2p.白刄──霧雨市
霧雨市。白刄の中心市にして、最も飴が降る街。
ちょうちん飴や花飴などなど…の元となった飴が降る。
昔─霧雨市でアルフヘイムから落ちてきたエルフの長がこう言った。
『霧のある街にて飴がやがて降り、白刄全体は飴の街となるだろう』
「…雨降り飴、ね」
「有名過ぎて地元民は買わないやつだな」
「……急な申し出なのにありがとうございます、伊予先輩」
「良いって、後輩のかわいい頼みだからな」
松山伊予。白刄高等学校3年生で、鳴海先輩の幼馴染。
私たちよりも小さい148センチなのに精神はめちゃくちゃ男前な人なのよねえ…。
菫色の髪をサイドテールに括っている女の子。
「ほら、お前たちが行きたがってたのはあれだろ?」
指を差した先には白刄にしかできない建物。
エルフが自分たちの姿をもっと知ってほしいと建てた、アルフヘイムを知れる空中都市。
「…これ正式名称あるんですか?」
「そのままアルフヘイムだぞ。ただ…雑貨とかがあるせいで俺たちはアレをスーパー・エルフって呼んでる」
「地元ならではですね…」
見上げたアルフヘイムは、空中都市らしく宙に浮いている。見上げた都市の底は苔やら土やらがついていていかにも地中からそのまま上に上げました。というような形だ。
「土とかは落ちてこないんですか?あんなについてるのに」
「全く無いな、生まれた時にはアレがあったけどまぁあんなもんだよ」
メモしとこう…。白刄の全体マップができそうね…。
自分の書いてあるノートの文字列を見る。
『アルフヘイム──エルフたちが昔住んでいた土地。数千年前…いつ頃から落ちたのかは歴史の研究者でも不明。
しかし、ある時に上から落ちてきたという、アルフヘイムの土地の下に住んでいた先祖の証言があることから間違いはないとされる。
現界にある、北欧と言われる土地の建物で作られており、住んでいたエルフ曰く、『神殿だ』とのこと。神殿とはなんなのか…。』
「神殿、って確か神様たちを祀るところですよね」
「ん?あぁ、そうだな。あの…椿神社の終様も神殿だな」
「ああ〜、終様…呪いの神様、でしたっけ」
「おう。祀られてる本神はただの酒呑だけどな」
霧雨市で特に信仰されてる神だからか、近所のおじさん扱い。これが実は神居の不思議なところらしい。
神居では神様がたくさん居る。それはもう、土の神様とひとくくりにするのではなく、どこの市の土の神様なのか。や、あの空の星の神様。などかなり具体的な位置、意味を持つ神様が多く居る。
……今のところ、人の皮膚に神様が生まれたという話は聞いたことはないけれど。
「さて、アルフヘイム行くか。風も戻ってきたしな」
「ごめんなさーい!トイレ行列で…」
「今日は特別イベントがあるんだよ」
「え、だから今日に指定したんですか?」
「そう。ついでに見てみるのも良いだろ?」
アルフヘイムの中に入るために伊予先輩が歩き出す。慌てて二人で追いかけながら、周りを見渡した。
他の市に行くことがあまり無いから、周りを見渡すだけでもかなり面白い。
例えば建物の色。
私たちが住んでいる場所は、祭雨市。だから降ってくるものも祭りに関わるものなんだよ、とは神居で学者をやっている父の言葉。
祭りっぽく、薄く赤い外壁に丸い窓や扉が多くある私たちの市とは違って霧雨市の建物はレンガで作られている。
「私、この建物本で見たことあるわ…」
「お父さんの書斎にあるやつ?」
「なんだ、稲穂は読書が好きなのか?」
風と伊予先輩に言われて、頷く。父の書斎には部屋を埋め尽くすほどの本があった。棚に入り切らずに床に散らばっているほどに。
「…昔から、本を読むのが好きだったんです。だって、本の世界ってとっても魅力的なものが多くて…」
「私も読むの好き〜!ふふ」
風の言葉に口元が緩む。そうよね、ふふ、だって風が最初に本を見せてきたんだもの。
街を歩く人たちの中には、ケモミミが生えた獣人やこの間見た笠小僧のような妖怪。
エルフ、人間が混ざってカフェで飲み物を飲んだり、車を運転していたり、横断歩道で立ち止まったりと様々だ。
私たちも同じように赤信号で止まる。赤信号を見てふと、父の言葉を思い出す。
赤は呪いの色──。
私たちが生まれる前にそういった言説が生まれたらしい。人々は赤を嫌悪した。
赤い外壁である祭雨市はだれも住まなくなる程には。
飴が降る。
「…おっと、傘はあるか?」
「はい、もちろん」
この地に来るからには必須の、傘を開く。ただの布なのに飴という固いものが落ちても穴が開くなんてことはない、加工された不思議な傘。作成者は傘の神様だとか噂の話だ。
横断歩道をわたりきりアルフヘイムの入り口に、エレベーター代わりのペガサスが5体いる。
その横には透明な道が一つ。
「ああ、この上を通るんですね」
「まあどこにでもあるよなぁ」
左右に柵がかけられた橋のように上へと架けられた道。
「今回はアレに乗るぞ」
「ペガサスエレベーターですか」
「エレベーターというより運び屋だけどな」
「うちの近くにもいるよね!」
「そうねえ…同じ運び屋でもうちのは引越し業者だけどね」
ペガサスの背中に10人は入る乗り物が一つ。まるでアトラクションのようなペガサスの背中にある乗り物に入る。
「アルフヘイムの中はスーパーなんですよね?」
「まあ神秘御用達の商人の巣窟だよ」
「じゃあ、エルフが作ったイヤリングとかもあるわけですね」
「魔術で作りました!耳につければどんな悪いものも寄せ付けません!みたいなやつね」
ペガサスに乗りながらそんな話をする。中はバスの席のように手前に一人用、奥に二人用の椅子が6個ほど並べられている。
「バス乗せて飛ぶペガサスってすごいよねえ、人間の重さに耐えれるんだもん」
「乗るのは人間だけじゃないしなぁ」
【アルフヘイム行き、参ります。席にしっかり捕まっていてください】
幻想生物らしい、キラキラとした声…なんと言えばいいのだろう。脳内に響くような感じのアナウンスをペガサス本人がする。
【本日担当させていただきます。種族ペガサスの、サーストと言います。喉の渇きなんて言いますが、ペガサスは食べなくても生きていけますのでどうぞよろしくお願いします】
何がよろしくなのかはわからないが、お客さんの数名がくすくすと笑っているのを見るにウケているらしい。
胸の奥が空くような浮遊感。肩が揺れて、身体が浮く。羽ばたかせる羽の音が一回、二回、三回聞こえると跳躍するように大きな馬が空を駆けた。
空から見る白刄は、どこか白い建物が多い。名前の通り、白い神殿から白いビル、家、公園までもが真っ白だ。それからなぜか屋根は全て白で統一されている。
今でも白い街と言われるほどに。
────この地は、白刄。
昔は馬族が住んでいた。ペガサス、バイコーン、ユニコーン、ケンタウロス、本当にただの馬まで。白い馬が多く住んでいた。
アルフヘイムが落ちてからはエルフの街と呼ばれているが、元々はこう呼ばれていた。
白刄──白馬。と。




