第4話 白竜皇オルド
聖王大聖女就任から数日。
教皇庁では、一人の重要な来賓を迎えようとしていた。
「白竜皇陛下、ご到着です」
静かに扉が開く。
姿を現したのは、一人の白髪の青年。
雪のように白い髪。
黄金に輝く瞳。
人の姿でありながら、その場にいる誰もが思わず息を呑むほどの神々しい威厳を纏っている。
五大竜王の頂点。
神話の時代より世界を見守り続ける最古の竜。
そして、世界の守護者。
白竜皇オルド。
サンセリテをはじめ、その場にいた者たちが静かに一礼する。
ソフィアも慌てて頭を下げた。
オルドは穏やかな眼差しのまま、ソフィアの前まで歩み寄る。
「聖王大聖女ソフィア」
「この度は、誠にありがとうございました」
静かな声が応接室へ響く。
「魔王誕生より千年」
「世界を脅かし続けた災厄へ終止符を打ち」
「初代大聖女エリアネ様を偲ぶ、エリアネ大祭において」
「再び四種族の友好を世界へ示されたこと」
「竜族を代表し、心より感謝申し上げる」
オルドは一拍置き、静かに続ける。
「千年に及ぶ災厄は」
「世界のみならず、人々の心にも深い傷を残した」
「互いを疑い、憎み」
「四種族の友好さえ失われかねぬ時代であった」
「その絆を再び結び直してくださったこと」
「その御功績に、深く敬意を表する」
ソフィアは目を丸くした。
(違います……)
(それは、私の功績ではありません)
心の中で小さく呟く。
しかし、オルドは静かに言葉を続けた。
「また」
「この度の一件は、竜族にも責任の一端があった」
「竜族を統べる者として」
「そして、世界の守護者として」
「深く、お詫び申し上げる」
そう告げると、白竜皇オルドは静かに一礼した。
その瞬間。
応接室が水を打ったような静寂に包まれる。
誰も、言葉を発することができなかった。
白竜皇。
神話の時代より世界を見守り続ける最古の竜。
その存在は竜族だけでなく、人族、エルフ族、ドワーフ族――四種族すべてから神にも等しく敬われる存在である。
そんな白竜皇が。
一人の少女へ、自ら頭を下げている。
「まさか……」
「白竜皇陛下が……」
「頭を下げられるなんて……」
驚愕の声が、あちこちから漏れる。
竜族の随員たちでさえ、その光景に息を呑んでいた。
ソフィアはみるみる顔を青くする。
「お、お顔を上げてください!」
思わず声を上げる。
(やめてください……)
(本当に私の功績じゃないんです)
(世界を救ったのは、元大聖女様方です)
(私は、その功績を受け継いだだけなんです……)
必死に心の中で訴える。
だが、その想いを知る者は誰一人としていない。
オルドは静かに顔を上げ、穏やかに微笑んだ。
その眼差しには、聖王大聖女へ向ける心からの敬意だけが宿っていた。
その様子を見守っていたサンセリテも、小さく頷く。
誰もが、それを当然のこととして受け止めていた。
ただ一人。
ソフィアだけが、居たたまれない気持ちで苦笑するのだった。




