拝啓 天馬 見て、あの空を自由に飛ぶ鳥たちをⅢ
“王の剣”の図書館は、前世、よく通った箱のような図書館とは違い、円形の造りをしていた。扉は大きなものが一つあるだけで、カウンターの横を通って中に入る。司書は常時5人。
ここでも女性の司書がいないか期待したが、残念ながら皆男性だった。しかし、皆にこやかな笑顔でソフィーを歓迎してくれた。どうやら、図書館はソフィーにとって、居心地の良い場所を提供してくれそうだ。
初めて中に入った図書館は、思っていた以上にとても広く、蔵書の数は“女王の薔薇”の倍近くあった。
三百六十度、四方を本に囲まれた内装は落ち着いており、設置されている本棚、テーブルや椅子も赤茶色で統一されていた。高い天井は大きなシャンデリアが五つも下がっており、ロウソクの優しい光を照らしてくれている。
じっくりと見れば、椅子一脚にしても細部に渡って丁寧な装飾が施されていた。これだけで、かなりの金額だろう。金星は、金で星を買うが、そこから得られた金はこういった所に使われるようだ。
三階まである吹き抜けの書架をみて、お腹が空いていたわけでもないのに、バームクーヘンを端から持ち上げ、ずらしたような形だなぁと思った。
「あ…」
「どうかされましたか?」
ルカに問われ、慌てて首をふる。
ソフィーらしくない食気のある感想だと思ったら、前世で天馬との旅行中に訪れた図書館に似ているのだ。
それを見て、自分が言ったのだ。「見ろ天馬、バームクーヘン図書館だ」と。「もっと他に感想ないのか?」と、天馬に呆れられたのを思い出し、笑ってしまいそうになる。
(楽しかったなぁ…)
最悪の結果にはなったが、楽しかった。
見たことのない風景、日本とは違う風土、初めて食べる料理。全てが新鮮だった。
そういえば、と思い出す。
“王の剣”に来た初日、ソフィーは天馬の夢を見た。特段、なんてことのない夢だ。
だが、ソフィーの夢に天馬が出てきたのは初めてだった。
幼い時の天馬が、真新しい紺色のランドセルを背負って、クラスメイトだった自分の後ろをついてくる夢だ。ただそれだけ。
幼いながらも、十数年後にはふてぶてしい青年になる片鱗がよく分かる、ブスっとした顔で歩く姿に、懐かしさを感じた。
時間にすればたった数十秒にも満たない夢だったが、確かにあれは天馬だった。
朝起きて、クスリと笑ってしまったのに、この図書館を見るまで、夢に天馬が出てきたことなどすっかり忘れていた。
(まぁ、あの小学生とは思えない可愛げのない顔なんて、忘れていいか)
友達甲斐のないことを思いながら、たくさんの本の背表紙を眺め見る。
歴史書や自伝、図鑑に、異国の本。厚みのある本に、薄い本。背表紙が金色に輝いている本、薄くかすれている本。目に入るだけで数千冊はあるだろう本の数々に、思わずうっとりと目を細めてしまう。
「今の時間は、授業中で生徒もおりませんし、僕は扉の近くで待機しておりますので、お好きにご覧ください」
フェリオへ頼んだ条件の一つに、調べ物をしている時はできるだけ護衛は外してくれというのをいれていたのだが、ルカはしっかりと守ってくれるようだ。
ルカは可愛らしく優しいため、護衛をされていても威圧感がなく、息苦しさを感じないが、やはり本を読んでいる時は集中したい。その申し出はありがたかった。
一人ランラン気分で二階に上がる。
すると、本棚と本棚の間に、細い通路があるのを見つけた。
奥には扉があったが、扉は開いており、カギはかかっていないようだった。
細い通路を通って奥の部屋に入ると、そこは古ぼけた、背の高い本棚が整列していた。
一瞬、“女王の薔薇”のように、人知れず書かれた物語があるのかと思って本を開くが、普通の古い本だった。どうやらここは書庫のようだ。
「普通、書庫って立ち入りを禁止しているものじゃないのかしら?」
扉にカギなどかかっていなかったから、入室しても大丈夫だろうと勝手に結論づけ、本に目を移す。
下から順に視線を上へあげると『神の山、神の樹』というタイトルの本を見つけた。
「神の山…?」
神話か何かだろうかと本を取ろうとしたが、上の方にあるため身長が足りない。あと数センチなのだが、手を伸ばしても届かなかった。
(もうっ、前世の身長なら届くのに!)
前世もさほど高身長ではなかったが、今のソフィーよりは高い。
仕方ない、誰かに取ってもらうか、ハシゴでも借りるしかないと諦めて腕をおろすと、スッと誰かがソフィーの後ろから本を取ってくれた。
「あ、ありがとうござ…」
身長の高さから、ルカでは無く、司書の方だと思って振り返れば、そこにいたのは目もくらむような美形だった。
見知らぬ美形が、取ってくれた本を手渡してくれる。
(え…だれ?)




