第39話 目の前の命
「ママぁ!」
店の奥から、幼い子どもの泣き声が響く。
棚の陰に、一人の男の子が取り残されていた。
魔法石は今にも暴走し、爆発しようとしている。
考えるより先に、体が動いた。
「危ない!」
ソフィアは一気に駆け出し、男の子を抱きかかえる。
「大丈夫ですよ」
安心させるように微笑むと、暴走する魔道具へ向き直る。
「浄化!」
眩い光が魔道具を包み込む。
しかし――
「……っ!」
暴走は止まらない。
「そうでした……」
「魔法石には単一属性の魔粒子しか蓄積されていません」
浄化は魔素を正常な循環へ戻す光魔法。
単一属性の魔粒子だけで構成された魔法石には効果がない。
「それなら……!」
ソフィアは右手を掲げる。
「光結界!」
純白の光が魔道具全体を包み込んだ。
直後。
ドォォォォン!!
轟音とともに魔法石が爆発する。
光結界によって威力は最小限に抑えられた。
しかし爆風はソフィアを襲い、
帽子が宙を舞う。
丸眼鏡が吹き飛ぶ。
フードが外れ、結んでいた銀髪がさらりとほどけた。
「あ……」
ソフィアの顔から血の気が引く。
「や、やばいです……」
「正体が……」
店内を見回す。
そこには驚いた表情の人々。
(遊んでいるところを見られちゃいました……)
(聖王大聖女なのに……)
(皆さん、幻滅しますよね……)
そう思った、その時だった。
一人の男性が震える声で呟く。
「聖王様……?」
次の瞬間。
「聖王大聖女様だ!」
「変装して街へ来てくださっていたんですか!」
「私たちの暮らしを見てくださっていたんですね!」
「しかも、ご自分の身より子どもを……!」
次々と尊敬の声が上がる。
ソフィアは目をぱちぱちと瞬かせた。
「えっ?」
「そ、そういうことになるんですか?」
思わず苦笑する。
「今日は……」
「休暇だったんですけどね……」
その言葉に店内は笑いに包まれ、張り詰めていた空気は一気に和らぐのだった。




