拝啓 天馬 ストレス解消がしたいです
天馬、私はいまストレスを感じています。
ルカは気立てがよくて優しいいい子だし、ラルスも私のことを貧乳扱いした以外では素直な子で、しかも私の大好きな『咲くも花、つぼみも花』の理解者でもあるから嬉しいわ。
私の自信作、『モテる男の必須条件を獲得するためには!』の感想文も書いてくれたし。
でも、やはり私は可憐な少女。
男社会の中にいては、ストレスも溜まります。
このまま男地獄の中にいて、ストレスで髪が抜けてしまったらどうしましょう。
育毛剤とか作ったほうがいいかしら?
クリスティーナお姉様がキレイだと褒めてくださったことのある、この黒髪は絶対に維持しなければならないわ。
前世では、まだ抜け毛に困るような年ではなかったから、育毛剤の知識など持たずに日々を過ごしていたことが、今更ながら悔やまれます。
とりあえず、そんな本がないか調べてみようかしら。
“王の剣”の図書館に、抜け毛に関する書籍があればいいのだけれど。
――――あ、図書館で思い出したわ。
天馬、幽霊の存在を貴方は信じますか?
私、今日幽霊を見たの。
無駄に顔が良くて、まるで大天使のような幽霊よ。
銀髪に、美しい紫水晶のような瞳の、とても無礼な男の幽霊だったわ。
そこで羽根ペンを持つ右手が止まる。
「幽霊…ねぇ」
幽霊と口にしても、彼が、本当に幽霊だとは実際のところは思っていなかった。
あんなリアルな幽霊などいるはずがない。彼は生身の人間だ。
(髪の長さから推測すると、黒星か銅星だけど…)
だがどんなに記憶を辿っても、黒星にあんな男はやっぱりいなかった。
ソフィーが訪れた日に、今日のように彼がサボっていたという可能性もあるが、黒星の生徒数は事前に聞いていた人数と一致していた。それは黒星だけでなく、金星、銀星もそうだ。
残る可能性は銅星だが…。
「銅星なら、明日会えるかしら?」
呟いても、どうもしっくりこない。
彼のたたずまいは、とても銅星には見えなかった。ならば黒星かといえば、それも納得できない。あの男は、騎士を目指しているような人間には見えなかった。もっている雰囲気が違いすぎる。
銀色の髪に紫水晶の瞳、美しい顔立ちに、にじみ出る気品、人に命令するのに慣れているような男だった。上位貴族にしか思えぬ男だったが、髪の長さは平民と変わらない。だが、平民には見えない。
「こんな麗しいレディに対して、名乗らない無礼者なんて初めてだわ」
本当の名を教えてくれなかった男ならいるが。
フェリオのことを思い出し、そこでふと気づく。
「銀色の髪に、紫水晶の瞳…」
珍しい色だが、オーランド王国でその色を持つ有名な人間を二人知っている。
一人は、この国の王妃。眩い銀の髪と、人を魅了する紫の瞳を持っていると聞いたことがある。
そして、もう一人がその王妃の息子――――。
「第二王子…?」
天馬のことで頭の回転が鈍っていたが、銀色の髪に紫水晶の瞳と聞けば、すぐに思い起こされる人物だ。
王族の可能性に、ゾワッと背筋が凍る。
フェリオも王族でしかも第一王位継承者だが、幼いころの友人という枠組みが大きすぎて畏怖の気持ちは無いも等しいが、第二王子は違う。
「もし彼が第二王子なら、図書館の鍵くらい手に入るわよね…?」
だが、第二王子がわざわざ“王の剣”の図書館に来る必要があるだろうか?
王宮にはそれ以上の規模の蔵書があると聞く。あの空間に、護衛の気配は無かった。護衛も付けずに、ましてや司書に気づかれずに入れるわけがない。司書たちが、護衛もつけていない第二王子の存在をあれほどに無いものとして対応するなど到底思えなかった。
「それに、彼の髪は短かったわ」
肩につくかつかないかの短い髪は、平民レベルの長さだ。
成長したフェリオは、腰ほどにある長い髪をなびかせていた。同様に、第二王子も美しい長い髪を持っていると聞いたことがある。
今日会った彼の髪は、カツラで隠しているような違和感はまったくなかった。
「違う…わよね?」
無礼な幽霊もどきな男のせいで、ソフィーはその日、なかなか眠れぬ夜を過ごしたのだった。




