いつもとは違う1日
翌朝。
ラルフは、いつもより早く目が覚めた。
窓の外はまだ薄暗く、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
今日は十一歳の誕生日。
神殿で守護を授かる日。
ベネディクタに暮らす子供たちにとって、それは大人への第一歩ともいえる節目の日。
ラルフは寝台から起き上がり、顔を洗った。
用意しておいた服に袖を通し、乱れた髪を手で整える。
身支度を済ませると、部屋の隅に置かれた荷物を確認した。
特別な持ち物はない。
神殿へ行き、守護を授かる。
ただ、それだけのことだ。
それなのに、胸の奥は落ち着かなかった。
守護を授かれば、自分にも何かが変わるのだろうか。
父のように斧を扱う才能が得られるかもしれない。
母のように回復魔法を使えるようになるかもしれない。
冒険者として戦うのに向いている守護かもしれない。
考え始めると、いくらでも想像が膨らんだ。
けれど、すぐに別の考えが浮かぶ。
もし、何の役にも立たない守護だったら…
そんな不安を抱くのは、ラルフだけではなかった。
守護は人それぞれ異なる。
戦いに向いたものもあれば、商売や職人仕事に適したものもある。
農業に役立つ守護を授かる者もいれば、目立った能力を持たない守護を授かる者もいる。
守護によって人生のすべてが決まるわけではない。
大人たちはそう言う。
それでも、子供たちにとっては、自分の将来を左右する大事な日だった。
「ラルフ、準備はできたか?」
家の外から声がした。
隣家の父親のトーマスだった。
「はい、今行きます!」
ラルフは戸締まりを確認し、外へ出た。
トーマスも、今日は神殿まで付き添ってくれることになっていた。
本来なら、両親と一緒に歩くはずだった道。
そのことを考えると、胸が痛んだ。
けれど、ラルフは何も言わなかった。
「ラルフ!」
隣家の玄関から、リアが顔を出した。
いつもより少しだけきちんとした服を着ている。
九歳の彼女にとっても、守護を授かる子供を見送るのは特別なことなのだろう。
「おはよう、リア」
「おはよう! 今日、守護をもらうんだよね?」
「うん」
「いいなあ。私も早く十一歳になりたいな」
リアは羨ましそうに言った。
「どんな守護になるんだろうね?」
「まだ分からないよ」
「ラルフのお父さんみたいに、強くなれる守護だったらいいね」
ラルフは少しだけ笑った。
「そうだね」
リアは、それ以上両親のことには触れなかった。
気を遣っているのかもしれない。
けれど、無理に元気づけようともしなかった。
それが、ラルフにはありがたかった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん! 帰ってきたら教えてね!」
「ああ」
ラルフはうなずき、隣家の父親と一緒に歩き始めた。
リアは家の前で、二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。




