その八十二
三千二百五十四
夏でも肌寒い霧に覆われた、根室本線の釧路から先。学生時代に行った北海道の旅です。観光の若者で満員のディーゼルカーがうねる様な霧の牧草地を走ります。日本だとも、そして私にはこの世のものとも思えない光景でした。何か、自分の心の底から湧き上がって来る名状し難いものを感じました。しかし、名状し難いのに具体的なのです。漠然としてはいないのです。
「此処にも人が住んで、生きている」
二十歳の私は、胸がいっぱいになりました。私は今、あの頃の私に逢いたいと思います。会って、一緒に御飯を食べたいと思うのです。屹度私は言うでしょう。
「一生を自分らしく生きて下さい。それで間違っていないのです」
三千二百五十五
ずっと前に一度見て、それで悉皆忘れて仕舞っていたのに、突然それと同じ夢や或いはその夢の続き、詰まり『続編』を見たりするのです。私は落ち着いてなど居られません。無理も無いと思いませんか。
理由はさて措くとしても、この連関、関係性。私は何処か遠くから、自分が呼び掛けられている気さえします。不思議な気持ちと、背筋が凍る様な恐さを感じるのです。
三千二百五十六
大人らしい顔になりたいですか。そんな事は気にしないが良いでしょう。大人らしい事を考え想っているならば、自然にそういう顔になりますから。外見外貌、それは年齢と共に自然に自身の内面の程度に沿うものになるのです。これは当然で不可避の事ですから、必ずそうなるのです。
だから、自分が年齢相応の容姿をしていない事を気にするのではなく、自分が年齢相応の内面、精神の活動をもっていない事を気にして下さい。それが基なのです。そちらが重要なのです。
三千二百五十七
自分の心の奥底から言葉を汲み出す。最も必要な事は焦らない事です。その作業をする自分が心静かに、本当の、本来の自分である事です。特に技術も知識もその他の能力も要りません。それだけなのです。
でもそれはそのまま、自分が人と会って話をする時、また自分が独り居て何かしらをして時間を過ごしている時全部に当て嵌まる事ではないでしょうか。一日のうち、そんな風に本来の自分で居る時間が長ければ長い程、それは豊かな毎日だと私には思えるのです。
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