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守護の旅行記  作者: ツギハギ
白刄

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3/7

3p.共存とは共生でもある

 アルフヘイム──という名のスーパー・エルフ。

 通称────、


「スパエルな」

「そんな略し方されるんですね」


 ペガサスから降り、アルフヘイムの神殿の前に立つ。入り口は開放されていて、出入り自由。自動ドアがあるどころか、扉すらない。


「自動ドアもないんですねえ」

「まあ、エルフ達は術を使うからな。中にある物くらいは簡単に消せるんだろうよ」

「泥棒対策もバッチリなんですねえ」


 風と一緒に中を覗き込み、キョロキョロと見渡す。

 入ってすぐ左右に食べ物屋さん。

 奥の方にも食べ物屋さん。


「…商業施設ですね」

「アルフヘイムって名前だけかっこいいスーパーだよ」


 そう言いたくなるのもわかるくらいには、庶民的ね。

 中へ入るとエアコンの冷たい風が火照った肌を撫でた。



「アルフヘイムの特別イベントってなんですか?」

「神居政府の火鉢さんが来るんだとよ」

「根の国の総帥じゃないですか!!」


 なんでそんな人が!?

 思わず声を上げた私に伊予先輩はきょとんと首を傾げた。


「さあ?ただアルフヘイムが落ちた頃からいる人の話が聞けるなら、稲穂も嬉しいだろ?喜ばせたかったんだ」


 そう言って、目を細めて笑う伊予先輩。

 ……この人ほんっとに、こういうところ。こういうところなのよね…………。


「伊予先輩……カッコ良すぎますよぉ〜…」

「なんで風がダメージ受けてんのよ」

「被弾した…」


 ずんずん進んでいく伊予先輩の後ろを追いかける。

 よく見ると使われている柱や床は神殿のものらしい。

 商業施設に改装されてはいるものの、壁や床には昔の面影がそのまま残っている。


 ふと、何気なく上を見上げると視界に広がる青い空。

 私と同じように風が天井を見上げて、「あっ」と声を上げる。


「この入り口から奥にかけて空模様が変わってる」

「天井ぉ?ほんとだ。よく考えられてるな」

「…ほんとね…」


 青い空から、奥にかけて夜空へと変わる空は、一直線の道を上手く使っている。


「綺麗ねぇ…」

「あっ!」

「今度は何よ」


「すっごいご飯屋さんの量…」


 ご飯屋さんが多いのはともかく、並んでいる料理には白刄名物が多い。

 そこは流石、神居といったところかしら。

 風が何かに気づく。


「あ、あれ?マンドラゴラ専門店だ」

「本当だ。新しく入ったんだなぁ」


 本当にスーパーの新商品に気づいたみたいな調子で、伊予先輩がお店のサンプルを見る。


「私、マンドラゴラの本当の声聞いたことないんですよねえ」


 風はしみじみと呟く。


「いつか聞いてみたい…」

「はぁ〜ん、って言うもんな」

「そうなんですよ。なんて情けない声を上げるようになってしまったんでしょう…神秘なのに…」

「ガッカリするところそこなのね」


 風は心底残念そうにマンドラゴラを見つめる。

 そこまで私の妹はマンドラゴラが好きだったのね…。

 今度マンドラゴラの人形でもあげようかな。


「でもマンドラゴラ美味しいよなぁ」

「本当に…美味しくなっちゃって…」

「良いじゃない別に」

「だって、不気味な声をあげなくなった上に美味しくされて野菜の顔になっちゃうなんて悲しいよ」

「お前はマンドラゴラのなんなんだよ」


 少し黙った風は伊予先輩を見る。


「今日のお昼ご飯はここにしましょうね!」


 風が伊予先輩に伝える。伊予先輩も笑みを浮かべて「まあ別にいいぞ」と頷いた。


 いいんだ…。

 まあ、美味しいものね。


「先に火鉢総帥のところに行って話聞いてから、歴史資料館行くか?」

「あっ、ちゃんとあるんですね…」

「あるよ。一応な」


 総帥のところに行くか、資料館から行くか…。

 物を見て、いろんなことを知ってから質問したいな…。


「…歴史資料館行ってからでも間に合いますか?」

「間に合うぞ。そっちから行くのか?」

「はい。アルフヘイムについてはわからないことが多いので、わからないことを少しでも知ってから行こうかなって」

「そっか…。よし、じゃあ行くか」


 こっちだ。と伊予先輩が誘導してくれる。

 風はマンドラゴラからようやく目を離してついてきた。


「ねえねえ、アルフヘイムって元々どんなところだっけ」

「詳しい中身はないのよねえ…エルフの住んでた都市…ってくらいしか」

「ふーん、何が居たのかなぁ…やっぱ、ダークエルフとか?」

