↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福された異端の子  作者: しろうさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/40

こころがまえ

ラルフの生活に新しい日課が加わった。


午前中は冒険者ギルドへ顔を出し、見習いでもできる仕事を受ける。


倉庫の整理、荷物運び、商店への配達、人手の足りない家の手伝い。


初めて訪れる場所も多く、ラルフにとっては見るものすべてが新鮮だった。


仕事を終えれば、依頼人から礼を言われる。


それが嬉しくて、ラルフは毎日仕事へ通った。


そんなある日、ロイドとの訓練中に、ラルフは思い出したように話し始めた。


「そういえば、ロイドさん。最近、不思議なことがあるんです」


「不思議なこと?」


「はい。ギルドの仕事でいろんな場所に行くじゃないですか。倉庫にも、商店にも、町外れの家にも行ったんですけど……」


「うん」


「どこに行っても、必ずマリーが寝てるんですよ」


「……マリー?」


「リアの飼い猫です。荷物を届けに行った先でも、倉庫の隅でも、商店の軒先でも。気づくと、すやすや寝てるんです」


ラルフは真剣な顔で首を傾げた。


「マリーの行動範囲って、すごいですよね」


「……お前、仕事中何してるんだ?」


「え? あ、いや気づくとマリーが!」


ロイドは、笑いをこらえるように口元を押さえた。


あの猫なら本当に町中を歩き回っていても不思議ではなかった。


「まあ、町の地理を覚えるにはいい経験だな」


「はい! おかげで、知らない道もだいぶ覚えました」



          *



午後の訓練。


ロイドの木剣が、ラルフの肩口へと迫った。


ラルフは相手の動きに反応し、木剣を差し出す。


ガンッ!


木剣同士がぶつかり、ロイドの攻撃がわずかに逸れた。


「……お?」


ロイドは距離を取った。


以前なら、防ぐことすらできなかった一撃だ。


「今の!」


「ああ。だが、まだ一度だ」


「はい!」


ロイドが再び踏み込む。


今度はラルフの反応が遅れ、木剣を弾き飛ばされた。


「っ!」


「まだまだだな」


ラルフは木剣を拾い上げた。


それでも、以前とは違う。


ロイドの動きが、少しずつ見えるようになってきた。


          *



訓練を終え、二人は木剣を片づけていた。


「ラルフ。さっきの一撃だが、どうやって防いだか言葉にできるか?」


「えっと……」


ラルフは少し考え込んだ。


「剣だけを見ていたときは、どこから攻撃が来るのか分かりませんでした。でも、ロイドさんの身体全体を見るようにしたら、動き始めるのが少し分かったんです」


「全体?」


「はい。腕や足だけじゃなくて、身体がどう動こうとしているのかを見る感じです」


ロイドは頷いた。


「そうか。なら、もう一度やってみよう」


二人は再び向かい合った。


ロイドの表情が変わる。


身体から鋭い殺気が放たれた。


次の瞬間、ロイドが踏み込む。


足が踏み込み、腰が回り、肩が動く。


来る。


ラルフは攻撃の起こりを捉え、木剣を差し出した。


ガンッ!


今度は、ロイドの攻撃をしっかりと受け止めた。


腕に強い衝撃が走る。それでも、木剣は弾き飛ばされなかった。


ラルフの顔に喜びが浮かぶ。


「甘い」


ロイドの声が響いた。


受け止められたはずの木剣が、わずかに動きを変える。


気づけば木剣がラルフの胸元で止まっていた。


「えっ――」


ラルフは目を見開いた。


身体の動きは見えていた。攻撃の起こりも捉えたはずだった。


「今、何が起きたか分かるか?」


「……途中で、攻撃を変えたんですか?」


「そうだ」


ロイドは木剣を下ろした。


「相手の身体を見るのは大事だ。だが、動きが分かったからといって、相手の考えまで分かったことにはならない」


ロイドはラルフの目を見た。


「相手も生きている。お前に読まれたと気づけば、動きを変えてくる。わざと隙を見せることだってある」


「わざと……?」


「ああ。相手に攻撃を読ませて、そこを狙う。そういう駆け引きもあるんだ」


ロイドは木剣を構え直した。


「魔獣だって同じだ。いつも単純な動きをするとは限らない。狡猾な魔獣もいるし、死に物狂いでこちらを倒そうとしてくる魔獣もいる」


ラルフは真剣に耳を傾けた。


ロイドの声が、少し低くなる。


「捉えた、勝ったと思った瞬間が、一番危ない。相手が倒れるまで、最後まで動きを見続けろ。判断を止めるな」


「……はい」


「お前が相手を見ているように、相手もお前を見ているからな」


ラルフは、先ほどの一撃を思い返した。


動きが見えたと思った瞬間、自分は安心してしまった。


「もう一度、お願いします」


ラルフが木剣を構えた。


ロイドは小さく笑った。


「よし。今度は、最後まで気を抜くなよ」


二人は再び立ち合った。


ラルフはロイドの身体全体を見ながら、攻撃の起こりを捉えようとする。


しかし、今度は動きが見えても、すぐに決めつけない。


次はどう来るのか。


何度も木剣を弾き飛ばされ、何度も隙を突かれた。


だが、そのたびにラルフは、何を見落としたのか、何が違うのかを考えた。


訓練が終わる頃には、ラルフの腕は疲れ切っていたが、その顔には確かな手応えがあった。


「……確実に上達しているな」


ロイドが言った。


「本当ですか?」


「ああ。俺には及ばないが、以前とは違う。相手の動きを捉えようとする心ができてきた」


ラルフは嬉しそうに頷いた。


「そろそろ、いいかもしれないな」


「え?」


「街の近くの魔の森で、経験を積んでみるか」


ラルフの表情が明るくなった。


「本当ですか?」


「ああ。ただし、俺の指示には必ず従うこと。まずは、魔の森で何を警戒し、どう動くべきなのかを覚えるんだ」


「分かりました」


「よし。準備ができたら出発しよう」


初めての魔の森……。


新しい経験が、ラルフを待っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございます! 「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、 作品の【ブックマーク追加】や、画面下にある【⭐⭐⭐⭐⭐(評価)】をタップして応援していただけると、執筆のクオリティと速度が跳ね上がります! ▼作品トップ・目次ページはこちら https://syosetu.com
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。