第16話 変装
休日。
三日目。
朝。
ソフィアはゆっくりと目を覚ました。
勢いよくカーテンを開ける。
「……!」
窓の外には、眩しい朝日が広がっていた。
「よかった!」
「夕方じゃありません!」
思わず胸を撫で下ろす。
「ちゃんと朝です!」
小さくガッツポーズをする。
「仕事の日は、絶対に起きられるのに……」
「どうして休暇になると寝過ぎてしまうのでしょう」
自分でも不思議だった。
だが、今日は違う。
昨日決めたのだ。
今日は街へ出掛ける。
「今日は普通の女の子です」
そう呟き、クローゼットを開く。
いつもの聖王大聖女の法衣ではなく、淡い色のワンピースを取り出した。
休日らしい、年相応の服装。
鏡の前で合わせてみる。
「いいですね」
思わず笑みがこぼれる。
その時だった。
「……あ」
ソフィアの動きが止まる。
「待ってください」
「一応、私は世間では聖王大聖女でした」
就任以来。
街へ出れば歓声が上がり。
教会を歩けば、神官や巡礼者が深々と頭を下げる。
このまま街へ出れば。
「大騒ぎになってしまいます……」
普通の休日どころではない。
ソフィアは慌てて鏡の前へ戻った。
「変装しないといけませんね」
帽子を被る。
眼鏡を掛ける。
髪型も少し変えてみる。
何度も鏡を見て確認する。
「これなら……」
「少しは普通の女の子に見えるでしょうか」
その時。
ふと、一つの考えが頭をよぎった。
「……もしかして」
「元大聖女のお二方」
「こうなるのが嫌だったから、私へ功績を譲ったんじゃありませんよね……?」
しばらく真剣に考える。
「…………」
「あり得ます」
ソフィアは小さく肩を落とした。
「私に押し付けましたねぇ……」
もちろん、本気でそう思っているわけではない。
それでも、少しくらい愚痴を言いたくなる。
史上初の聖王大聖女。
その肩書きは、休日まで休ませてはくれないのだから。
「……よし」
帽子を深く被り、鏡に向かって小さく頷く。
「変装完了です!」
こうしてソフィアは、生まれて初めて”普通の女の子”として、王都ルミエールの街へ出掛けるのだった。




