここに呼び出した理由を聞いても?」
「あ…うん、じゃあさっそく」
『僕と一緒に、魔女っ子に…ならない?』
「!?」
「……それは」
『──────それはもう、断ったでしょうがあぁーーーーーーーーーーーー!!!』




