東京 9
駅につく。
怯えがみえないように自然にみえるように意識しながら汽車をおり雑踏を迷いながら車の待合を探す。
行列の中、ようやく順番が来て車夫に住所の書付を見せてそこへやってくれるように頼む。
三十歳くらいの体格のいい車夫は少しためらうような表情を見せ、その少しの間が私を不安にさせた。
夕方の東京の町は、地元とは違いまだまだ人で溢れている。
鎌倉に行った時の高揚感はまるでない。
あの時は先生もいともいて、楽しいばかりだったが今は不安でいっぱいだった。
しばらく走ると景色が変わる。荒んだような廃墟の町。車夫が口を開いた。
「もしかしてご存知じゃなかったんですかい。お見舞いかなにかかと思ったんですがね。ここいらはついこの前の大火で焼け野原で」
私は呆然とした。
「あの、この住所の家はどこですか」
「こうなっちゃどこかもはっきりとはわからねえですが、おそらくこの当たりかと」そう言って車夫は人力車を止めた。
あちこちに仮住まいのような掘っ建て小屋が建てられているが、車夫が止めた場所には何もなかった。ただ焼け残った家の残骸があるだけの場所でしかなかった。
「このあたりの人を訪ねてこられたんでしたら、少しどこかで聞いてみるしかないでしょうな」
車夫は同情するように言ってくれた。
私はそこで料金を払い降ろしてもらった。
一人になりたかった。
どうしたらいいのかわからなかった。