拝啓 天馬 見て、あの空を自由に飛ぶ鳥たちをⅦ
あの銀髪美形が鍵をかけたのだろうか?
「ソフィー様、いらっしゃいましたか!」
司書の中で一番若い男性が、こちらに走ってきた。ソフィーを見てホッとした顔をするのを見ると、どうやら彼も探し回ってくれていたようだ。
話を聞けば、館内は見渡しのよい設計にもかかわらず、ソフィーの姿がまったく見えなかったため、いったいどこに行かれたのかと、皆が心配して探し回ったらしい。どうやらかなり迷惑をかけてしまったようだ。
「ごめんなさい、扉が開いていたので書庫の中に入ってしまいました。この本も持ってきてしまったので、お返ししたいのですが」
つい鞄と一緒に持ってきてしまった『神の山、神の樹』を出すと、司書の男性が不思議そうな顔で受け取った。
「確かにこれは書庫の本ですね。でも、書庫は鍵がかかっていたはずなのですが……。開いておりましたか?」
「ええ、今は中にいた方が鍵をかけられたようですが」
「……中にいた方、ですか? 中から鍵はかからない仕様なのですが」
「え?」
困惑した表情で言われ、ソフィーも戸惑った。
思わず扉を見つめ、もう一度取っ手を掴むが、やはり扉は開かなかった。
「鍵は館長が管理しておりまして、その鍵でしかこの扉は開かないんです。館長は朝から別の棟での仕事のため、今日は一度もこちらに来ておりません。昨日の戸締りの際も、書庫の扉が閉まっていることは確認したはずなのですが」
彼が嘘を言っているようには見えない。その証拠にとても不可解そうに何度も頭を捻っている。
(……やだ、本当に幽霊だったのかしら?)
幽霊とは、あんなに口と態度が悪いのだろうか。それとも、彼は悪霊の類だったのだろうか。
だが彼が人間ならば、閉じ込められたことになる。
「……本当に、中に人はいないのかしら?」
「館長に鍵を借りてまいります」
不安になって呟くと、司書がすぐに動いた。
止める暇もなく走っていく司書の後姿を見送りながら、ソフィーはルカに話しかける。
「ルカ、幽霊っていると思う?」
「どうでしょう? 幽霊にしても、人にしても不思議ですね。兄も、昔からこの書庫は館長がいないと開かないから面倒だと言っておりましたので、いつも鍵がかかっているものだとばかり」
「そう…」
しばらく待っていると、司書が鍵を手に戻ってきた。扉を開けて中に入り、三人で探したが書庫の中には誰もいなかった。
彼と話したテーブルに行くも、銀髪美形の姿は無く、ただ天窓から光が差し込んでいた。
自分は幻でも見ていたのだろうか?
あんなにハッキリとした幻があるのだろうか?
疑問だけを残し、ソフィーは図書館を出た。
書庫から持ってきた『神の山、神の樹』は、一般生徒は本来貸し出し不可の本だったのだが、紫星ということで貸し出し許可が下り、借りることにした。
しかし、この本を見るたびに、あの銀髪美形のことを思い出して読むのに集中できなさそうだ。
「幽霊…ですか?」
食堂で待ち合わせしていたラルスに先ほどの一件を伝えると、ラルスはこわばった顔で口元を引きつらせた。どうやら、この手の話は苦手のようだ。
「ソフィー様、その方の外見を教えていただけますか? もしかしたら幽霊ではなく、生徒かもしれませんし」
「うーん…」
騎士の顔でルカが言うが、ソフィーとしてはそこまでしてもらうのも申し訳なかった。そもそも幽霊という存在なら気にはなるが、彼自身にはあまり興味がない。
「特段なにかされたわけでもないし、いいわよ。ルカも忘れてちょうだい」
「しかし…」
「それより、食事を取りましょう。今日は、昨日とは違うものを作ったから…侍女がね。ラルスも食べて感想をちょうだい」
広い食堂内の隅に設置された椅子に座ると、バスケットから昼食を取り出す。今日はケークサレ、ピーマンの肉詰め、厚焼き玉子だ。
ルカが、ニコルのように成長が止まってはいけないと多めに作ってきたので、ラルスの分も十分だろう。




