96話 強さの理由
96話 強さの理由
ー早朝ー
すっ…はっ…すっ…はっ…鎧を着て自然の道を走る男…。
ヴァルド「くっ…」
脳裏に過る。
ギャッチャー「ギェイ!!」
ヴァルド「くっ!」
ザザっ!地面の土を走り、足が掘り返す、スピードが上がっていく。
ヴァルド「…!(もっと強く…)」
ヴァルドの足はさらに速くなっていく、時速39km。
10km走り折り返し、拠点に走り戻っていく。
キャンプ手前の森、シュン!シュン!という風切り音が聞こえる。
ヴァルド「っ?」
ヴァルドの足が止まる、音の方向が気になり耳を澄ます、草むらの奥のちょっとした空き地だ。
草木を分けてゆっくりと進む。
シュン!シュン!
グリンス「…」
グリンスが双剣を振っている、それは素早い振りだった、少しの残像が見える。
近くにはゲマナとターク、二人ともグリンスの様子を見ているようだった、ゲマナは腰に手を添え、タークはグレーのシャツの上にダークグレーの毛皮のフードつきのコートを羽織っている、早朝は気温が低い、タークはコーヒーを啜りながら見ていた。
ターク「…凄いな、最近いつもよりさらに朝早いと思ったら…こんなことをしてたんだな…。」
ゲマナはへへーんとドヤ顔を浮かべながら言う。
ゲマナ「あの素振りに使ってる剣!私が作った1本
20kgの剣なんだよー?凄まじい質量のお高い鉱石使ったんだよー?…凄いでしょー?」
ターク「あー…わからん…凄いの?」
ゲマナは口を尖らせ拗ねてそっぽ向いてゴニョゴニョなにかを言っている、少し聞こえたのは「これだから素人は…」だった。
グリンスは額に少しの汗を浮かべながらも正確に剣を振っている、刃先が逸れる事なく、下に振り下げる時は重みに頼らず下げきらず止め、振り上げる時も刃先を斜めに綺麗に逸らさずに上げきって止める。
ヴァルドはただ木の影から見ていた。
ヴァルド「…(さっすが…狩りの天才だ…。)」
ターク「あ…そうだ。」
タークが拳を手の平に叩いて言う。
ターク「ちょっと俺は軽い飯かなんか持ってくる。」
ゲマナにそう言うと急ぎ足で行ってしまう。
ゲマナ「私お肉ねー!」
ターク「はいよー!」
タークが行った後ヴァルドが茂みから出てくる。
ゲマナ「ひっ!って…ヴァルドじゃん…なんでそんな所から?」
ヴァルド「いや別に…」
ただそう呟いてグリンスの方に歩いていく、グリンスはそれに気付いてゆっくり剣を下ろす。
グリンス「…どうしたのだ?」
ただ首を傾げて不思議そうにするグリンス。
ヴァルド「昔っから噂聞いたときから不思議だったんだけどよ…師もなしにどうしてそこまで…」
グリンスは唐突な質問に少し目を見開いてゆっくり目を閉じて。
グリンス「ここをこう斬る…そしたらこの魔物はこう動く…それが分かるんだ、ただ…理由を聞かれたとしたら私はこう答える」
グリンスはゆっくりと目を開けていつもの優しい瞳から真剣な瞳になる。
グリンス「昔パイソンに出会ってから…彼が怪我をして帰ることが多かった、少し…はしゃぎすぎる事があったからな…。」
グリンスは真剣な瞳を解いてクスッと笑う。
グリンス「懐かしい…」
グリンスはネックレスを握り下を向く…少しの沈黙…それからゆっくり口を開く。
グリンス「パイソンをどうしたら守れるか、それを考えていたら…気付いたら身に付いた、私の最初がどんな剣さばきだったか…覚えてもないが、おそらく酷かったろう」
グリンスは微笑みながら顔を上げて。
グリンス「今も同じ理由だ、私はタークを守りたい、彼は──…」
少し離れた場所のゲマナの所にタークが。
ターク「おーい!肉持ってきたぞー!」
タークが大きなトレーに肉と皿を一緒に乗せて持ってくる。
ゲマナ「えー!!この肉は絶対野菜必要でしょー!あの包むやつ!」
ターク「いやしらねーよー!先に言ってくれよ!」
グリンスはそんなタークを見てまたクスッと笑いながら。
グリンス「彼は私を守りたいと言ったが…私も譲る訳にはいかないからな。」
グリンスは優しい目と微笑みでそう言った。
ヴァルド「守る物…あいつは良く自分より強いやつを守るだなんて言ったな」
グリンスはそれを聞いて顎に手を添えて上を見る。
グリンス「たまには…わざと彼に守られてみるべきだろうか?」
ヴァルド「えー?なんだ?キャー助けてタークだなんて言うかの?」
ヴァルドは笑いながら腕を組む。
グリンス「なるほど…」
グリンスは関心を示すように頷く。
ヴァルド「おいマジにするなよ?」
その時。
ターク「おーい!グリンスー!あれ…ヴァルドも…肉あるぞー!朝の肉タイムだー!!」
タークがこっちを見て声をあげていた。
ヴァルドとグリンスは顔を見合わせて微笑み一緒にタークの方に歩いていく。
続く




