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◆空虚なる墓所
……
朝まだき暗きうちに、斑区の万里屋、家須賀の墓に来たる。
墓より石の取除けられ、家須賀の屍、何処かへ取去られたるを視る。……
「たれか家須賀を墓より取去れり、何処に置きしか我ら知らず」
万里屋呼びて、二人の弟子、墓にゆく。……
墓に入りて家須賀の屍無く、布のみ置かれたるを視る。……
二人の弟子おのが家に帰れり。……
されど万里屋は墓の外に立ちて泣き居りし……
万里屋のそばに男来たりて言う。
「女よ、何ぞ泣くか」
日はいまだ昇らず、万里屋は彼の顔を見ること能わず。万里屋は墓守ならんと思いて言う。
「誰か家須賀を取去れり、何処に置きしか我知らず」
彼、言う。
「誰を尋ぬるか」
万里屋、言う。
「君よ、汝もし彼を取去りしならば、何処に置きしかを告げよ、我引き取るべし」
「万里屋よ」と彼は言い給う。
「我、家須賀なり」
畏れ脅え、地に伏す万里屋に、家須賀言い給う。
「我が兄弟たちに『我は我が父すなわち汝らの父、我が守すなわち汝らの守の許に昇る』と告げよ」
万里屋往きて弟子たちに「我は家須賀を見たり」と告げたり。
……
――誉羽伝 福語録




