6p.次の旅行先は東城
動輪が、線路の上を走る音。重さを乗せたようなその塊は黒い煙を吐き出して、隣の地区へと駆けていく。
汽笛の高い音が響き渡り、車体がゆっくりと駅に停まった。
『──天国行き〜天国行き汽車、走ります。東城区に行かれる方は天国行きへ。赤雷へ行く方は2番出口の方へお進みください』
アナウンスを聞いて、手元の切符を見る。切符だなんて、古臭いと思う人もいるだろう。白刄では生体認証があったのだから、汽車に乗るなら同じ仕組みではないのか?と。
「ロマン、らしいわよ」
「何が?」
切符を切ってもらった後、席に座ってから向かいの席にいる風に話す。
汽車の中はなかなか、東城らしさが満載だった。
上から吊るされた宝石の小さな照明に、席と席の間にある透明なガラスの道。
その下には機関車が動いている歯車が見える。ふわふわの座席に、木材で作られた手すり。
「わっ、窓は花の模様だ」
「前乗った汽車は動物だったわね」
触れると色がつく、不思議な仕組み。
「それにしてもロマンかぁ…」
向かい合った風を見ながら私はスマホに目を落とす。
「これも、ドワーフ製だもんね」
「ええ、そうね…現界に似せたものを作ったってニュースで見た」
「流石ドワーフ…これが無かったら脳内会話だもんなぁ」
「神秘経由のやつね」
「あれ、いちいち近所の神秘に頼むの面倒なんだよねえ」
スマホを見つめて、風が笑う。
「そう考えると、これありがたいね!現界の人あったまいいー!」
「こういうのも、巨人用で大きく使われてるのかしら」
「どうなんだろ〜…汽車の大きさも私たち人のサイズだしねえ」
「そうよねえ」
二人で東城に行くまでの間、気になる市をピックアップしていく。
「宝玉果物狩り!楽しみ〜」
「いちご狩りとかあるなら、宝玉果物も納得っちゃ納得よねえ…無いわけなかった」
「ね!あと〜巨人族の人とお話ししたいから、巨人族の人がいる市ね」
「宝玉果物狩りはドワーフがいるものね」
「そうそう。巨人族の人がいる市はぁ、ここだね…この、稲見星市!」
「そうね。ここが巨人族のいるところね。有名なご飯とか建物は、空の落とし物と花タバコ、あとは…」
広げた地図に自分たちの行きたい場所を書き足していく。ふと、そんな中気づくことがあった。
「…これ、ドワーフ、巨人、犬族の地区の真ん中……」
「赤星軍だ」
赤星軍──この国には政府とは別に軍がある。神などの神秘がいるからと言って、他の国から攻められないとは限らない。
人間に攻められたことは、今のところ一度もないらしい。それでも、何か有事の際に動ける人間や神秘も必要だ。
そうして、政府とは別の管轄として東城に置かれるようになったのだそうだ。
「赤星軍が真ん中に来るってことは、ここに置かれた理由があるのかしら…」
「わかんないけどぉ〜」
風が、私の見ていた視線を遮るように机に広げた地図を取る。
「絶対今考えることじゃないと思う!今は楽しいこと考える時!」
一理あるわね。車内飲食用のメニューを眺める。東城に着くまでもう1時間ほどかかるのだ。
「ねえ、これ空の落とし物じゃない?」
「春夏秋冬温泉街にあるやつね!ここでも飲めるなんて…」
「宝石が降る区なだけはあるよねえ〜頼んじゃお頼んじゃお!」
「私はこれも頼むわよ」
指を差したメニュー表に、チーズケーキを見て、風が首を傾げる。
「普通のチーズケーキ?」
「よく見なさい」
『チーズのところは金でできており、生地はムーンストーンを使用しています。宝石果物もセットです。』
「実質宝石ケーキってことじゃん!すっご!ねえ私にもちょうだい。私はこっちのショートケーキにする」
「いいわよ」
宝玉果物が使用されている記載を見て風は値段を見る。
「安いねえ」
「宝石って、他国からしたらすごく高いらしいわよ」
「まあうちらから見ても宝石ってだけで心躍るくらいには高いもんねえ」
「東城では石ころ扱いだけどね」
「まあ、降ってくるからねぇ」
赤雷では花が降るらしいし、そういう地域ってどこにでもあるのよねえ。
「白刄は飴、東城は宝石…赤雷は花でしょう?」
「そうねえ」
「カタルフは?」
「星よ。前聞いた話だと良く動いてるって言ってたわ」
「そっか。信善寺は、光だっけ」
「ふふ、そう。緑高は雪ね。そこだけ割と普通よねえ」
「ふふん、稲穂は知らないよねえ」
風が自信満々な顔をして私を見る。
「落ちてくる雪は雪だるまになるの」
「おお…え、歩く?」
「歩くよ。雪女もいるし、雪の精霊と言われている者達が多くいる」
「へえ!確かに…精霊と妖精の楽園と言われてるんだもの、いるわよねえ…」
店員さんがチーズケーキと空の落とし物を二つ持ってきてくれる。
美味しいものは分け合うのが双子のルール。
黄金に輝く黄色と、ムーンストーンの生地はふわふわだ。空の落とし物は、グラスに入っていて、真っ白な牛乳のような見た目だ。
風がショートケーキを分けるようにフォークで一口サイズに切った後、宝石いちごを刺す。
「はい、いちご!」
「あら、ケーキの王様もらっていいの?」
「いいよ、もう一つあるし。チーズケーキ一口ちょうだい!」
「はい、あーん」
「あー」
二人で仲良く分け合ったら、空の落とし物を飲む。弾けるソーダ味の飲み物は、なかなか美味しい。
「炭酸とは別の飲み物なのよねえこれ」
「あーわかる〜これ、なんだろうね…」
星が砕け落ちるように、口の中で跳ねる。炭酸のように小さな泡が飲み物の中にあるわけでもなく、とろりとした薄白色の液体がグラスの中でゆらりと揺れる。
風が頬杖をついてこちらを見る。空の落とし物の不思議な感触を味わっている姿を見てニコニコと笑っている。
実の双子ながら人の食べる姿を見て面白いのかしら。
「落とし物美味しい?」
「美味しいわよ」
「ふふっ」
プチ旅行なんて今までしてこなかったからだろうか。ここのところ、ずっと風の機嫌がいいような気がする。
双子で出かけるのも、たまにはいいのかも知れないわねえ。
「着いたらまずは、稲見星市ね!」
「ええ、そうね」
これからの旅行が楽しみだと言わんばかりに風は笑う。つられて笑い、窓の外を見る。
────奥の方で宝石の崖が覗き始めていた。
宝石の街と言われている、東城がもうすぐそこにあった。




