第42話 信頼
しばらくの沈黙が続いた。
サンセリテは穏やかな表情のまま、静かに口を開く。
「そうかもしれません」
ソフィアは顔を上げる。
「歴代の大聖女様方と比べれば」
「あなたは光魔法で劣る部分もあるでしょう」
「経験も、実績も及ばないかもしれません」
ソフィアは小さく俯いた。
だが、サンセリテは優しく微笑む。
「ですが」
「私は、あなた以上の適任者を知りません」
その言葉に、ソフィアは思わず目を見開いた。
「聖者や聖女とは」
「奇跡を起こせる人ではありません」
「強大な力を持つ人でもありません」
「人へ寄り添い」
「人を思いやれる人です」
「困っている人を見れば、肩書きを忘れて手を差し伸べる」
「そんな人こそが、聖者なのです」
昨日の出来事が、ソフィアの脳裏によみがえる。
考えるより先に、子どもを助けようと駆け出した自分。
あれは聖王大聖女だからではなかった。
一人の人間として、助けたいと思っただけだった。
サンセリテは静かに続ける。
「だからこそ」
「私はあなたへ、この称号を託したのです」
「そして」
「二人の元大聖女も」
「だからこそ、あなたへ未来を託したのでしょう」
ソフィアは静かに息をのむ。
「あなたは選ばれたのではありません」
一拍置いて、サンセリテは穏やかに微笑んだ。
「信頼されたのです」
その一言が、ソフィアの胸へ深く染み渡る。
張りつめていた心が、ふっと軽くなった。
頬を、一筋の涙が伝う。
「……はい」
ソフィアは涙を拭い、ゆっくりと頷いた。
その瞳には、もう迷いはなかった。