「それはまた別のところに住んでたらしいわよ」


 ショッピングモールのようなものだと言っていたが、中にあるものは雑貨店から服、おもちゃなどが売られているのを見るに地元民からしたらそんなものなのだろう。


「そういや、霧雨にはなんで来なかったんだ?学校はこっちだろ」

「外で遊ぶよりも本を読みたかったので…」

「私は高校周辺を彷徨いてましたよ!ただ…」


 風がそこで言葉を切り、少し言いにくそうに呟く。


「神秘の方が興味あって…建物にはあんまり興味なかったので…」

「こんなに神秘が彷徨いてるのにまだ興味があるのか…」

「ありますよぉ〜!獣人の友達には尻尾の付け根はどうなってるのか!耳の生え際とか!生態系とか聞いてました!」

「わかったわかった」


 伊予先輩が苦笑しながらも、風の話を楽しそうに聞いている。

 それを見て、少しだけ安心した。

 自分たちのこの探究心は誰かにとっては鬱陶しい欲求だから…。


「さて、ついたぞ」


 資料館らしく、アーチ型の入り口は大きな生き物が通っても大丈夫なように横にも縦にも長い。受付は生体認証だ。


「なぁんで、チケットじゃないんですか!あーやって並ぶのを飛ばす人だって出てくるのは当然だろうが!?」

「お客さん、落ち着いてください…」

「だから、お前らみたいなアルフヘイム出身のエルフってのはよぉ!」


 怒鳴り声に足を止める。


 見ると、耳の長いエルフの男の人が受付に詰め寄っていた。

 対する受付のエルフのお姉さんが困ったように眉を下げる。


 最後の勝手な偏見も含んだ言葉にエルフのお姉さんが傷ついた表情をした。


 ……どこの市にも面倒な人はいる。

 ぺこぺこと謝るエルフのお姉さんにまだ言い募ろうとする男の人。

 気づけば、間に割って入るように、男の人の前に立っていた。


「…チケットは、大きさの違う生き物がいる神居では難しいってことで撤回されたんですよ、ニュース見てないんですか?」

「はぁ!!?んだテメェ!」

「生体認証の方が身体の大きさ関係なく測れるって、言ってるんです」


 エルフの男の人に睨み返し、そのまま言葉を続ける。


「怒鳴るのは調べて見てから言った方がいいと思いますけど」

「こらこら稲穂〜、ごめんなさーい気の強い姉で〜」


 風がにこにことしながら私の腕を引っ張った。

 男の人は風が来たことに一瞬、面食らった後、フンッと鼻を鳴らす。


「面倒なお姉ちゃんを持ったようで」

「はあ?」


 私の腕を離して男の人を今度は風が睨みつける。

 周りの人たちのざわめきが聞こえてくる。

 まずい、私が間に入ったせいで余計に人目がついてきた…。


「喧嘩か?」

「人間とエルフか…」

「エルフはいちゃもんつけるのが好きだな」


 いつの間にか周囲に人が集まり、ざわめきが大きくなっていた。

 エルフの偏見が混じった声まで聞こえてくる。

 男の人もその声が聞こえていたのか、居心地の悪そうな顔をしだす。


「チケットが無くなったのは5年前なのにまだいちゃもんつけてるのは流石に時代についてけてなさすぎ!私の近所のお姉さんはもう慣れてますけど!」

「受付のお姉さん困らせたあげく、人の姉のこと言われる筋合いないんですけど?」


「あちゃぁ……」



 伊予先輩が額に手を当てる。

 周囲の視線も、だんだん男の人へ集まっていく。

 風の怒りが最高潮に達したあたりでエルフの男の人は、居心地の悪さを感じてきたらしい。

 視線を右に左にと泳がすと気まずそうな顔をする。


「う、うるさいな!!」


 とうとう耐えきれなくなったのか、男の人はそう吐き捨てて去っていった。


「そんなことしか言えむぐぐぐ…ッ!」

「そこまでだそこまで〜。風…これ以上煽る必要はないだろ」


 追い打ちをかけようとした風の口を、伊予先輩が後ろから塞ぐ。


 しばらく「むぐぐ」と暴れていた風も、やがて諦めたらしい。

 口を解放された途端、大きく息を吐いた。


「あーー!腹立つ!お姉さん気にしなくていいですからね!稲穂もね!」

「私は気にしてないわよ…お姉さんは大丈夫ですか?」


 ポカンとした顔をしていた受付のお姉さんが、ハッとして私たちに笑いかける。


「ありがとうございます!勇敢なお客様のおかげで、少し救われました」


 そう微笑むエルフのお姉さんはどこかホッとしている顔だった。

 お姉さんの安心した顔に、自然と笑みが溢れた。


「今度こそ!入るからな!」


 伊予先輩の痺れを切らした声に、申し訳なさを感じる。

 今度こそ、アルフヘイム資料館の中に、私たちは一歩足を踏み入れた。

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