第35話 休むのも仕事です
休日。
六日目。
昨日の夕方に書き上げた光魔法の研究論文を前に、ソフィアはより分かりやすい内容にしようと、羽ペンを走らせていた。
「こちらの表現の方が伝わりやすいですね」
文章を書き直し。
魔法式を見直し。
数値を再計算する。
少しでも読みやすく。
少しでも実用的になるように。
一行一行、丁寧に推敲していく。
「これで大丈夫でしょうか」
最後の一文を書き終え、大きく息をついた。
ふと時計を見る。
「……あ」
針は、すでに夕方を指していた。
ソフィアは苦笑する。
「また夢中になってしまいましたね」
論文を丁寧にまとめると、小さく頷く。
「せっかくですし」
「サンセリテ様にも見ていただきましょう」
そのまま教皇執務室を訪れる。
サンセリテは論文を受け取ると、静かにページをめくり始めた。
新しい光魔法式。
治癒効率の向上。
魔力消費の軽減。
どれも実用性に優れた、価値ある研究成果だった。
最後のページを閉じると、穏やかに微笑む。
「素晴らしい研究です」
「休日にもかかわらず、これほどの成果をまとめるとは」
「感心しました」
向かいに座るソフィアは、少し照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
サンセリテは紅茶を一口飲む。
そして、静かに口を開いた。
「ですが」
「休むのも仕事ですよ」
ソフィアは一瞬きょとんとする。
それから困ったように笑った。
「そうなんですよ」
「気付いたら楽しくなってしまって……」
「仕事をしちゃってました」
頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。
そんな姿に、サンセリテは思わず苦笑した。
「真面目なのは、あなたの長所です」
「ですが」
「休むこともまた、大切な仕事なのですよ」
ソフィアは小さく頷く。
「はい……」
サンセリテは優しく微笑んだ。
「もう少しで休暇も終わります」
「せっかくですから」
「最後くらいは、一人の女の子として遊んできたらいかがですか?」
ソフィアの表情が少し明るくなる。
「はい!」
元気よく返事をする。
そんなソフィアを見送りながら、サンセリテは心の中で小さく苦笑した。
(半分は、私たちが仕事を任せすぎたせいでもあるのですがね)
その言葉は口にせず、静かに紅茶へ口を付けるのだった。




