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祝福された異端の子  作者: しろうさぎ


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19/40

戦士の資格

ラルフが目を覚ましたのは、スタンピードの翌朝だった。


身体を起こすと、肩や脇腹にわずかな違和感が残っていた。回復魔法のおかげで傷はほとんど癒えていたが、身体にはまだ疲労が残っている。


「ラルフ!」


声のした方を見ると、リアが心配そうにこちらを見つめていた。足元にはマリーもいる。


「リア……」


「よかった。昨日からずっと眠ったままだったから、心配したんだよ」


「ごめん。リアは怪我してない?」


「うん。大丈夫。ラルフが助けてくれたから……ありがとう」


「……そっか。よかった」


リアの無事を確かめ、ラルフは安堵した。


けれど、すぐに昨日の戦いが脳裏によみがえる。


グラウヴォルフの突進。鋭い爪。弾き飛ばされた剣。


そして、自分を襲った恐怖。


ロイドが来なければ、二人とも死んでいた。


その事実は、今も重く胸に残っていた。


     *


昼前、ラルフは訓練場を訪れた。


体力は戻りきっていない。無理をしないよう、木剣を手にゆっくりと構えた。


昨日の戦いを、もう一度頭の中で再現する。


グラウヴォルフが正面から迫ってくる。


――避けろ。


ラルフは横に踏み込み、剣を振るう。


だが、魔物は止まらない。


振り抜いた剣を戻すより早く、グラウヴォルフの前脚が迫ってくる。


――遅い!


今度は後ろへ下がる。距離を取ったつもりだった。


しかし、魔物は地面を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。


「……っ!」


ラルフは思わず木剣を振り上げた。


間に合わない。


鋭い爪が眼前に迫る。


身体が凍りついた。


昨日と同じだ。


逃げなければ。剣を構えなければ。何かしなければ。


分かっているのに、身体が動かない。


ラルフは荒い息を吐きながら、木剣を下ろした。


「……これじゃ、駄目だ」


もう一度、最初からやり直す。


今度は突進を避けた直後、魔物が向きを変えるところまで想像した。


反応が遅れる。


なら、最初から次の動きを予測しておけばいい。


だが、どう予測すればいいのか分からない。



――足りない。


剣の技術も、身体の速さも、知識も。


何もかも足りない。


グラウヴォルフが迫ってくる光景を思い浮かべるたび、昨日の恐怖がよみがえる。


次は避けられないかもしれない。


次は剣を弾き飛ばされるどころか、そのまま喉を裂かれるかもしれない。


自分が死ぬだけなら、まだいい。


あのとき、自分が倒れれば、リアも殺されていた。


「……くそっ」


ラルフは木剣を握りしめた。


何度やり直しても、想像の中の自分はグラウヴォルフに追い詰められる。


勝てない。


今のままでは、また同じことになる。


「何をしている」


声に振り向くと、ロイドが立っていた。


「ロイドさん……」


「ずいぶん必死な顔だな」


「昨日の戦いを思い出していました。どう動けばよかったのか、何度も考えていたんです。でも……」


ラルフは言葉を探した。


「何度やっても、殺されます。避けても追いつかれるし、剣を振っても間に合わない。どうすればいいのか、分からなくて……」


ロイドはラルフの木剣に目を落とした。


「それでいい。自分に何ができないのか、分かったんだろう」


「……はい」


「お前が戦ったのは四つ足の魔物だ。人間とは動きが違う。脚や重心を見て、次の動きを読む。相手の特徴を知らなければ、対応もできない」


ラルフはうなずいた。


そして、少し迷ったあとに尋ねた。


「……もし、ロイドさんが僕の立場だったら、どうしましたか?」


ロイドはすぐには答えなかった。


しばらく虚空を見つめてから、静かに口を開いた。


「目の前で守るべき相手が襲われていたら、俺だって同じことをしただろうな」


ラルフは顔を上げた。


そのままラルフの眼を見つめてロイドは更に続けた。


「今回のスタンピードで、騎士のガレス、マティアス、オルドが命を落とした。冒険者のダンもだ」


ロイドの声がわずかに低くなる。


沈黙が場を包む。


「彼らも、誰かを守るために戦った。だが、生きて帰れなかった」


ラルフは何も言えなかった。


「三週間前のお前だったら、俺が到着するまでに、お前もリアも死んでいただろうな」


「……」


「三週間、訓練を続けたからこそ、お前は持ちこたえられた。お前の努力が、二人の命を救ったんだ」


ラルフは木剣を握り直した。


自分は何もできなかったと思っていた。けれど、積み重ねてきたものは確かにあった。


「……はい。もっと強くなります」


「そのためにも、まずは身体を治せ。万全になったら、また鍛えてやる」


「お願いします」


ラルフは深く頭を下げた。


昨日の恐怖を忘れるつもりはない。


何が足りなかったのか。どうすれば、次は生き残れるのか。


考え、学び、訓練を重ねる。


今度こそ、大切な人を守れるように。


ラルフは木剣を握り直し、もう一度、ゆっくりと構えた。


そのとき、慌ただしく訓練場にギルドの職員が現れた。


「ロイドさん、騎士団から至急報告があるそうです」


ロイドは職員へと視線を向けた。


ラルフは木剣を下ろし、その背中を見送った。


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