急報 ②
「ロイドさん、騎士団から至急報告があるそうです」
訓練場のロイドとラルフにギルド職員が声をかけた。
「騎士団から? どんな用件だ?」
「騎士団長のヘーゼル様からです。ロイドさんと、ラルフ君を連れてきてほしいと」
その言葉に、ロイドの表情が変わった。
「……ラルフもか?」
「はい。ご両親について、伝えたいことがあるそうです」
傍らにいたラルフが、職員の言葉に反応した。
「父さんと母さんのこと?」
「詳しい話は、騎士団詰め所で聞いてほしいとのことです」
ラルフは不安そうにロイドを見上げた。
ロイドは少し考えた後、立ち上がった。
「分かった。すぐに向かおう」
詰め所に到着すると、ヘーゼルが二人を出迎えた。
「急に呼び立ててすまない」
「構わない。それで、何があった?」
ロイドが尋ねると、ヘーゼルはラルフへ視線を向けた。
「まずは、君のご両親についてだ」
ラルフは息をのんだ。
「交易路の先にある町、ダライから連絡が届いた。君の父上と母上は、そこで保護されている」
「……本当ですか?」
「ああ。二人とも生きている」
「……ああ…っ」
ラルフの肩から力が抜け涙がこぼれ落ちた。
ずっと分からなかった両親の行方。
生きている。
この知らせを聞いてから最悪だけを想像していた。
生きている
その事実を聞いただけで、胸の奥に張り詰めていたもの緩み、膝の力抜けて立てなくなってしまった。
「落ち着いて聞いてくれ」
「ただし、父親のベルク殿は重傷だ。現在も完全には意識が戻っていないとのことだ。」
ラルフの表情が冷たく固まった。
「重傷……?」
「街道の調査中、魔物に追われた避難民を逃がすために戦い、その際に負傷したと聞いている」
「父さんが……」
ラルフは言葉を失った。
「母さんは?」
ようやく出た声は、かすれていた。
「ミア殿は無事だ。現在はダライでベルク殿に付き添っている」
「……母さん」
ラルフはうつむいた。
母は無事だ。
父も生きている。
それでも、すぐに会いに行けるわけではなかった。
ロイドはラルフを椅子に座らせ手を置いた。
「今は、二人が生きていることを喜べ。詳しい状況は、これから確認していけばいい」
ラルフは涙が止まらなかったが、小さくうなずいた。
「今回の報告には、もう一つ重要な内容がある」
ヘーゼルが話を続けた。
「先ほども伝えたがベルク殿とミア殿は、魔の森を抜ける街道の状況を調べていた。その途中でヘルビーストに遭遇し戦闘となったそうだ」
ロイドの表情が険しくなった。
「……やはり、街道沿いにも出ていたか」
「そうだ。二人はその後、ダライへ運ばれた。現在、町の周辺に大きな魔物の脅威は確認されていない。ただし、街道の魔物の分布は以前と大きく変わっている。ベネディクタへ戻ることは、まだ危険だと判断されている」
「母さんは元気なんですよね?何か言っていませんでしたか?」
ラルフの問いに、ヘーゼルは少し表情を和らげた。
「伝言を預かっている」
ラルフは顔を上げた。
「ラルフに現状を伝えてほしい。そして、必ず父さんと帰るから安心してとのことだ。」
ラルフは唇をかんだ。
「……はい」
それ以上、言葉は出なかった。
ヘーゼルはラルフの様子を見守った後、ロイドへ向き直った。
「ロイド。交易隊についても情報があった。ヘルビーストの影響でまだダライに留まっているとの報告だ。街道の安全が確認できるまでは、無理に通すわけにはいかない」
「分かった。ギルドでも情報を集めておく」
「頼む」
その時、詰め所の扉が開いた。
「急ぎゆえ無礼は許せ。高台から狼煙が上がるのが見えた。何があった?」
入ってきたのは、エドガー・フォン・ベネディクタだった。
ヘーゼルはすぐに姿勢を正した。
「ダライから連絡が届きました。交易路の状況と、ヘルビーストの目撃について報告を受けていたところです」
「そうか。報告を続けてくれ」
エドガーは部屋にいる者たちを見渡し、ラルフに目を留めた。
「こちらはベルクとミアの息子です」
ヘーゼルがラルフを紹介すると、エドガーは彼を見てうなずいた。
「……ああ、君がラルフか」
名前を呼ばれ、ラルフは戸惑った。
「守護はたしか、天秤傭兵だったな」
ラルフはなぜか自分を知るこの謎の青年に、戸惑いながらもうなずいた。
ラルフの戸惑いを一向に気にせず、エドガーはヘーゼルとロイドに向き直り、話を続けるよう促した。




